●“優しく強く”を意識「人間性がお芝居にもにじみ出る」
2歳で芸能界入りし、第一線で活躍し続けている女優・安達祐実(43)。現在放送中のNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』で吉原の女郎屋・大黒屋の女将・りつ役を好演中だが、2月27日からはAmazonオーディブルで安達が朗読を担当した『霧をはらう』が配信開始された。
43歳にして芸歴42年を誇る安達にインタビューし、今の仕事に対する思いやこれまでの転機、今後の抱負など話を聞いた。

――40年以上活動されていますが、今のお仕事に対する思いをお聞かせください。

年々自由になってくるというか、年齢も上がってキャリアも長くなってくると、自由にやっていいよと言われることが多くなって、より遊び心を出せる部分が広がったので、すごく楽しくなりました。

――今回朗読を担当された小説『霧をはらう』(雫井脩介著)は、小児病棟で起きた点滴殺傷事件で物証がないまま逮捕された母親が勝算のない裁判に挑む物語ですが、収録の際に何か自分から提案したことなどありましたか?

詳しくお話してから始めるということはなかったですが、1回やってみて「それでいいですよ」と言っていただいたり、あとは、場面場面で「抑揚をはっきりつけていきましょう」と指示をいただいたりしながらやりました。

――第一線で活躍し続ける秘訣や活動していく上で大切にしていることをお聞かせください。

もちろんお芝居がうまくなりたいというのはずっとありますが、それは当たり前のこととして、結局は人と人だなと。自分がどういう人間であるかということがすごく重要で、私の人間性がお芝居にもにじみ出ると思うので、どう生きるかというのは意識しています。

――どう生きていきたいと考えていますか?

若い頃からあまり変わっていないのですが、優しくて強い人間です。あとは、謙虚な気持ちを忘れずに、ということは年の初めにいつも思います。

――強さという点では、安達さんはいつも落ち着いている印象で、心の強さを感じます。

常に落ち着いているというのはよく言われます。子供の頃からそうだったみたいで、「お地蔵さんみたい」「動じない」とずっと言われています(笑)。
確かにテンションの浮き沈みがあまりなく、子供たちにも「ママって強いよね」「クールだよね」と言われます。

――そう見えるだけということではなく、実際に心も落ち着いているんですね。

内面も落ち着いていると思います。慌てるといい結果を生み出さないような気がしていて、ネガティブな方向で感情的になることはないです。細々したことでは焦りますけど。洗濯して銀行も行って、あれもこれもやらなきゃいけないことがあると、全部できるかなって。

――たくましいです! 小さい頃から芸能界で活動されてきたというのも影響しているのでしょうか。

そうかもしれないですね。いろんな方とお仕事してきましたし、昔は怒る方もたくさんいて、怒って押さえつけると嫌なものしか生まれないなと子供の頃から思っていました。

子供の存在が「自分を強くしている」 母親役に説得力も

――年齢を重ねてきて変わった部分はありますか?

昔の方が自分にもめちゃくちゃ厳しくて、同じことを他人にも求めるというか、自分の基準であの人はこういう感じなのかなと決めつけていた部分がありましたが、今はほとんどのことは気にならなくなりました(笑)

――何かきっかけがあったのでしょうか。

仕事をするにしても何をするにしても楽しいほうがいいなと。経験や年齢を重ねてきて、大変な現場でも、どうせ大変なんだったら楽しい瞬間が多い方がいいと思うようになり、自分のマインドの切り替えが簡単になっていきました。

――何歳頃からそういう風に?

30代に入ってからだと思います。
10代の頃から、人に優しく、その分、自分は強くいなきゃと思っていたんですけど、気が付いたら、優しく強くというより、適当になっていました(笑)。「やることをしっかりやっておけば、あとは適当でも大丈夫か!」みたいな感じです。

――いい意味での適当ですね!

