「行動することが大事」とわかっていても実際にはなかなか動き出せない、という方は意外と多いのではないでしょうか? 行動力がないと悩んでいる人には、行動を制限してしまう、共通する5つのメンタルブロックがあるといいます。一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事の有山徹さんの著書『なぜ働く? 誰と働く? いつまで働く? 限られた人生で後悔ない仕事をするための20の心得』(アスコム)より、一部をご紹介します。


○(1)いい大人だから一人で考えないといけない

自分で考えて決めないとダメ、というのは結構ありがちな思い込みです。多くは人との出会いや会話を通じてなんらかのきっかけをつかんでいます。

20年勤めた会社で今後に悩んだAさんは、副業が解禁になったところですぐ友人に相談しました。子どもの教育に関わりたいと思っていたため、幼児教育に携わっている友人に「何か一緒にできない?」と話をしてみたそうです。

すると、その友人の知り合いがちょうど幼児教育の会社を立ち上げるところで、Aさんを紹介してくれました。その結果、興味のある領域の副業を開始できたといいます。

また、かつてAさんが転職をしたときにも、親しい友人に自分の状況を相談する中でキャリアコンサルタントを紹介してもらったそうです。

誰かに相談するときは自分の意思や意見がないといけないとか、恥ずかしいとか思ってしまいませんか?

でも実際にはそんなことはなくて、わからないとか、悩んでいることを素直に打ち明けてみると、意外とスルスルと悩みがクリアになるものです。

家族や友人に「ちょっと聞いてくれない?」といって話をしてもいいし、あえて利害関係のない人に聞いてもらってもいいでしょう。
○(2)なるべく多くの情報を精査しないといけない

これも、非常にありがちな思い込みです。今の時代、情報はいくらでも集められますから、後悔したくないと思えば思うほど、調べることに熱中してしまいますよね。商品一つ買うにしても、レビューを読んだり紹介動画を見たり、Xで感想を調べてみたり。
そうこうしているうちに他の商品が気になったりして、結局買わない……なんてこともあります。

もう一つこんな報告もあります。

オランダにあるラドバウド大学の心理学者ダイクスターハウスが行った実験では、熟考したグループと短時間で決めたグループとでは、短時間グループのほうが正答率が高かったそうです。

少し端折って紹介しますが、実験は4台の中古車から当たりの1台を選ぶものと、サッカーの試合の勝敗を当てるものと2種類で行われました。

どうして短時間しか考えられないグループのほうが、正答率が高かったのでしょうか? それは、時間が限られているぶん、情報に優先順位をつけて合理的に考えられたからだといいます。中古車の細々した機能や状態をアレコレと検討するより、「結局、燃費がいいほうがいいよね」とシンプルに考えたほうがよかったわけです。

調べてばかりで行動できないことがよくある人は、「情報が多いほどいい答えが出るとは限らない」認識を持って、少しずつ自分のクセをなくしていきましょう。
○(3)自分には"特別"な価値がない

初めて会う人に自分からアポイントを入れようとするとき、躊躇してしまうことがあります。「自分なんかが会っていいのか」「一方的に相手の時間を奪うなんて気がひける」といった心理が働くからです。自分は会えたら嬉しいけれど、こちらからは提供できる価値がないような気がしてしまいます。

たしかに、最近はオンラインで初めて出会って、「今度は食事でも」なんて社交辞令的に言ったとしても、実際に誘うとなるとハードルがありますよね。

私も、今一緒にプロティアン・キャリア協会で代表理事をしている法政大学の田中研之輔先生に初めて会ったときは、一方的に名刺交換しに行って、一方的にメールをしました。
こちらは無名でなんの実績もない状態でしたから、「相手にされるわけがないけど、プロティアンに共感したからダメもとで連絡してみよう」と思い切って連絡しました。でも実際には返事をいただいて、こうして一緒に事業をやっているわけですから、結局やってみないとわからないものだなと自分でも実感があります。

今でも、何か一緒にできそうだと思ったら、著名人にもDMやメールを送ってみることはあります。先日は、ある有名俳優がキャリア支援の会社を立ち上げたという記事を見て、その方のインスタグラムに「キャリアの普及を一緒にできないか」とダメもとでメッセージを送ってみました。このときは返事がありませんでしたが(笑)、もちろん、なんのレスポンスもないことのほうが多いわけです。相手の立場や忙しさを考えたら、そんなものですよね。

