悩みがつきない職場の人間関係。特に上司と部下の関係はギクシャクしがちだ。
そんな上司と部下の信頼関係をテーマに、「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンに掲げるパーソルグループによる勉強会『データで読み解く。上司と部下の信頼関係 ~「信頼」と「被信頼感」のらせん的循環が企業を変える~』が開かれた。

登壇者はパーソル総合研究所の上席主任研究員、井上亮太郎さん。大手総合建材メーカーで営業やマーケティングなどを経験後、学校法人産業能率大学で組織・人材開発のコンサルティング事業に従事。2019年より現職で人と組織の心理計測とモデリングを軸とした研究や社会実装に取り組まれている。
○■机を並べて働く環境は減っている! 現代ならではの悩みとは

今回のキーワードは上司と部下の「信頼関係」。現代の職場では、信頼関係を築くことがより重要になっているという。

従来のオフィス環境では、上司も部下も同じ空間に机を並べて自分の席に座り、一緒に仕事をすることが多かった。すると、お互い顔が見えている中で「まさかネットサーフィンをして堂々とサボっていることはないだろう」という安心感があった。ところがフリーアドレスやテレワークが浸透する中、こうした安心感をベースにすることは難しい。顔が見えない中で仕事を任せることが多い現代では、必然的に信頼感をベースにすることになる。
○<テレワークで生まれた管理職と部下の不安>

実際、井上さんが九州大学と共同で行ったテレワークに関する実態調査で管理職の46.3%が「業務の進捗具合がわかりにくく不安」と回答していたという。
また「非対面は相手の気持ちが察しにくいか」という問いに対して、管理職の44.9%があてはまると答えた。これは部下側の39.5%よりも多かった。これまで体験したことのない働き方に戸惑い、不安を感じている管理職が少なくないことが浮き彫りになった。具体的な課題として、「メンバーとのコミュニケーション不足」「仕事ぶりを確認できない」「テレワークでの評価基準ができていない」といったことがあげられた。

部下側からも「近くに相談できる人がいない」「家庭と仕事の切り替えが難しい」「きちんと評価されているか不安」という悩みがあがった。

そんな中、職場のリーダーに期待するものを調べた調査では、「希望」と「信頼」が大半を占める結果となった。

○■信頼に基づく職場運営とは?

では、どうすれば職場で信頼を得られるのだろう。

井上氏が注目するのは「被信頼感」。相手から信頼されていると考えることだ。上司目線でいえば、どうすれば相手に信頼されていると思ってもらえるか、またどうすれば自分自身が部下を信頼することができるかがポイントだという。上司が部下を信頼すると、部下も上司からの信頼を感じて、より信頼するようになる。より信頼されることで、上司も部下をより信頼するようになる。
井上氏は、信頼関係はこのようにらせんモデルを描いていくのではと考え、企業で実証研究を行った。

○■半数が信頼の一方方向不完全関係に

研究の結果、信頼関係には上司も部下もお互いを信頼している「正のらせん関係」、お互いが信頼していない「負のらせん関係」、さらに「信頼の一方方向不完全関係」があることがわかった。

「信頼の一方方向不完全関係」は、部下側は上司側を信頼し、信頼されていると思っているのに、上司側はうっすら信頼されていると感じてはいるもののメンバーを信頼しきれていない関係。「メンバーの片想い状態」が52.4%で過半数となった。この関係は、負のらせん関係よりはいいものの、ここから上にも下にも転ぶ可能性がある危うい関係と捉えられるそうだ。

正のらせん関係にあると、職場のパフォーマンスも、業績も、働く幸せ実感も、すべてがいい状態になる。もし職場が信頼の一方方向不完全関係になっていたら、負のらせん関係へ向かわないよう対処するのが賢明だという。

○■職場の信頼関係の作り方

研究の結果から、井上氏は信頼を築くポイントとして次のことを提言している。
○<信頼感を左右する「人材観」>

まず、上司側の場合。「部下は指示しないと動かないものだ」「人の能力は大人になったら変わらない」という固定的な人材観を持っていると、部下への信頼感を下げることになる。逆に、「部下は自発的に働きたい」「成長したいと考えている存在」と考える拡張型の人材観を持っていると、部下を信頼しやすくなる。

また、「自分がこのくらいの歳のころには……」など自分を基準に期待を寄せることも、信頼感を下げる要因に。
反対にそれぞれの職位やキャリアなど、他者基準の期待を持っていると信頼しやすくなる。

逆に、部下から信頼されるには、脆弱性の共有として、時には自分の弱みを見せることも良いのだそう。そして、上司からの被信頼感を部下が感じる要因となるのは「サーバント・リーダーシップ」といって、部下を後方支援するようなリーダーシップのスタイルだ。こうした姿勢が見えると、部下は上司を信頼しやすくなる。
○<まずは自ら信頼し、能動的な姿勢を>

次に、部下側の場合。まずは、上司を自ら信頼すること。そして能動的な姿勢を示し、メールの返信など早めのレスポンスをすることだ。逆に無謀と思われる挑戦など、指示を逸脱した行為は良かれと思ってしたことでも信頼感を損ねてしまう。大きな挑戦をしたいときは、こまめな報連相を意識して無謀と思われないようにすることが大事だ。

ちなみに、すでに負のらせん関係になっている場合のリカバリー方法も知りたいところ。これに関しては、現在調査中とのこと。「現時点でいえることは、信頼の崩壊がどちら側から始まっているかに注目し、相手は変えられないので自分を変えていくこと。
上司から見て崩れている場合は、どうすれば部下を信頼できるか。部下から見て崩れている場合は、自分の行動をどう見直すか。信頼関係の築き方を参考に、考え方や行動を変えていくことです」と井上氏。次の調査結果にも期待したい。
編集部おすすめ