いま、どこの業界も「人手不足」が喫緊の課題。人が足りなければ、サービスの拡張もままならない。
しかし、もしサービスの利用者がメンテナンスなどの一部を手伝ってくれるとしたら――?

そんな夢みたいな話を実現してしまった企業がある。それがコンビニジムとして注目を集める「chocoZAP(チョコザップ)」だ。拡大を続ける同社の「お客様共創モデル」は、どのようにして生まれたのだろう? 担当者に話を聞いた。

■どんなサービスになっている?

チョコザップでは、志願した一般会員が運営の一部を手伝う「お客様共創モデル」を2022年10月より導入している。2025年1月20日時点で、清掃や備品補充などの簡単な活動を行う『フレンドリー会員』には3万2,620人が登録中。またマシンの不具合や修繕活動を行う『セルフメンテナンス会員』には6,332人が登録している。

フレンドリー会員の活動頻度は週1回(月4回以上)か週2回(月8回以上)の2パターンあり、活動頻度に応じて会費を割り引いている。またセルフメンテナンス会員の活動内容は難易度別に3段階あり、レベルに応じてギフト券を進呈している。

RIZAP 執行役員でchocoZAP事業責任者の村橋和樹氏は「全国のお客様のご協力により、サービスの運営が非常に助かっております」と改めて感謝の言葉を口にする。

「お住まいの近くのチョコザップに愛着を持っていただき、丁寧にお掃除してくださるお客様が数多くいらっしゃいます。また会員の方々の中には、トレーニング機器に詳しい方もたくさんおり、マシンのトラブルにいち早く対応いただいております」(村橋氏)
■「共創モデル」のメリット

実は、チョコザップではサービスの開始当初から「マシンの故障対応」に苦慮してきた。2022年7月にフリーダイヤルのサポートセンターを開設したが、まず対応件数に限界があった。
そして電話口の説明では故障の原因まで特定できないことも多かった。

「サポートセンターもマシンの専門家ばかりではありません。異音がする、と言われてもマシンのどこで不具合が起きているのかわからない。そして故障のパターンにもさまざまあります。どんな壊れ方をしているのか、それにより必要な部品は全く違ってくる。当時は、とにかく業者に現地まで飛んでもらっていたのですが、いざマシンを見てみたら駆動箇所にスプレーを吹きかけるだけで直る程度の故障だった、なんてこともザラにあったんです……」と苦笑いする。

2023年9月から「故障カード」に記入する方法を採用したが、報告漏れ、タイムラグの発生など課題の改善とまでは至らなかった。2024年11月にはQRコードによる連絡手段を導入。不具合・故障のあったマシンに記載のQRコードで申告してもらうことで、検知速度・報告の質が向上した。

「私たちも経験を重ねてきたことで、最近では、そのマシンならどんな故障・不具合が起こり得るか、というデータも蓄積できました。そこで現在では、まずはQRコードで申告いただいて『この内容であれば業者でなくても対応できる』と判断できたときはセルフメンテナンス会員さんに対応いただく、という方法をとっています」

いまのやり方なら故障期間が最短で済む、良い形が作れたと自負している、と村橋氏。

コスト(人件費)の削減、という側面でも大きな効果があった。


「例えば清掃業者にお願いするとき、仮に1回1時間の清掃で3,000~4,000円かかり、月に8~10回程度、それが全国に約1,800店舗あることを考えると、清掃にかかる費用のおおよそが見えてきます。でもフレンドリー会員様にご協力いただくことで、大幅なコストカットになります。いま同会員様の活動頻度も増加しておりますし、これが私たちにとって、とてつもない大きなコストメリットになっており、それによってお客様へのリーズナブルな価格でのサービス提供が実現できています。

チョコザップでは月額2,980円で続けられるサービス、というところを大事にしています。でも運営にコストがかかると、会費に上乗せせざるを得なくなってくる。サービスをより良い形で継続していくには、この先も会員様によるサポート制度をしっかり育てていくことが大事になると考えています」
■「質の担保」など課題も残る

そもそも、どんなきっかけで「お客様共創モデル」は始まったのだろう? そんな問いかけに、村橋氏は「はじめにアイデアが出てきたときは『まずやってみよう』という感じでした。正直、このやり方でここまで成長できるとは思っていませんでした」と振り返る。

