伊藤匠叡王に斎藤慎太郎八段が挑む第10期叡王戦五番勝負(主催:株式会社不二家)は、最終第5局が6月14日(土)に千葉県柏市の「柏の葉カンファレンスセンター」で行われました。対局の結果、相掛かり力戦から終盤で逆転した伊藤叡王が120手で勝利。
3勝2敗でタイトル初防衛を果たすとともに八段昇段(タイトル2期獲得)を果たしました。
○ぶつかり合う読み筋
両者2勝で迎えた最終局。振り駒で先手番を得た斎藤八段は得意の相掛かりを目指します。続いて4筋の歩を突いたのは右銀を活用しゆったりとした展開を目指す意図ですが、この日は後手の伊藤叡王が注文を付けることに。角頭に歩を打って形を決めたのが実戦的な指し方で、相手の用意を外しつつ前例の少ない角交換の力戦に持ち込み、長い中盤戦が幕を開けました。
本格的な戦いが始まったのは16時過ぎ、伊藤叡王が飛車で横歩を取って戦いを求めたときでした。飛車切りからの猛攻は大丈夫と読んで引っ張り込んだ斎藤八段に対して伊藤叡王は堂々とこれを決行。ぶつかり合った両者の読み筋は「手にした飛車を後手陣に打ち込む反撃が厳しい」という斎藤八段の大局観が正しく、先手優勢の終盤へとなだれ込みました。
○激戦乗り切り防衛
一分将棋で指し続ける斎藤八段に失着が出ます。秒読みに追われるように打ったタダ捨ての桂は馬を取るための犠打とはいえ、局後の検討では指し過ぎとの結論に。代えては平凡な香打ちで攻め続ける手が正着ながら、後手玉に上部脱出を許す順が「焦る展開で(その後の寄せの)急所が見えなかった」と局後の斎藤八段は語りました。その言葉通り、この手を境に伊藤叡王が息を吹き返します。
九死に一生を得た伊藤叡王は手にした桂香で反撃開始。先手も詰めろをかけて肉薄しますが、これは形作りで、手番を得た伊藤叡王は冷静に王手を開始します。終局時刻は19時38分、最後は自玉の詰みを認めた斎藤八段の投了で伊藤叡王のタイトル初防衛が決まりました。盤上中央まで逃げ出した先手玉からは「タイトルを取れるのではと思ってしまった」という斎藤八段の悔しさが表れていました。
水留啓(将棋情報局)
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