「プラチナNISA」というNISAをご存知でしょうか。2024年にスタートし利用者も増加している新NISAですが、早くもこれを見直し、プラチナNISAという名称で65歳以上の高齢者向けに新たな制度を作ろうという動きが出ているのです。
今回は、プラチナNISAの概要や新NISAと異なる点などについて解説します。
■プラチナNISAはどんなNISA?
プラチナNISAとは、65歳以上の年金生活者層を対象としたNISAです。岸田前首相が会長を務める「資産運用立国議員連盟」が提言し、2026年度の税制改正に向けて動き出すとされています。
昨年スタートした新NISAは、18歳以上の人が対象ですが、年齢の上限はありません。つまり、若い世代の人は新NISAしか利用できませんが、65歳以上の人は新NISAもプラチナNISAもどちらの制度も利用できるようになるのです。
また、プラチナNISAでは、新NISAでは買えない「毎月分配型」の投資信託を購入できるようにするそうです。毎月分配型の投資信託は長期の資産形成には不向きとされ、金融庁は、これを新NISAの投資対象外とした経緯がありました。しかし、2026年度以降には高齢者に限り、毎月分配型の投資信託をNISA枠で購入し、非課税で運用できる見込みです。
毎月分配型の投資信託とは、1ヶ月ごとに決算が行われ、毎月分配金を支払う方針の投資信託です。一般的な投資信託は、年1回または半年に1回の頻度で分配金を支払うものが多いですが、毎月分配型は年12回、原則として毎月分配金が支払われます。ただし、運用状況によっては分配金額が変わったり、支払われなかったりすることもあります。
投資対象は、国内外の株式や債券、REIT(不動産投資信託)などさまざまで、複数の資産に分散投資する「バランス型」のファンドも多いです。
年金収入に頼る高齢者にとって、生活資金の補てんとして毎月収入が得られる毎月分配型投資信託は人気があります。売却せずに保有し続けることで、分配金を受け取りながら資産を確保できますし、分配金は受け取らず再投資することもできるため、ライフスタイルに合わせた柔軟な運用が可能な点も魅力です。
■投資信託の「分配金」って?
そもそも、投資信託の分配金とはどのようなものなのでしょうか。普通分配金、特別分配金の違いについても解説していきます。
<分配金とは>
分配金とは、投資信託の決算が行われる際に、運用で得た収益を投資家に分配するお金です。分配金は投資信託の信託財産(純資産)から支払われるため、分配金が支払われるとその金額の分、投資信託の純資産総額(運用残高)は減少し、投資信託の値段である基準価額も下がります。
なお、分配金は決算のたびに必ず支払われるとは限りません。決算の内容や投資信託の分配方針などによって、支払われるかどうかその都度運用会社が判断し、決められています。
<普通分配金と特別分配金>
分配金には、「普通分配金」と「特別分配金(元本払戻金)」の2つの種類があります。普通分配金とは、投資で得られた運用益から支払われる分配金です。一方の特別分配金とは、元本の一部を取り崩して支払われる分配金です。
一般的に、投資信託は、投資家(受益者)ごとにその取得価額(個別元本)は異なります。
分配金が支払われると、分配金の分だけ基準価額は低下しますが、運用成果がしっかり出ていて決済日(分配落ち)後の基準価額が個別元本を上回っていれば、その分配金は収益の一部を分配する普通分配金となります。分配落ち後の基準価額が個別元本を下回っていれば、その下回った金額が特別分配金となります。
毎月分配型投資信託も、同様の仕組みで分配金が支払われています。そのため、特別分配金が分配されている場合は、市場が好調であっても、「毎月分配型投資信託の残高がどんどん減っている」という状況になることもあります。
なお、特別分配金は、収益の一部を支払うのではなく、投資元本を取り崩して投資家に払い戻す「タコ足分配」であるため、税制上は非課税となります。一方、普通分配金は課税対象です。課税されるかどうかは、決済日の基準価額が個別元本を上回るか下回るかで判断されますが、個別元本は人によって異なり、各人ごとの計算となります。
■毎月分配型投資信託のメリット、デメリットと注意点
毎月分配金が支払われる毎月分配型投資信託は、年金収入に頼る高齢者にとってはありがたい制度でしょう。しかし、毎月分配型にはメリットだけでなく、デメリットや注意点もあります。
<毎月分配型投資信託のメリット>
1.定期的な収入が得られる
毎月分配型投資信託の一番のメリットは、定期的に分配金を受け取れるところでしょう。退職金や老後資金としてまとまった資金がある場合、毎月分配型投資信託で運用することで年金にプラスして毎月の定期収入が得られます。
分配金は投資信託の運用成績によって変わるため保証されているわけではありませんが、年金以外にも収入があるのは年金生活者にとって大きなメリットでしょう。
2.資産を売却せずに収入が得られる
また、資産を売却せずに収入が得られる点も魅力の一つです。投資信託を保有しながら分配金が受け取れるため、売却のタイミングに悩むこともありません。
3.運用している実感が得られる
毎月分配型の投資信託は、毎月分配金が受け取れるため、「運用している」という実感が得られやすいのもメリットです。分配金の出ない投資信託や配当金のない株式を保有している場合、「運用の意味があるのだろうか」と疑問を抱いてしまう人もいるでしょう。
