電話やデジタル通信など電気通信サービスを提供しているNTT東日本。近年では情報通信技術の進化やAIといった革新的なデジタル技術の登場により、従来の仕組みの枠を超えた事業にも積極的に取り組んでいる。
今回お話を聞いた、NTT東日本 クラウド&ネットワークビジネス部 クラウドサービス担当 シニアスペシャリスト白鳥翔太さんもその一人。世界でも300名ほどだというAWS Ambassadors(※)にNTT東日本の社員としては初めて認定された。
※AWS Ambassadors:クラウドコンピューティングサービスAWSの参加企業の中で突出した能力や実績を持つ人材が認定される。全世界で約300名がAWS Ambassadorsとなっている。
NTT東日本のなかでも稀有な存在である白鳥さんは、どのような経緯でAWS Ambassadorになったのか、またそれがどのようにビジネスで活かされているのか本稿で紹介していこう。
■AWSに本格的に取り組み始めたのは10年前
白鳥さんが所属する部署では、クライアントのクラウドのSI(システムインテグレーション:企業のITシステムの企画や設計、構築などを行うこと)や保守、運用などを担当。その中で白鳥さんは、個別の案件ではなく、ウェビナーやコラボレーションなど、外部に向けた発信を中心に活動しているが、高難度の案件については、白鳥さん自身が関わることも少なくない。白鳥さんの原動力は「ITの技術を使って世の中を幸せにしたい」という気持ち。それゆえ、広く外に向けて新しい技術を発信する仕事を大事にしているが、そこから生み出されるアイデア、特にNTT東日本としてもこれまで携わったのことのない新たな案件については、積極的に関わるようにしているという。
エンジニアを志すきっかけについては「あまり覚えていない」と苦笑いの白鳥さんだが、幼少の頃より図鑑や説明書を読むのが好きで、特に家電の説明書を読み込んでいくうちに、テック関連の分野に興味を持つようになってきたという。ゲーム好きという一面もある白鳥さんだが、「アクションなどよりもシミュレーションやRPGのような、理詰めでプレイしていくようなスタイルが好み」とのこと。インターネットとは、Windows 95の時代、いわゆる黎明期に出会い、当時はまだテキストベースがメインだったが、そこで世界の人々とのコミュケーションに胸を踊らせ、「絶対にもっとすごいことができるようになる」と確信。自身の将来の道と定めつつも、「数学はすべての理系の学問のベースになる」との思いから、大学では数学を専攻し、「そこで暗号に取り組んだことが、今の領域に少しずつオーバーラップしてきている」と振り返る。
そして、ネットワークのエンジニアとしてキャリアをスタートし、まず法人営業のSEとしてネットワーク構築やルーターの設置などの設計に従事。その後、データセンターやSIer向けのネットワークサービスのコラボレーションなどを手掛けるようになる。「そういった仕事をしていると、パブリッククラウドをどうしても意識するようになる」という白鳥さんは、その過程においてAWSと出会った。NTT東日本にも「クラウドゲートウェイ シリーズ」(「クラウドゲートウェイ クロスコネクト」「クラウドゲートウェイ アプリパッケージ(※サービス終了済み)」「クラウドゲートウェイ サーバーホスティング」)というサービスが登場したことも重なり、10年ほど前から、AWSに本格的に取り組むようになる。
「クラウドゲートウェイ シリーズ」がリリースされたタイミングで、AWSの当時のパートナー企業とコラボレーションを行った際、会話の中で出てくる「AWSの用語が全然わからなかった」ことが、本格的にAWSを学び始めることになったきっかけ。パートナー企業との交流を続ける中で、「ビジネス開発本部」に所属し、サービス開発という立場で「クラウド導入・運用サービス」を立ち上げ、2019年にローンチした白鳥さんは、サービスが軌道に乗ったタイミングでマネージャーに就任する。
「パートナーさんと対等なリレーションを築くためには、AWSをちゃんと理解しないとビジネスとして成立しない」という思いをモチベーションとして、本格的にAWSに取り組むようになった白鳥さん。AWSに関する学びを進めていく中で、「新しくアウトプットできるようにもなってくるし、逆にわからないこともたくさん出てくる。
■世界で300人のAWS Ambassadorsはどのようにビジネスへ活かされる?
