その“1”を持つカメラは、1971年発売のフィルムMF一眼レフ「キヤノンF-1」に始まり、1981年の「キヤノンNew F-1」が2世代目となります。1989年の「EOS-1/EOS-1 HS」はAFになって初めての“1”。デジタル一眼レフとしては、2001年の「EOS-1D」が初号モデルで、2020年発売の「EOS-1D X Mark III」は現行モデルとなります(1995年にコダックとの協業で発売したデジタル一眼レフ「EOS DCS1」も忘れてはならないでしょう)。いずれも時代時代で最高のスペックを誇り、多くのプロカメラマン、写真家、アドバンスドアマチュアなどのよき右腕となっています。このたび、待望のEOS Rシステムの“1”が発表されました。言うまでもなく、その名は「EOS R1」となります。
ローリングシャッターゆがみは気にならない
まずは、EOS R1のキーデバイスを見てみることにしましょう。イメージセンサーは有効2400万画素の裏面照射積層CMOSセンサー。画素数に関しては、先般レビューした「EOS R5 Mark II」の4500万画素には遠く及ばず、あれれと思う方もいらっしゃるかと思いますが、本モデルの存在意義がそこにはあります。
2400万画素であればデータはその分軽く、カメラ内部での画像データの記録のほか、外部へのデータ転送など有利。しかも、イメージセンサー内部にあるフォトダイオードの集光効率が4500万画素に比べて高く、高感度でも高画質を維持できることもあります。撮影した画像をオフセット印刷などの原稿とした場合、A3ほどのサイズであれば、この画素数(解像度)でも問題になることはありません。
プロの使用環境の話とはなってしまいましたが、2400万画素は現時点でハンドリングと解像度のバランスが取れた使い勝手のよい画素数といえます。ちなみに、裏面照射積層CMOSセンサーの“積層”とは、裏面照射型イメージセンサーの配線部分をフォトダイオードの周囲に配置するのではなく、フォトダイオードの裏面と基板の間に入れたもの。そのため集光効率がより高く、階調再現性や高感度特性などで有利になります。
映像エンジンは「EOS R5 Mark II」と同じで、高速の画像処理を行う従来の「DIGIC X」に加えて「DIGIC Accelerator」を搭載。これらのシステムを総称して「Accelerator Capture」と呼ぶのも同じです。画素数がEOS R5 Mark IIの約半分ですので、その分効率よく大量の画像データの解析や高速のAF処理、AE検出などを行います。また、トラッキングや被写体認識AF、あらかじめ人物の顔をカメラに読み込ませておくと、その人物を優先して検出する登場人物優先なども、このAccelerator Captureは貢献しています。
スペック的なものとしては、まず最高40コマ/秒の連続撮影が挙げられます。これは、本モデルのデフォルトのシャッター方式である電子シャッターによる数値で、動く被写体の撮影では都合のよいものであるとともに、決定的な瞬間を逃すことはないと述べても過言ではないでしょう。ちなみに、メカシャッターおよび電子先幕シャッターでは12コマ/秒となります。
最高シャッター速度については、電子シャッターでシャッター速度優先AE(Tv)とマニュアル(M)選択時に限定されますが、1/64000秒を達成。晴天の屋外で大口径レンズの絞り全開での撮影が楽しめます。
電子シャッターで気になるローリングシャッターゆがみは、メーカーの情報ではEOS-1D X Mark IIIのメカシャッター撮影時と同等とのこと。実用上問題になるようなことはないと思われます。今回作例の撮影は、すべて電子シャッターを選択し、サッカーや鉄道など動く被写体にも積極的にカメラを向けてみましたが、ローリングシャッターゆがみらしいものは見受けられませんでした。電子シャッターを選択すると、連続撮影の場合ブラックアウトフリー撮影機能や、シャッター全押しした瞬間から20コマ分さかのぼって記録する静止画プリ連続撮影機能の使用なども可能となるのも特徴で、撮影を強力にサポートしますので使わない手はないでしょう。また、電子シャッターは機械的に動く部分がないので、シャッター機構など耐久性を気にしなくてよいのもメリット。EOS R5 Mark IIもそうであるように、おそらく今後電子シャッターがEOS Rシステムすべてでデフォルトのシャッター方式となるように思われます。
AFについては、こちらもEOS R5 Mark IIと同じ「デュアルピクセル Intelligent AF」を採用。なかでも、強化されたトラッキング機能は、動く被写体を撮影する際とても便利です。