そうですね。萎縮すると本来その人が持っている能力も出し切れないことになると思うので、みんながのびのびやれる環境を作れたらいいなと。年齢が上がると、自分の持っている雰囲気で現場の雰囲気を変えられるようになってくるので、そう思うようになりました。

――プライベートでは2児の母親で、18歳の娘さんと8歳の息子さんを育てられていますが、母親になって変わったこともお聞かせください。

ずっと童顔だと言われてきて、若い頃は母親役を演じると「母親に見えない」と言われることが多かったんです。でも子供が生まれてから、「私は実際に母親だから、母親役をやってもおかしくないでしょ」と母親役をやることに自分で説得力を持てるようになり、それはすごく大きかったです。あと、子供がいると日常が楽しいですよね。面白いなと思うこともたくさんあるし、華やかです。

――子供の頃からあまり動じない性格とのことですが、お子さんが生まれて精神的な部分で何か変化はありましたか?

ママのことが大好きという愛情をいつも感じていて、それが自分を強くしているというか、安心させてくれているなと感じます。

2度目の結婚で「自分は自分でいればいい」と思えるように

――母親になられたのも大きな転機だと思いますが、ほかにもご自身にとって転機だったなと感じていることがありましたら教えてください。

2度目の結婚は、私を変えてくれた転機だと思っています。
子供の頃からみんなに見守ってもらっているような感覚で、いい子でいなきゃいけないとずっと思っていましたが、33歳で2度目の結婚をしたときに、自分は自分でいればいいという気楽さを手に入れた感じがしました。

――自分は自分でいればいいと思えたというところを、詳しく教えてください。

そのときの旦那さんの存在によって、相手の望む自分にならなくていいというか、自分は自分を生きていれば、それを認めてくれる人も、受け入れてくれる人もいるということに気づかせてもらって。そこから、自分らしくいるようにしたら、友達も増えていったというか、人との関係性も良くなっていった感じがします。

――「そのままでいいんだよ」みたいな言葉をかけてもらったのでしょうか。

そういうわけではなくて、この人は私に何も期待してないんだなというか、私が私であるだけで、それ以上でも以下でもないと感じて、楽だなと思いました。

――それ以降、ほかの人とも素の自分で接することができるようになったんですね。

そうですね。人と関わるときに、まずこちらから心を開くようになった気がします。

舞台で見出した希望「まだ伸びることができるんだ」

――今後の抱負もお聞かせください。

ここ5年ぐらい舞台ともっと向き合いたいと思っています。ドラマ出身なのでドラマ、映像が大好きで、舞台は苦手だなと思ってしばらく遠ざけていた時期もあったんですけど、舞台のことをよく知らないのに苦手だなと思ってやらないのは逃げじゃないかと。
4~5年前から年1本ぐらいやらせてもらうようになったんですけど、できないことが多すぎて、それがうれしいみたいな(笑)。できないことがあるということは、まだ伸びることができるんだという希望を見出してしまった感じです。

――どんなことができるようになりたいと思って舞台と向き合っていますか?

具体的にはないんですけど、舞台に立つことがやみつきになっている俳優さんがたくさんいらっしゃって、やみつきになるほどの舞台の魅力を知りたいと思ったり。あと、昔は客席にお尻を向けちゃいけないと言われていましたが、最近私がやらせてもらっている舞台はリアルに近くて自由で、その中で本当の感情を見つけ出していく作業がすごく楽しいです。それが毎回できるわけではなく、できるときとできないときの差はなんだろうとか、自分の心の持っていきようを研究・解明しようとしています。

――成長意欲が素晴らしいですね。

止まってしまうのは寂しいので、まだ伸ばせるのであれば伸ばしていけたらなと思います(笑)

――その原動力は、お芝居が好きという思いでしょうか?

たぶん好きなんですかね。好きなのかどうかもあまり意識しないでやってきていて、ほかのことよりは得意だったというだけなのかなと思ったり(笑)。でも楽しいと思ってやっているので、これからも変わらず楽しんでやっていけたらと思います。

■安達祐実
1981年9月14日生まれ。東京都出身。2歳からキッズモデルとして活動を始め、94年の日本テレビ系ドラマ『家なき子』で本格的にブレイク。
同作品の台詞は、新語・流行語大賞にも選ばれるなど社会現象となった。以降も幅広い役をこなす実力派俳優として数々のドラマ、映画に出演する他、ファッションブランドのプロデュース等、活動は多岐に渡る。
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