世界でも約300名ほどしかいないAWS Ambassadorsは、“AWSに関しての卓越した技術力を持ち、ビジネス、そしてAWS技術者のコミュニティにおいて、AWSを盛り上げている人”に与えられる称号。AWSのパートナー企業に所属している人に与えられるものであり、AWS側から見ても、NTT東日本社内から見ても、第一人者であると認められたうえで認定されるものとなっている。
NTT東日本では初のAWS Ambassadorとなった白鳥さんだが、どのような人がどのような活動をしているのだろうか。「国内のAWS Ambassadorsは、私のようにSIなどの中でテックリードをしているような人たちです。AWS Ambassadors同士の交流もあり、普段からミートアップがあったり、情報交換ができる場も作ったりしています」と教えてくれた。
2019年に「クラウド導入・運用サービス」をリリースした際に、対応できるエンジニアの育成と、社内でのルール作りの必要性を痛感。その環境を整えつつ、広報的な活動も必要であったことから、2020年には「APN AWS Top Engineers 2020」を獲得する。これは日本独自のプログラムで、日本における優れた100名のエンジニアであることを表彰するもの。
なお、AWSで受けられる資格は全部で12個あり、当然白鳥さんはそのすべてを取得しているが、「12個すべてを取得している人は非常に増えてきている」とのことで、そうした現実に対し、「さらにもう1段階プレゼンスを上げる」ことを目的として、白鳥さんはAWS Ambassadorを目指すことになる。
もちろん、スペシャリストグレードも、社内だけでなく業界全体で認められた第一人者ではあるものの、より第一人者として認められる立場を目指した理由として、「クラウドビジネスにおいて、NTT東日本は後発である」との考えを明かす。クラウドビジネスを行っている会社としての知名度をさらに上げる手段として、AWS Ambassadorを目指す上で、白鳥さんがこれまでに積み上げてきたものだけでなく、NTT東日本の「社内外に認められるエンジニアがいる会社でありたい」という思いが大きな後押しになったと振り返る。
「NTT東日本は後発」ではあるものの、ネットワークやインフラという部分がAWSにおいては「大きな強みになっている」という白鳥さん。AWSをはじめクラウドサービスだけを対象としている企業の場合、AWSの範疇を出てしまうと保守範囲外になってしまうという現状に対し、「End-to-Endでサポートできる」ことがNTT東日本の強みであり、「中でもネットワークのレイヤーは、これまで培ってきたノウハウが生かせる分野」だと自信を覗かせる。
その意味でも、今後はネットワークを専門に活動していきたいという白鳥さんは、日本におけるAWSのユーザコミュニティ(JAWS-UG)のネットワーク専門支部であるNW-JAWSの運営を行っており、すでに“ネットワークの人”という認識を持たれているという。AWSの12個の資格をすべて取得している人は少なくないが、その中で突き抜けていくキャラクターは「AWS以外の技術を知っている人」と断言。「決め手になることはAWSの外にある」との見解を示し、AWSと繋がる技術として、人によってはAIであったり、データベースであったりする中、「自分はネットワークが得意」という発信を欠かさない。
■「白鳥だったらなんとかしてくれる」という期待の高まり
そして、「世の中でトラブルが起こる要因がネットワークであることが多い」、見る人が見ればすぐにわかるような問題も、特に若い世代のエンジニアは、AWSネイティブで、アプリケーション開発や機械学習から入ってくるため、ネットワークを知らず、いざ問題が起こったときに対応しきれないことが少なくないという。AWSはインフラ領域を抽象化することを得意としているため、「AWSでサクサクと進めてしまえば、いきなりグローバルサービスも立ち上げられてしまう」という事実に対しても、「だからこそ、土台となる知識があれば、トラブルが起こった際にもしっかり対応できるし、そもそもトラブルを起こさない設計で作ることができる」との考えを示す。
