身体に良いけれどおいしくない。おいしいけれど罪悪感がある――そんな極端にしてありがちなジレンマを解決すべく誕生した日清食品「完全メシ」。


発売からわずか3年で累計4600万食を突破したその背景には、“お客さまの食欲に寄り添う”という強い思いと、日清食品ならではの最先端技術を駆使した開発力があった。今回は、日清食品 ビヨンドフード事業部 マーケティング部長・中村洋一氏に、「完全メシ」誕生の舞台裏やヒットの理由、そして今後の展望についてうかがった。

○■目指すは「好きなものを、好きなときに、好きなだけ楽しめる世界」

――まず、中村さんのこれまでのご経歴と現在の業務について教えてください。

1993年に愛知県のミツカンでキャリアをスタートし、営業やマーケティングに携わっていました。2006年に日本コカ・コーラに転職し、ブランドマーケティングやショッパーマーケティングを経験。その後、2018年に日清食品に入社しました。

入社後すぐ明星食品に出向し、マーケティングとプロモーションを担当しました。2023年に日清食品に戻り、「日清のどん兵衛」のブランドマネージャーを2年間務めたのち、2024年3月から現職のビヨンドフード事業部 マーケティング部長として業務にあたっています。

――長らく食品業界でキャリアを積まれてきたのですね。それではさっそく、「完全メシ」のコンセプトや誕生の背景を教えてください。

「完全メシ」は、“食”に関する課題解決を目指して生まれたブランドです。現代ならではの問題として、オーバーカロリーによる「肥満」、過度なダイエットなどにより、カロリーは足りているけれど、身体に必要な特定の栄養素が不足する「隠れ栄養失調」、粗食・小食を原因とした低栄養によって引き起こされるシニアの「フレイル(虚弱)」などが挙げられます。


健康を気にして食事を制限すると楽しみがなくなってしまいますが、何も気にせずに食べているとますます不健康になってしまう。このジレンマを解決するために、弊社の社長・安藤徳隆が掲げたのが「好きなものを、好きなときに、好きなだけ楽しめる世界をつくる」というビジョンです。

弊社では「Beyond Instant Foods」のスローガンを掲げ、「インスタントラーメン」に次ぐ新たな食文化の創造に挑戦しており、2019年10月にプロジェクトを始動しました。そこからコンセプトの設計やプロトタイプの開発を経て、2021年8月に「完全メシ」の開発がスタートしたんです。

――改めて、「完全メシ」の特徴を教えていただけますか?

「完全メシ」が最も重視しているのは、厚生労働省「日本人の食事摂取基準」で設定された33種類の栄養素のバランスが整っていることです。たんぱく質(P)、脂質(F)、炭水化物(C)の三大栄養素のほか、ビタミン、ミネラル、必須脂肪酸もバランスよく整えています。また、栄養素の中には独特の苦みやエグみを持つものがあるのですが、弊社の最新フードテクノロジーを駆使することでそれらを抑え、普段の食事と変わらない“おいしさ"を実現しています。

さらに、1食あたり約500キロカロリーを目安にし、食塩の量はスマートミール基準に則って1食3g未満に抑えています。
○■3年で累計4600万食突破! ブランド認知率もすでに50%超

――発売から3年が経ち、ラインナップもかなり増えましたね。どのくらいの販売実績があるのでしょうか?

2022年の発売から2025年5月末までの累計販売食数は、4600万食を突破しました。発売からちょうど3年経ちますが、想像以上のスピードで世の中に広がっています。

――それだけ急速に浸透した背景には、どんな理由があるとお考えですか?

まずは“おいしさと栄養の完全なバランスを追求する”というコンセプトが支持されたことだと思います。
また、「完全メシ」というネーミングがキャッチーで覚えやすいことも後押しになっています。ブランド認知率は3年を待たずして50%を超えました。「カレーメシ」など弊社が近年立ち上げたブランドと比較しても、この成長スピードには目を見張るものがあります。

現在のメインユーザーは、「健康に配慮した食生活を送りたいけれど、毎日食事を管理するのは大変」といった思いをお持ちの方々です。我々が提供する“栄養バランスが整ったおいしい食事を手軽にとれる”というソリューションに共感してくれているのだと思います。

――なるほど。そういう方々がリピーターになっているのでしょうか?

