○相掛かりの力戦形
ひざを痛めている渡辺九段からの事前の要望で椅子対局となった本局。特別対局室での椅子対局はこの前週の渡辺九段ー広瀬章人九段戦(竜王戦)に続いてのこと。後手となった渡辺九段はひねった作戦を用意していました。先手に飛車先の歩交換を許す代わりに右銀の活用を急いだのがそれで、研究勝負になりがちな定跡形を避けようとする意図が見て取れます。
先手の千田八段が棒銀の要領で先攻を見せたのに対し渡辺九段は右銀を4筋に上げてバランスを維持。そして局面が一段落と見るや否や攻勢に転じます。相手の手に乗って右銀を6筋に組み替えたのは早繰り銀を応用した柔軟な反撃。形勢はまだまだ互角ながら、手順に銀交換に持ち込んで先手の玉型を乱すことに成功しました。
○ファンびっくりの終幕
夕食休憩が明けたころから異変が生じます。考慮に沈む千田八段を尻目に渡辺九段は遠くを眺めたり目をつむったりする仕草が目立ち始め、盤上に集中している様子ではありません。
中継カメラには痛みに苦しむ渡辺九段とこれを気遣う千田八段の姿が映り、観戦していたファンはそれぞれ「お大事に」「気配りのできる素敵な棋士」と労いの言葉をかけました。局後SNSを更新した渡辺九段は「手術の日を待って、それから復帰へ向けて頑張るしかありません。」と複雑な思いを明かしています。
水留啓(将棋情報局)