藤井聡太棋聖に杉本和陽六段が挑むヒューリック杯第96期棋聖戦五番勝負(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)は、第1局が6月3日(火)に栃木県日光市の「日光金谷ホテル」で行われました。対局の結果、三間飛車対居飛車穴熊の対抗形から抜け出した藤井棋聖が144手で勝利。
熾烈な玉頭戦を制して防衛に向け好スタートを切りました。
○杉本調の玉頭戦

藤井棋聖は永瀬九段の挑戦を退けて防衛を果たした名人戦第5局(茨城県古河市)から中3日での対局。振り駒が行われた本局は先手の杉本六段が三間飛車を採用して幕を開けました。振り飛車がミレニアム囲いに組んだのが工夫で、居合わせた山本博志五段もSNS上で「深い研究がありそう」と身を乗り出します。対する藤井棋聖は四枚穴熊の堅陣に組んで戦いの時を待ちました。

タイトル戦初登場の杉本六段ですが先手番らしく積極的な指し回しで主導権を握ります。歩交換をめぐる攻防ののち、さっそく玉側の端攻めに出たのが得意の仕掛け方。右桂が戦いに参加できるミレニアムの特権を最大限に生かしており、本局はここから両者大駒を差し置いての玉頭戦に突入します。形勢は難解で、先手が2筋に据えた香をきっかけに局面は終盤へ。

○藤井将棋の懐深さ

難解な押し引きのなか攻め合いに踏み込んだのは杉本六段でしたが、ここから藤井棋聖が懐の深さを発揮し始めます。端に金を打って詰めろ角取りを受けたのが綱渡りのようでいて読みの入った受け。先手の攻め筋はいずれもギリギリのところで見切られており、杉本六段は局後「(117手目)踏み込んだが後手陣が堅くなってしまったのが誤算」と明かしました。


優位に立った藤井棋聖の指し回しは冷静でした。質駒の桂を取るために飛車を切り飛ばしたのが「終盤は駒の損得より速度」の決め手。藤井玉に寄りはなく、杉本玉への寄せに専念できる局面を作ることに成功しました。終局時刻は19時15分、最後は自玉の寄りを認めた杉本六段の投了で藤井棋聖の開幕勝利が決定。攻め急ぎを誘って抜け出した藤井棋聖の手厚さが光る一局となりました。

藤井棋聖の先手番で迎える第2局は6月18日(水)に兵庫県洲本市の「ホテルニューアワジ」で行われます。

水留啓(将棋情報局)
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