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1980年代にスズキから登場したレーサーレプリカの名車といえば「RG250ガンマ」ですが、“オフロード版ガンマ”と呼ばれたモデルがありました。さて、それはなんでしょうか?
ヒント:スズキの2スト250ccです
「RG250ガンマ」と同じくスズキが市販したオフロードモデルで、新設計の水冷2ストロークエンジンはクラス最強のパワーが話題となりました。
――正解は次のページで!
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○問題をおさらい!
正解はこちら!
○【答え】スズキ「RH250」
正解はスズキの「RH250」でした!
「RH250」はスズキが1984年に発売したデュアルパーパス(公道走行用の市販オフロードモデル)です。前年に衝撃的なデビューをしたレーサーレプリカ「RG250Γ(ガンマ)」にWGP(世界選手権)で戦うワークスマシンの名称を使ったのと同様、このモデルも世界モトクロス選手権で1970年から1972年まで三連覇したワークスレーサー「RH」の称号がつけられました。つまり、それだけ本気のレーサーレプリカだったというわけです。
「RG250ガンマ」では高出力の水冷2ストロークエンジンや超軽量化に貢献する市販車初のアルミフレーム、そしてレーサー然としたフェアリングなど、従来の市販車では考えられなかった本格的な装備が話題となりましたが、この「RH250」の仕様も“オフロード版ガンマ”にふさわしい過激なものでした。
まずエンジンですが、当時の250ccクラスのデュアルパーパスでは、2ストモデルは扱いやすさを優先して排気量を200cc程度に抑えるのが一般的でした。しかし「RH250」は、完全新設計した水冷のフルサイズ(249cc)を搭載して35馬力のパワーを叩き出しました。これは200ccのライバル達を圧倒していたのはもちろん、オンロードスポーツのヤマハ「RZ250」やホンダ「VT250F」と同等の数値です。
また、ガンマの開発で得た量産アルミフレームのノウハウも活用し、当時のオフロードモデルとしては珍しくスイングアームに採用していました。これにより、車体は大柄ながらも乾燥重量はたったの103kgに抑えられています。ライバルの200ccは100kgを切る程度で、オンロードスポーツ最軽量の「RG250ガンマ」でも131kgでしたから、パワー&トルクウェイトレシオの優れた「RH250」はショートレンジで強烈な加速を見せつけました。
このように、スペックは超過激な「RH250」ですが、誰も乗りこなせない“じゃじゃ馬”というわけでもありませんでした。不用意にスロットルを捻れば容赦なくライダーを振り落とそうとしますが、フルサイズの排気量は低回転でも粘り強く、バランサーを搭載したことで不快な振動も抑えられています。
車格は大柄でもシートは低めで座面も厚く、ガソリンタンクも12リッターの容量を持っていたため、林道ツーリングをこなす実用性も備えていました。
しかし、「RH250」はガンマほどの大ヒットモデルにはなりませんでした。確かに1980年代は空前のバイクブームでしたが、バイクにあこがれて免許を取った若者が熱中したのはスポーツタイプのオンロード。オフロードは泥まみれのイメージが強かったのか、ほとんど人気がなかったのです。
また、当時のオフロードライダーはブーム以前からの経験者がほどんどで、彼らにしてみれば、いくら「RH250」がハイスペックでも、モトクロスコースなら競技用レーサーの方が速いし、林道ツーリングなら、燃費と耐久性に優れ、長時間でも疲れない4ストロークや、扱いやすい2ストの200ccを選ぶ傾向にありました。
その後、1980年代の終わり頃にエンデューロや林道ブームが到来しますが、数年の間にオフロードバイクの技術や設計コンセプトが大幅に進化したため、すっかり「RH250」は時代遅れのマシンになっていました。そこでスズキはワークスレーサー譲りの称号を捨て、かつての名車「ハスラーTS」に由来する完全新設計の「TS200R」を投入します。これにバトンを渡して「RH250」は生産を終了しますが、次世代モデルに比べるとデザインも古臭く見えたのか、フルサイズにもかかわらず中古車市場でも人気は出ませんでした。
こうして高いスペックを持ちつつも不人気車のまま終わってしまった「RH250」ですが、意外なところで大活躍する姿を披露しています。ひとつは1988年の『仮面ライダーBLACK』が駆る「バトルホッパー」や「アクロバッター」として、もうひとつは松田優作さん、高倉健さん、マイケル・ダグラスさんという超豪華キャストによる1989年の日米合作映画『ブラック・レイン』で、弟分の「RA125」と共演して迫力あるスタントを演じました。
実は筆者は「RH250」の元オーナーです。安さに釣られて購入し、どこに行っても『キリンみたい(笑)』とか『音が古っ!!』とバカにされましたが、オンロードでは見えなかった景色や、ジャンプやドリフトなどのスキルを教えてくれた最高の1台でした。
各メーカーの新型モデルにも試乗しましたが、テールハッピーなRHの方が楽しかったくらいです。
それだけに、『ブラック・レイン』で見つけたときは嬉しかったのですが、リドリー・スコット監督からNGが出たのか、エンジン音はGSX-R系の野太い4気筒サウンドに差し替えられていました。元オーナーからすれば、『あの音の良さは乗っていた人にしかわからないよなぁ……』と苦笑したものです。
それでは、次回もお楽しみに!
津原リョウ 二輪・四輪、IT、家電などの商品企画や広告・デザイン全般に従事するクリエイター。エンジンOHからON/OFFサーキット走行、長距離キャンプツーリングまでバイク遊びは一通り経験し、1950年代のBMWから最新スポーツまで数多く試乗。印象的だったバイクは「MVアグスタ F4」と「Kawasaki KX500」。 この著者の記事一覧はこちら
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