近年、従業員のメンタルヘルス対策に力を入れる企業が増えている一方、若手社員のメンタル不調はむしろ増えているという調査結果がある。多くの新卒社員が入社する4月を目前に、若手社員の育成・定着を懸念する管理者・人事担当者も多いのではないだろうか。


なぜいま若年層のあいだでメンタル不調が増えているのか。また、企業はどのように対応すればいいのか。3月25日にパーソルグループが主催した記者勉強会の内容から、若年層におけるメンタルヘルス不調の実態と対策をひも解いていこう。

当日、登壇したのはパーソル総合研究所シンクタンク本部 研究員であり、産業カウンセラーでもある金本麻里氏だ。
■増える20代のメンタルヘルス不調

1990年代以降、過重労働・パワハラ等による精神障害・自殺が社会問題化した。その後、2015年のストレスチェック義務化、2019年の時間外労働の罰則付き上限規制適用、2020年の労働施策総合推進法改正(パワハラ防止対策義務化)など、近年、企業におけるメンタルヘルス対策の責務は年々拡大傾向にあり、職場環境や働き方は改善しているように見える。

ところが、厚生労働省 労働安全衛生調査によると、メンタルヘルス不調による休退職者がいた事業所割合はむしろ増加傾向にあり、「メンタルヘルス不調による欠勤・休職者の増加が目立つ年代」として、64.4%の企業が「20代」を挙げている。2008年(41.2%)に比べると、実に23.2ポイントの増加である(労務行政研究所調査)。

パーソルグループ調査でも、3年以内にメンタルヘルス不調を経験した20代の正規雇用者の割合は男性で18.5%、女性で23.3%とほかの年代に比べて高くなっている。

また、メンタルヘルス不調経験者のうち、メンタルヘルス不調(日常生活困難レベル)による離職率は20代が35.9%と突出して高い(他年代は20%前後)。

しかも、メンタル不調による退職者のうち、「職場内での報告・相談をしなかった」人の割合は20代で54.9%にのぼっており、メンタル不調による退職者は企業把握数の平均2倍とみられている。

相談がしづらい理由としては、「相談による評価・評判の低下懸念」「相談後の職場対応のイメージのなさ」が挙げられている。
だが、管理職側に尋ねると、「メンタルヘルス不調になった部下も公平に評価する」(6割)、「親身になって対応する」(7割)と答えており、ここに大きなギャップが生じていた。

管理者・人事担当者は「若手のメンタル不調者の半数は静かに辞める」という事実とあわせて、このギャップを埋めていく必要性があるだろう。
■若手のメンタル不調の要因1「テクノストレス」

では、そもそも20代の若手社員のメンタルヘルス不調が増えているのはなぜなのか。金本氏は、主な要因として「テクノストレス」を挙げる。

コンピューターやOA機器の使用によって引き起こされるテクノストレスにはさまざまなものがあるが、若手で特に注意が必要なテクノストレスの一つが「脳疲労・眼精疲労」だ。

正規雇用者1,500人を対象にした調査で、「仕事のある日」の20代のスクリーンタイム(スマートフォンやタブレット、パソコン、テレビといった液晶端末を利用する時間)は平均5.2時間と、ほかの年代よりも長いことが判明した。

しかも、30代以上では「仕事のない日」のスクリーンタイムは「仕事のある日」よりも短いのに対し、20代の「仕事のない日」のスクリーンタイムは平均5.3時間と、「仕事のある日」よりも長くなっている。

スクリーンタイムが長いほどメンタル不調に陥りやすいことは調査でも明らかになっており、スクリーンタイムの長さが若年層のメンタル不調の一因になっていることがうかがえる。

企業が休日の時間の過ごし方に介入するのは難しいものの、テクノストレスの悪影響を啓発し、セルフケアを促すなどの対策が考えられるという。

若手社員のメンタルヘルスを考えるときに注意すべき、もうひとつのテクノストレスが「テレワークの孤独感」だ。

30代以上ではテレワークの有無や頻度と孤独感・ストレス反応に相関関係はみられなかったが、20代ではテレワークの頻度が高いと孤独感やストレス反応が高まる傾向にある。

これに対しては、チームメンバー間の交流機会の充実を図るなど、テレワーク下のチームビルディングをより強く意識して実践することが求められるとのこと。

■若手のメンタル不調の要因2「拒否・失敗回避志向」

若年層のメンタルヘルス不調のもうひとつの主要因として、金本氏は若手特有の「拒否・失敗回避志向」を挙げる。

正規雇用者1,500人を対象に調査を行ったところ、「人目を気にする」「受け身の姿勢」「失敗を恐れる」「怒られたくない」「対立を回避する」傾向が特に20代で目立つ結果となった。その背景として示されたのが「育った環境のジェネレーションギャップ」だ。

「弱音を吐けば、誰かが助けてくれた」(保護)、「親から聞き分けのよい子どもであることを求められていた」(従順さの期待)、「疑問に思ったことはすぐにインターネットで調べていた」(情報過多)の割合が20代では圧倒的に多く、データから推測されるように若年層の拒否・失敗回避志向は単に本人の性格の問題ではないことを理解しておく必要があるだろう。
■叱責ではなく成長する業務分担・フィードバックを

拒否・失敗回避志向が強い若手は上司からの叱責(しっせき)に敏感で、叱責されるとストレス反応が高まる傾向にあるため、管理者は若手社員の指導・育成方法に注意が必要。金本氏は次のように語る。

「『成長してほしい』という思いから叱っても、若手社員にはなかなか理解されません。ジェネレーションギャップを踏まえて、上司の対応の仕方もアップデートする必要があります。叱責は部下の成長にとって重要な要素ではなく、長期的にはむしろモチベーションを下げるリスクがあります。効果的に成長を促すには、叱責よりも成長する業務分担やフィードバックが重要です」

拒否・失敗回避志向が高い20代の若手社員であっても、叱責ではなく、成長する業務分担・フィードバックを与えることで、ストレスが少なく成長実感できることが調査からもわかっている、と金本氏。

ストレスチェックなど従来のメンタルヘルス不調対策のみでは、テクノストレスや拒否・失敗回避志向に起因するメンタルヘルス不調の原因を見過ごしてしまう可能性が高い。若手特有の拒否・失敗回避志向に対応するには、管理者の意識変革やマネジメント手法の見直しが欠かせない。
そのためには、管理者が新しいマネジメント手法を確立するための組織的なサポートも必要ではないだろうか。

春奈 はるな 和歌山出身、上智大学外国語学部英語学科卒。信念は「人生は自分でつくれる」。2度の会社員経験を経て、現在はフリーランスのライター・広報として活動中。旅行やECをはじめとした幅広いジャンルの記事を執筆している。旅をこよなく愛し、アジア・ヨーロッパを中心に渡航歴は約60ヵ国。特に「旧市街」や「歴史地区」とよばれる古い街並みに目がない。ブログ「トラベルホリック~旅と仕事と人生と~」も運営中。 この著者の記事一覧はこちら
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