「本当に1人の社員から出た『こうしたら良いんじゃないか』という突飛なアイデアが元になっています。店舗を増やせば増やすほど、清掃や補修などにかかるコストが膨らむのは目に見えていました。でも、それをお客様の会費に転嫁せざるを得ない状況になることは避けたかった。そこで(この共創モデルを)社長に話を通したときに『やってみよう』とGoサインが出て、そこからの展開は早かったです」

サービスを開始してみて、改めて見えてきた課題もある。ひとつは、品質をどう担保するのか、という問題だ。


「お客様には『お仕事』というよりは『活動を協力』いただいている形に近いため、どこまで活動の品質を担保できるのか、これは現時点でも課題と認識しています」と、村橋氏。そして、新しくオープンしたばかりの店舗等は、フレンドリー会員の数が足りないこともある、と話す。現在のところ、例えば週1回は業者、それ以外はフレンドリー会員に入ってもらう、というような形で対応しているケースもあるという。

このほか「あくまでも、お客様が店舗に行ったときに"ついで"として活動していただくことを想定していますので、突発的なことで施設が汚れてしまい、すぐに大きな清掃が必要になったときも『清掃のために施設に向かってください』というような依頼は出せません」と村橋氏。では24時間、店舗を快適な状態に維持するにはどうしたら良いのだろうか――。社内でもこの議論は続いている、と話す。

「今後は新しい技術なども取り入れることで、フレンドリー会員様、セルフメテナンス会員様の活動の質もいま以上に向上していけたら。そんなところも含め、会員の皆様と一緒に考えていけたら良いなと思っています」

ところで会員IDにひもづいた"評判"、あるいはランク付けのようなことはしないのだろうか?

そんな問いかけには「検討したことはあります。いま出前・宅配サービスなどでも、配達員の方々に星を付けたりしているのかなと思うんです。でも難しいのが、その活動をいつ誰が評価するか、という部分です。仮にその方が活動したとして、その5分後に外からの突風で砂ぼこりが大量に入ってしまった、何かのハプニングで汚れてしまった、そんな状況も考えられます。その場に社員がいて、清掃いただいた箇所をチェックして、その場で『星5つです』と評価するようなシステムでないと、なかなか難しい。
ただ、頑張っている方をたたえたい、インセンティブをご用意したい、という思いはずっとありますので、今後もやり方を模索していきます」と話した。
■ロイヤリティ向上にもつながる?

フレンドリー会員、セルフメンテナンス会員の男女比や年齢層などについて聞いた。村橋氏によれば、チョコザップの会員全体では男性の方が若干多いくらいだが、フレンドリー会員に限ると女性の方が多いという。

一方でメンテナンス会員は、マシンに強い人が求められる性質も影響しているのか、男性が6割ほど。年代別に見てみると、チョコザップ会員は20~40代が半分以上を占めているが、フレンドリー会員に限ると40~50代が半分以上を占めている。

村橋氏は「子育てが一段落した40~50代の女性の方から『フレンドリー会員の活動を通して、社会との新たな接点ができました。それが楽しく、生きがいにつながっています』といった非常にうれしいお声をいただくことも多いんです」と、本モデルがロイヤリティ向上にもつながっている様子をうかがわせた。

■"体も心も元気になる"取り組みへ

最後に、今後の取り組みについて聞いた。

「ご利用者の方からすると、自分の隙間時間を使ってお手軽に通うことができる、またフレンドリー会員のような活動を通じて(体だけでなく)心も元気になることができる、そんな場所にしていきたい思いがあります。私たちもこの事業モデルを通じて、働き手が不足している地域にもサービスを展開し、継続的に事業運営していけるよう、今後も『お客様共創モデル』をさらに進化させていきたい。お客様と一緒に、この価格感でサービスを作っていく、そんなところを大事にしていきます」

近藤謙太郎 こんどうけんたろう 1977年生まれ、早稲田大学卒業。出版社勤務を経て、フリーランスとして独立。
通信業界やデジタル業界を中心に活動しており、最近はスポーツ分野やヘルスケア分野にも出没するように。日本各地、遠方の取材も大好き。趣味はカメラ、旅行、楽器の演奏など。動画の撮影と編集も楽しくなってきた。 この著者の記事一覧はこちら
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