日本のテレビ市場において、中国メーカーの存在感が増しています。BCNによると、2024年の日本のテレビ市場シェアは1位がTVS REGZA(25.4%)、2位がシャープ(20.6%)、3位が中国・ハイセンス(15.7%)、4位が中国・TCL(9.7%)、5位がソニー(9.6%)、6位がパナソニック(8.8%)と続きます。
なかでも、2025年2月にIOC(国際オリンピック委員会)とワールドワイド・オリンピック/パラリンピック・パートナー契約の契約を結んだTCLは、日本市場でのシェア獲得にかなり気合いを入れているメーカー。TCLアジア太平洋地域の総経理を務める張国栄(チョウ・コクエイ)氏は「シェア20%を獲得して、日本のテレビ市場でトップ3に入りたい」と語りました。
「TCLはテレビ事業に注力して発展してきました。20年ほど前は、日本メーカーがグローバルでテレビ事業をリードしていましたが、その後はサムスンやLGなど韓国系メーカーが世界のトップサプライヤーになりました。しかし、パネル開発からテレビ製品まで一貫した生産体制を持っているTCLは、市場に対して今後大きなチャンスがあると思っています。米国や日本などには、販売部隊だけでなく研究開発部隊も設置しており、各地域の需要に応じてローカライズした製品を販売する体制を整えました。オリンピックパートナーになったこともあり、今後はブランド力を高めるマーケティング戦略にリソースを多く割き、TCLのブランド力を世界中に高めていきたいと考えています」(張総経理)
日本市場に期待する理由として、張総経理は「市場規模の大きさ」と「日本メーカーの影響力の大きさ」を挙げました。
「日本は、人口やGDPの面でトップレベルの国で、テレビ市場は年間約5000億円、生活家電は6000億~7000億円程度の規模があると見ています。この市場規模を持つ国や地域は多くありません」(張総経理)
高い技術を持つ日本のメーカーと勝負するのは、TCLにとって大きなチャレンジではあるものの、そこで存在感を示すことがほかの地域での売上増にもつながる、と張総経理は語ります。
「日本にはソニーやパナソニック、生活家電ではダイキン工業など、強い技術を持つメーカーが多くあります。日本市場でそれらのメーカーに並んで認められたら、グローバルにも我々の技術力が世界トップレベルである証になります。
日本市場でシェアを高めるためには、「日本市場で認められるよい製品を作ることに尽きます」と張総経理は語ります。
「日本市場は、家電にかなり詳しい消費者が多いうえ、それぞれの人の考えがあるため、多くの人に『買いたい』と思わせる製品づくりのハードルがとても高いと感じています。製品の良さを消費者に伝えて理解してもらうことも重要です。家電量販店などのビジネスパートナーとの関係性も向上していきたいです。商品を日本に持ってくるだけでなく、物流やアフターサービスなど全般的に強化する必要があります。また、日本市場向けのローカライズはすでに行っていますが、次世代ではさらに強化し、日本の皆さんに認めてもらえる製品開発を進めています」(張総経理)
特にTCLが強みとしているのが大型モデルです。
「大型テレビは、我々の予想以上の市場シェアを得ています。75インチ以上の製品では、20%以上のシェアを占めていることがGfKジャパンの調べで分かりました。我々にとっては強みのある大型モデルでシェアを得て、その後はほかのサイズにも展開していきたいと考えています」(張総経理)
○「C8K」シリーズは超狭額縁「Virtually ZeroBorder」が強み
TCLのテレビ製品開発の責任者を務めるTCL BU プロダクトマネジメントセンター総経理の宦吉鋒(カン・キチホウ)氏は、新しいハイエンドモデル「C8K」シリーズの強みについて、新開発の「CrystGlow WHVAパネル」を採用した高画質に加えて、超狭額縁を実現した「Virtually ZeroBorder」が強みだと語ります。
「多くのメーカーが、長年フレームレス化に取り組んできましたが、最初はフレーム30mmとその内側の黒枠10mmと、約40mmほど見えない部分がありました。昨年の115インチフラッグシップモデルは、フレーム5mm+黒枠5mmの合計10mmくらいまで進化しました。
Virtually ZeroBorder技術について、パネルを製造するTCL CSOTの技術企画センターセンター長を務める周明忠(シュウ・ミンチョウ)氏は「『黒枠部分の電子回路の削減』と、『水の侵入を防ぐ技術』の2つの課題を解決して実現しました」と語ります。