しかし、毎月分配金が振り込まれれば、「運用していてよかった」と、資産運用の恩恵が感じられるのではないでしょうか。
<毎月分配型投資信託のデメリット>
1.再投資しないため複利効果を生かしにくい
複利効果とは、運用で得た利益を再び投資に回すことで、利益が利益を生み雪だるま式に増えていく効果のことです。しかし、毎月分配型投資信託の場合、分配金を受け取れば複利効果を生かせません。
また、特別分配金を支払う場合は、その分元本が減ることになります。元本が減れば、その分お金が増えにくくなるため、資産形成には向かないという面もあります。
2.信託報酬が高い
毎月分配型の投資信託の中には、インデックス型などと比べて信託報酬が高めに設定されているものもあります。信託報酬は、保有している投資信託の管理や運用をしてもらうための代価として投資家が支払うもので、運用状況の良し悪しに関わらず必ず負担が発生します。
充分な利益が出ていれば、信託報酬が多少高くても納得できるかもしれませんが、運用状況によっては、元本を取り崩して分配金が支払われる状況が続くこともあります。
すると、高い信託報酬を支払いながら、なおかつ元本の取り崩しも行うことになるため、投資家としては大きなデメリットになるでしょう。
3.高リスクな商品もある
毎月分配型投資信託には、信託報酬が高いだけでなく、一定の分配金を保つためにハイリスクな資産に多く投資したり、レバレッジを使ったりするファンドも含まれています。「ハイリスク・ハイリターン」という言葉もあるように、高い利益を求めようとすれば、その分リスクも高くなります。運用の安定性よりも分配を優先することで、リスクが高まる場合もあります。
4.課税口座の場合、普通分配金に都度税金がかかる
毎月分配型の投資信託は、非課税制度である新NISAでは購入できません。毎月分配型の投資信託を課税口座(特定口座、または一般口座)で購入した場合、普通分配金が支払われるたびに20.315%の税金がかかってしまいます。
<毎月分配型投資信託の注意点>
1.長期投資をしたい人には向いていない
長い期間をかけて投資を行う時には、複利効果を活用することが非常に大切です。しかし、先ほどもあったように、毎月分配型投資信託では分配金を受け取け取ると、複利効果の恩恵を受けにくくなります。
長期的な視点でしっかりお金を育てていきたい人には、毎月分配型投資信託は向かないため注意が必要です。
2.分配金頼りの生活設計はNG
分配金が出ていても、それが元本を取り崩す特別分配金である場合、運用する金額の目減りにつながります。そのため、これから本格的に資産形成していきたい世代だけでなく、資産を使っていく年金受給世代も注意が必要です。特に、分配金頼りの生活設計は安易に立てないことが重要です。
また、自分の資産を守るためにも、保有している投資信託は充分な利益が出ているのか、分配金はどこから支払われているのかなど、ファンドの内容をよく理解しておきましょう。
■プラチナNISAはやるべき?
これまで説明してきたように、プラチナNISAでは毎月分配型の投資信託が購入できます。「毎月、分配金がもらえるなら」と飛びついてしまう人もいるかもしれませんが、メリットとデメリットを見比べれば、プラチナNISAにおいて毎月分配型投資信託を必ずしも活用する必要はないと言えるでしょう。
最近では、「資産寿命」という言葉とともに、運用を継続しながら少しずつ資産を取り崩す方法も注目されています。たとえば、65歳の時点で1,800万円の資産があり、全く運用をしないまま毎月7万円取り崩すと、資産は86歳で尽きてしまいます。しかし、年率3%で運用しながら月7万円取り崩した時の試算では、34年後の99歳まで資産はなくならず、資産寿命を10年以上延ばすことができます。
毎月分配型投資信託でも、普通分配金が支払われているなら、試算のような取り崩しができるかもしれません。ですが、特別分配金が支払われている場合、早いうちにお金がなくなってしまいます。
ただし、プラチナNISAがどのような形で始まるかはまだ未定です。プラチナNISAでラインナップされる金融商品には、「信託報酬が一定の水準以下」「購入時手数料なし」など、かかるコストに制限が設けられるかもしれません。また、プラチナNISAの開始にあわせて、普通分配金がきちんと支払われるような仕組みの毎月分配型投資信託が組成される可能性もあります。
その場合、プラチナNISAで毎月分配型投資信託を利用することで、安定的な運用と計画的な資産の取り崩しが実現できるかもしれません。
■プラチナNISAは早ければ2026年度に始まる
プラチナNISAは、最短で2026年度から制度がスタートします。現状のような毎月分配型投資信託であれば必ずしも利用するメリットは大きくありませんが、プラチナNISAの開始を機に、新たな仕組みがプラスされる可能性もあります。資産運用にはさまざまな選択肢があることを踏まえたうえで、プラチナNISAの詳細がどういった内容になるのか続報を待ちましょう。
武藤貴子 ファイナンシャル・プランナー(AFP)、ネット起業コンサルタント 会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやマネーコラムの執筆を展開。独立後はネット起業のコンサルティングを行うとともに、執筆や個人マネー相談を中心に活動中 この著者の記事一覧はこちら
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