「都心では物価が高いので、生活していくのが大変だ」または「地方は物価が安いので、生活費が都心に比べてあまりかからない」と世間で言われていることは、本当なのでしょうか。

お金の扱い方について、都心部と地方部では、違いがないのでしょうか。
連載コラム「地方の生活コストは本当に安いのか?」では、ファイナンシャル・プランナーの高鷲佐織が、実際に東京と地方、両方の生活を経験して感じたことを交えながら、お金に関する情報などをお伝えいたします。

地方からの人口流出により、労働力不足による事業の生産性低下や後継者不足につながり、地域全体の経済活動が低下する恐れがあります。経済状況だけでなく、人口減少が進むことによって、医療機関や介護施設の経営が厳しくなり、住民が必要な医療を受けられなくなるリスクもあります。また、道路や水道などのインフラは、一定の人口によって利用されることを前提に維持されています。人口減少により利用する住民が減ると、維持管理する費用が不足し、インフラの老朽化や住民が負担する維持費用の大幅な増額が懸念されます。

そこで、地方の各自治体は、自らの地域の魅力を発信し、移住者への支援を手厚くするなど、さまざまな方法で、人口を増加しようとしています。その支援の1つとして、市町村が、人口が集中している東京圏の大学に在籍している学生や卒業生を対象に、地方への就職活動に要した費用の一部を補助する制度があります。その制度の一部をご紹介いたします。

○<支援対象者(主な要件)>

【1】移住に関する要件
・移住元に関する要件:大学等の卒業・修了年度において、東京都内に本部がある対象となる大学等の東京圏内(条件不利地域を除く)のキャンパスに在学(原則4年以上)し、当該大学等を卒業・修了していること。ただし、在学中に交通費を申請する場合は、卒業見込みの者も対象となる等
・移住先に関する要件:越前町に移住したこと。ただし、在学中に交通費を申請する場合は、越前町内に移住予定で、福井県内に所在する企業に就職することが内定していること等

【2】就職に関する要件
・勤務地が福井県に所在する企業等に大学等を卒業・修了してから1年以内に就職していること
・3親等以内の親族が代表者、取締役などの経営を担う職務を務めている法人等ではないこと
・福井県の勤務地限定型社員としての採用であること等

【3】その他の要件
・移転費を申請する場合は、越前町UIターン移住就職支援金(東京圏型・全国型)の交付を受けていないこと等
※「東京圏」とは、東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県のことをいう。ただし、条件不利地域を除く。

※「条件不利地域」とは以下の地域をいう。
東京都:檜原村、奥多摩町、大島町、利島村、新島村、神津島村など
埼玉県:秩父市、飯能市、本庄市、越生町、小川町、川島町など
千葉県:銚子市、館山市、旭市、勝浦市、鴨川市、富津市、いすみ市、南房総市など
神奈川県:三浦市、山北町、箱根町、真鶴町、湯河原町、清川村
○<支給金額>

【1】交通費:就職活動に伴う電車代等の交通費の2分の1(上限額1万5,000円)
【2】移転費:就職に伴い移住する際の引っ越しに要した費用の全額(上限額10万8,000円)

・交通費、移転費ともに1人1回のみ
・在学中に交通費のみ申請することもできる
・申請時には領収書の添付が必要となる

【参考】越前町のホームページ

○<支援対象者(交通費と移転費の両方を申請する場合)>

・東京都内に本部があり、対象となる東京都内のキャンパスに通う大学・大学院を卒業したこと
・在学中の居住地が東京圏にあり、現在鹿沼市に移住したこと
・栃木県内の勤務地に就業していること
就業先が3親等以内の親族が経営者の法人等でないことや、勤務形態が、栃木県外に事業所を有する法人への就業の場合、栃木県外への転勤がない(勤務地限定雇用)であること等の要件がある。
○<支給金額>

・交通費(就職活動に要した費用):1人あたり一律5,390円
・移転費(引っ越しにかかった費用):1人あたり一律6万6,000円

【参考】鹿沼市のホームページ

○■終わりに

市町村のうち、2つの「地方就職学生支援金」制度をお伝えしました。いずれの市町村も、移住や就職に関する複数の要件があります。越前町も鹿沼市も、「勤務地限定型社員」であることが要件となっています。「勤務地限定型社員」とは、転勤するエリアが限定されていたり、転居を伴う転勤がなかったり、あるいは転勤が一切ない社員のことをいいます。支援金を交付するのは市町村ですが、「勤務地限定型社員」として限定する勤務地の範囲は、市町村内ではなく、その県等に限定しているのが一般的のようです。

また、支援金自体も、市町村によって異なります。例えば、越前町では実費(上限あり)を支援するものであり、鹿沼市では実際にかかった費用にかかわらず、一律の金額を支援するものです。地方就職学生支援金を利用したい場合は、都道府県および市町村で行っている制度について併用することは可能なのか、移住に関する他の支援金制度と併用することは可能なのか、または、複数の支援金制度の中で併用することができない場合は、支援金の金額の高さだけで決めずに、支援条件や注意事項をよく確認しましょう。

高鷲佐織 たかわしさおり ファイナンシャル・プランナー(CFP 認定者)/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/DCプランナー1級。 資格の学校TACにて、FP講師として、教材の作成・校閲、講義に従事している。
過去問分析を通じて学習者が苦手とする分野での、理解しやすい教材作りを心がけて、FP技能検定3級から1級までの教材などの作成・校閲を行っている。また、並行して資産形成や年金などの個人のお金に関する相談を行っている。資格の学校TAC講師(プロフィール一覧)。一般社団法人理想の住まいと資金計画支援機構(相談員)。 この著者の記事一覧はこちら
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