被写体認識機能である「検出する被写体」の充実も忘れてはならないところです。搭載するモードは人物/動物優先/乗り物優先の3つ。「人物」は瞳/顔/頭部/胴体/上半身に、「動物優先」は犬/猫/鳥/馬に、「乗り物優先」はモータースポーツ(クルマ、バイク)/鉄道/飛行機に対応。作例の撮影では、「人物」でサッカーを、「動物優先」で競馬を、「乗り物優先」で鉄道と航空機を狙ってみましたが、それぞれ動く被写体であるにもかかわらず捕捉精度は高く実用的でした。また、いずれも連続撮影時にファインダー画像がブラックアウトしないブラックアウトフリー撮影機能と合わせて使いましたが、動き回る被写体がカメラで追いやすく感じました。
サッカーの作例撮影では、一部「アクション優先」も使用。これはサッカー、バスケットボール、バレーボールの3つのスポーツを対象に、それぞれの持つ特有の動きをする人物をカメラが瞬時に認識し、AFフレームがその人物に移動するものです。もちろんモードは「サッカー」を選びましたが、画面のなかにプレイヤーが複数いてもドリブルしているプレーヤーにしっかりとピントを合わせることには驚きました。なお、アクション優先は電子シャッターの時のみ有効で、「検出する被写体」を「人物」に設定しておく必要があります。
登録した人物の顔にカメラが自動的にピントを合わせる「登録人物優先」も搭載されています。人物の登録方法も簡単で、新たに撮影して登録する方法と、メモリーカード内の画像から人物を登録する方法を選ぶことができます。登録は最大10人まで可能で、優先順位も設定できるのも便利に思えます。登録した人物を捕捉する精度は高く、アイディア次第でいろいろと使えそうに思える機能です。
カメラ内アップスケーリングやブレ・ボケ画像判定も搭載
そのほかの機能として忘れてはならないのが、「カメラ内アップスケーリング」。EOS R5 Mark IIにも搭載されている機能ですが、それよりも画素数の少ない本モデルではより実用的に思えます。縦横の画素数はそれぞれオリジナルの2倍となり、2400万画素の画像が9600万画素の画像に。単純に画素数を増やしただけであれば、ジャギーが目立つようになるだけで解像感の向上は期待できませんが、本機能は独自のディープラーニング技術を用いた補間処理を行い、解像感を向上させています。イメージセンサーを微動させ同時に複数回のシャッターを切り高解像度の画像を得る機能と異なり、本機能は記録されている画像(JPEGまたはHEIF)に対して処理を行うため、どのような被写体でも対応できるのが強みです。単にパソコンでの閲覧だけでなく、インクジェットプリンターでプリントを行う時も効果的ですので、お気に入りの画像は撮影後にこの処理を行なってから、パソコンやHDDなどに保存するとよいでしょう。
ユニークに思えたのが「ブレ・ボケ画像判定」。その名のとおり、ブレとボケの発生を自動的にカメラが確認するもので、緩め/標準/厳しめの3つのレベルから選んで行います。
今回作例撮影では、さまざまな被写体をEOS R1で撮影しましたが、とても快適で撮影に集中できました。特に、動体撮影では電子シャッターでの40コマ/秒の連続撮影に加え、シャッター機構による振動の発生がなく、ブラックアウトフリー機能により被写体が追いやすく思えます。さらにトラッキング機能や被写体認識機能、視線入力、アクション優先機能などにより動体の撮影でもピントを大きく外すことはなく、写真が上手くなったような気分にしてくれるほどです。露出なども含め失敗の許されない撮影では、きっと心強い味方となることでしょう。何度も記していますが、映像エンジンやAF関連の機能などはEOS R5 Mark IIと同じですが、撮影時の信頼感や安心感といったものは本モデルが凌いでいますし、フラグシップらしいキレのよい操作感は撮影していてとても心地よいものです。
ユーザー側に与えられた課題としては、搭載する機能を理解し、撮影条件や被写体などに合わせて正しく使用(設定)できるか否かかもしれません。素晴らしい機能が搭載されていても、使わなかったり、使っても間違った設定をしてたり、あるいは使い方を理解していないと意味をなさないからです。
著者 : 大浦タケシ おおうらたけし 宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマンやデザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌および一般紙、Web媒体を中心に多方面で活動を行う。日本写真家協会(JPS)会員。 この著者の記事一覧はこちら