「通常のテレビは、黒枠の部分にさまざまな電子回路を設置しているため、黒枠を消すためにパネルの回路設計を見直して電子回路を半分以上削減しました。パネルはガラスを2枚合わせて製造するため、パネル周辺部分から水分が入るリスクがあります。黒枠が減ると水分が浸入しやすくなるため、さまざまなサプライヤーと検証して、体積を減らしても同じ機能を実現する新材料を採用しました」(周氏)
TCLの宦氏は「C8Kシリーズは、新たに22個の特許技術を採用することでようやく実現しました」と自信を見せました。
新開発のCrystGlow WHVAパネルは「TCL CSOTと共同開発した『HVAパネル』のなかで最も性能の高い液晶パネルで、7000:1の高コントラストや超低反射、従来のVAパネル比で40%以上の広視野角などを実現しています」と宦氏は語ります。
「2019年、TCLが世界初のミニLEDテレビ『XT10』シリーズを発売し、その後5年間で各メーカーが追随してきました。ミニLEDテレビは、できるだけ分割数を増やすのと高輝度によって高コントラスト化し、高画質を提供するのが基本的な設計思想ですが、分割数を増やすだけでは高画質化の限界が見えました。そこでC8Kシリーズは、ハードウエアとソフトウエアの両輪でさらに高画質化を実現しています」(宦氏)
TCLは、2021年にバックライトと液晶層の距離を0mmに近付けた「OD Zero」(Optical Depth Zero)技術を発表。バックライトと液晶の距離がゼロになることで、バックライトの光漏れが最小限になるという技術です。
「C8KシリーズはOD Zeroまでは行っていませんが、光学距離を限りなく0mmに近付けています。それに合わせて、ローカルディミング(バックライト部分駆動)のコントロールソフトウエアも進化しました。ハードウエアとソフトウエアが両輪で進化した結果、1つの分割増が複数の分割増くらいの結果になりました」(宦氏)
宦氏は、C8Kシリーズの仕上がりについて自信を見せました。
「C8Kシリーズは、わずか2mm厚のガラス上でミニLEDモジュールの組み立て工程を行うため、開発・設計だけでなく製造能力に相当な精度が求められます。極端な環境で4,000時間もの信頼性試験を行っているので、これを全部クリアするのは高い製造能力を持つメーカーしかできません。日本では“匠”という言葉が使われていますが、我々も匠の精神でより良いテレビ製品を出していきたいと考えています」(宦氏)
○生活家電も本格的に展開予定
現在、TCLはテレビ製品を中心に日本に展開していますが、生活家電も本格的に日本市場に展開していく予定とのことです。
「日本においては、TCLブランドの生活家電カテゴリーの展開は大きくありませんが、現在はTCLの子会社が日本メーカーにOEM(相手方ブランド製造)やODM(設計製造委託)として冷蔵庫やエアコンなど多くの製品を提供しています。こうした経験を踏まえて、今後はTCLブランドとして日本市場に向けたローカライズ製品を提供していきたいと考えています。冷蔵庫はすでに展開しており、2025年末くらいにはエアコンも展開する予定です」(張総経理)
日本市場でテレビ事業を中心に、生活家電も幅広く展開していくためには、日本メーカーにどのように立ち向かっていくのでしょうか。
「まずは、ミニLED搭載の大型テレビを拡大することが一番のポイントです。2つ目は、日本の消費者のニーズに合わせたローカライズです。日本ではミニLEDテレビのシェアが高まっていることや、高リフレッシュレート製品の人気が高いといった傾向があります。研究や企画メンバーも日本にいるので、調査力を高めてより日本にふさわしい商品を持ってきたいと考えています。3つ目はブランド力強化です。アマゾンやヨドバシカメラなどの販売チャンネルの中でTCLのシェアを高めていきたい。
ロボット掃除機ではエコバックスやロボロック、アンカーなど中国メーカーの人気が上昇しているように、日本の家電市場もここ数年で大きく様変わりしようとしています。日本進出当初はコスパのいいテレビで認知度を高めたTCLのテレビ事業が、ハイエンド製品にシフトすることでどのようにテレビ市場の勢力図が変わっていくのか。今後に注目したいところです。
安蔵靖志 あんぞうやすし IT・家電ジャーナリスト 家電製品総合アドバイザー、スマートマスター。AllAbout デジタル・家電ガイド。デジタル家電や生活家電に関連する記事を執筆するほか、テレビやラジオ、新聞、雑誌など多数のメディアに出演。 この著者の記事一覧はこちら