AWS Ambassadorsとなり、「自分の発言を気にするようになった」という白鳥さん。社内外において、「クラウド×NTT東日本といえば白鳥」という認識が広がりつつある中、自分の発言に影響力が付随していることを実感することがあると打ち明ける。そして、自分自身の考えを話しているつもりでも、社外では「NTT東日本の人が言っている」と捉えられるし、社内では「AWS界隈の考え方はそうなんだ」と捉えられてしまうことがあるという。「もちろん、だからといって発言を変えてしまうことはないのですが」と前置きしつつも、「自分の言葉によって方針が変わってしまうような場面では、より意識して発言するようになった」ことに加え、「白鳥だったら何とかしてくれる」という期待値も高まり、「技術提供だけではなく、他社の優良事例やビジネスとしての見解、海外での事例などを求められる」機会が増加。
社内においては、もともとマネージャー職ということもあって、「少しビジネス目線を求められている」ところもあり、突拍子もない理想論ではなく、地に足がついた現実認識、さらには数年先を見据えた視点が求められるようになってきているという。
■様々なドット(点)を繋げビジョン(未来像)に向かう
「AWSはお客さんの課題を解決するビジネス」であり、「資格試験の中でも、いろんなユースケースの中から課題と解決策をどのように選ぶかというスタイルの試験になっていて、かなり実務に近いシミュレーションも出題されている」とのことだが、実際の仕事においては、「単にお客さんの要望を実現するというだけの御用聞きスタイルではない」と白鳥さんは続ける。
NTT東日本は転換期を迎えており、通信分野だけでなく、非通信分野においてもビジネスを成立させることが求められている現状において、様々なチャレンジがあり、時には大きな失敗もあるという。
そうしたなかで白鳥さんはNTT東日本に対し、「特に挑戦のときには、思いもよらないスペシャリストが会社内にいたことに気づくことが多い」ことから、「すごく広い分野で、いろいろなスペシャリストが揃っている会社」と日々実感していると笑顔で話してくれた。
そんなNTT東日本において、「好きなことを貫けば良い」という考え方を大事にしている白鳥さんは、社内の実態とは合っていなくても、世の中からは求められていることであれば、「少しずつ会社のあり方を引き寄せていけば良い」という積極的な姿勢を示し、「自分の信じている技術を活用して、世の中のために何ができるかという、核となる考え方は貫いたほうが良い」と明言する。
実際、電話をすごく愛しているという社員から、「AWSと電話の技術を使って何かできないか」という相談を受け、Amazon Connectなど、AWSと繋がりそうなものを提案してみたところ、数日後に『できました!』との報告を受けた」というエピソードを示し、そういうところに面白さを感じるという白鳥さんは、スティーブ・ジョブズの“Connecting the dots”という言葉を引用しつつ、「ドットとドット(点と点)を繋ぐことで自分という人間はこういう人間だと成立させるようにしたい」との希望を明かす。
「無計画にあれこれと手を出しているだけじゃないの?」と言われることも少なくないが、「そうやって様々なドットを増やしていき、そのドット同士を繋ぐことで見えてくる、新たな展望や未来像、目標といったビジョンに向かっていければ良い」との考えから、「どんどんチャレンジして、動ける人が大切」との見解を示した。
AWS Ambassadorsとなってまだ1年目ということから、「もっともっとアンバサダーとしてプレゼンスを出していけるように活動していきたい」という白鳥さんは、「仕事だけじゃなく、白鳥という人間がAWSの界隈の中でやっているんだな、ということをもっと認知されるように頑張っていきたい」と将来を展望。
NTT東日本の一技術者として、一本線の道筋を描いてきた自分を振り返りながら、今後は、そこに繋がっていく後続の技術者を育成することで、組織自体を強くすることを熱望する。「私自身、40代になって、社会人としても後半に差し掛かってきている」という現状を見据えつつも、「クラウドだけではなく、どんどん新しいものを世の中に届けながら、皆さんの幸せに繋がるような活動を続けていきたい」との意気込みを明かし、「幸いにしてITは頭が動けばいくらでもやれる」と笑顔を見せながら、「60代、70代になっても知識を蓄えて、提供できる人間になっていきたい」と、さらなる活躍を予感させた。