これだけだとあんまり参考にならないと思うので、初対面で会うときの心構えをいくつかお伝えします。
まず、自分には何もないと思ったとしても、「なぜ会いたいのか」を伝えることはできるはずですし、「教えてほしいことがある」というのも立派な理由です。会えば相手の質問に何か答えられることもあるでしょうから、まずは率直に、なぜ会いたいのかを伝えてみたらいいのではないでしょうか。
○(4)失敗が怖い

行動力がない人でも、行動できるものはありますよね。晩ご飯の買い出しに行ったり、コンビニでおやつを選んだりすることは、当たり前にできるはずです。なかなか行動できないのは、失敗したら取り返しがつかないことです。
たとえば40代、50代になって、子どももいるのに思い切って独立できるかというと、ほとんどの人が躊躇すると思います。

失敗が怖い人に、「心配ない」「やってみないとわからない」といくら声援を送っても、おそらく無意味です。まわりの人は責任を取れませんから、むやみに勧められないし、他人の心を変えるのは相当に難しいことだと思います。

ただ、一つ考えてみてほしいのは、「何もしないことも失敗ではないのか?」ということです。

もし失敗ではないと思うのなら、何もしなくても「行動できない」と悩む必要はなくなります。

一方で、何もしないことを失敗だと思うのなら、あなたが本当に恐れている失敗とは何なのでしょうか?

独立して収入を失い、結局再就職するのが失敗なのか。無職になって家族とも別れるくらいまでになったら失敗なのか。それとも、何も行動せずに、「あのとき独立していたら」と後悔しながら生きるのが失敗なのか。

最悪のケースを想定して、それを受け入れてみると、行動する勇気が少し出てくるかもしれません。たとえば、独立して何かあっても再就職すれば失敗じゃないと思えるのなら、コンビニでおやつを選ぶのと同じ「簡単な行動」に、ちょっとだけ近づく気がしませんか。
○(5)本当にやる意味があるかわからない

「やせなくちゃ」と思うものの、結局ダイエットができないようなことはよくあります。自分は意志が弱いとか、だらしがないとガッカリしてしまいますよね。


仕事でも同じで、「この業務フローはムダが多いから改善したほうがいい」などと考えるものの、実際には仕事は回るので結局やらない、とか。

こういう場合に「自分は口ばかりで実行力がない」と評価してしまいがちですが、ちょっと待ってください。本当は「やせる必要はない」と思っているし、「業務フローをわざわざ変えなくてもいい」と思っているのではないでしょうか?

まわりの意見を気にしたり客観的に考えたりして「やらないと」と言ったとしても、主観的には「本当にやる意味があるかわからない」ことは、よくあります。

なんとなく話の流れで「夏休みは何するの?」と聞かれて「うーん、海外旅行かな」などと答えたものの、実際には行かない。これは面倒だからではなくて「別に行きたくない」からですよね。

「自分は口ばかりで行動できない」と自己評価を下げてしまうクセがある人は、まずここをはっきりさせましょう。心からやらなくていいと思うことは、やらないでいいのではないでしょうか。

問題は、やりたいのかどうか自分でもよくわからないときです。

これは、自己理解が足りない証拠です。「ダイエットがしたい」の手前に「ダイエットしたほうがいいかどうかわからない」という動機の問題があります。

そうであれば「ダイエットしようと思うんだけど、どうしたらいいかわからない」と誰かに話してみたらどうでしょうか。それが行動する、ということで構わないと思います。


何度も言いますが、自分一人で考えることには限界があります。だから行動して、自分の解像度を上げていくのです。

『なぜ働く? 誰と働く? いつまで働く? 限られた人生で後悔ない仕事をするための20の心得』(アスコム/1,650円)

「人生の解像度」を上げる、考え方のヒントが満載の本。
「何を」するかよりも、「どこで」働くかよりも大切なのはあなたが「何のために」「誰と一緒に」「いつまで」働くか。
これからの人生を充実させる、あなただけの正解の見つけ方を、これまでに約30万人・200社以上の企業が学んだ今注目の「プロティアン・キャリア理論」をもとに解説している。

有山 徹(ありやま・とおる)
一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事。4designs代表取締役CEO/founder、国家資格キャリアコンサルタント。早稲田大学MBA。国家資格中小企業診断士。
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