「完全メシ」シリーズはリピート率が非常に高いのですが、それは食べた方においしさを実感していただけているからだと思います。栄養素の中には苦みやエグみを持つものがあるので、従来の健康志向食品には「我慢して食べるもの」というイメージがありますが、「完全メシ」は普段の食事と変わらないおいしさを実現できていることが何よりもの強みです。

ラインナップも豊富で、カップライスやカップ麺、カップスープといった常温商品は14種類、冷凍食品では34種類ものメニューを取り揃えています。さまざまなシーンやその日の気分に寄り添える幅広い商品を展開していることも支持につながっている一因だと思います。
○■「汁なしカップヌードル」はなぜ難しかった? 開発秘話に迫る

――「完全メシ」は、すごくおいしいのに食べていて罪悪感がない。このおいしさの秘密はどこにあるのでしょう?

日清食品がこれまでインスタントラーメンの開発で培ってきた最新フードテクノロジーが、おいしさを生み出しています。


例えば、さまざまなうまみ素材などを駆使することで、栄養素の苦みやエグみを感じることなく食べられるようにする独自の「おいしさ再現技術」。また、お米と栄養素を一緒に炊き込むことで、米本来のおいしさを損なわずに栄養素を配合する「米の加工技術」。麺においては、中心層の一部に小麦粉の代わりに食物繊維やたんぱく質を使用する「3層麺製法技術」によって、おいしさはそのままに栄養素を配合しています。

そして、減塩技術。世界中から約170種類の塩を集めて研究し、ミネラルやアミノ酸などを配合することで、少ない塩分量でもしっかりと味を感じられるように工夫しています。

――170種類の塩を集めて研究! すごいこだわり……。

味に影響する要素は基本的に“塩”と“油”ですからね。

「完全メシ」は脂質のバランスにも配慮しています。例えば、「冷凍 完全メシ DELI やわらかロースかつ丼」。通常の製法で作った「とんかつ」を使うと脂質が多くなりすぎるのですが、脂質はおいしさに欠かせない要素ですので、大幅に減らすと「とんかつ」そのもののおいしさが損なわれます。そこで、油で揚げない特殊な製法をゼロから開発し、まるで油で揚げたようなジューシーなおいしさを持つ「とんかつ」が完成しました。

ただ、「完全メシ」を開発するうえで大切なのは、こうした技術だけではなく、“味”に対する妥協しない姿勢です。
開発メンバー全員が“おいしさ”をとことんまで追求していますし、それだけでなく社長もすべての商品を試食しています。厳しいチェックをクリアしないと、商品が世に出ることはありません。

――妥協せず、徹底的に“おいしさ”を追求している、と。

実は弊社には、中華やイタリアンなどの修行を積んだプロの料理人、“コーポレートシェフ”がいます。

「完全メシ」の場合、栄養バランスを調整する過程で、味が落ちてしまうことがあります。そうした問題を改善するため、プロとしての経験や技術をもとにアドバイスするのが“コーポレートシェフ”の役割です。例えば「塩分量をこれ以上増やせないけど、ちょっと塩気が足りない」という場合は、塩分量を増やすことなく塩味を感じられる素材をシェフが提案してくれます。

ただ、素材を調整しておいしくなっても、再び栄養バランスが崩れてしまうことも少なくありません。このような調整を何度も繰り返して、ようやく「完全メシ」が完成するんです。

――想像以上に地道な努力があるのですね。特に苦労した点などはありますか?

「完全メシ 汁なしカップヌードル」の開発は非常に苦労しました。「カップヌードル」は、多くのお客さまにとって“おなじみの味”になっていますので、少しでも味が違うと『これはカップヌードルではない』と感じてしまいます。
長年ご愛顧いただいているロングセラー商品ほど「完全メシ」化するのが難しいんです。

また、スパイスは栄養素のバランスを大きく崩すことなく味に変化を付けられるので、「完全メシ カレーメシ 欧風カレー」の場合は栄養バランスを調整しやすかったのですが、醤油ベースでシンプルな味わいの「カップヌードル」にはあまりスパイスを使うことができません。その中で栄養素が持つ苦みやエグみを感じにくくさせるのは本当に大変でした。
○■次なるステージへ! パッケージフードを超えた「完全メシ」の未来

――実際、「完全メシ」に対するユーザーからのリアクションなどは届いていますか?

最も多くいただくのは「想像以上においしかった」という声です。あとは「ラインナップが豊富で選ぶのが楽しい」というご意見も多いですね。リピート購入してくださっている方は、「私は麺派」「私はご飯もの派」といった“推しメニュー”があるようです。

また「冷凍 完全メシ DELI おにぎり」については、電子レンジで温めている間に出かける準備ができるので、「忙しい朝にちょうどいい」といった声をいただいています。

――やはり、メニューの数が多いと選びがいがありますね。

そうですね。ただ、ラインナップを増やすことだけが目的ではなく、「お客さまがどんなシーンで何を食べたいか」「どんなモチベーションで食べているのか」を常に考えてメニューを検討しています。ちなみに、新たなカテゴリーの商品も考えていますが……まだ発表できません(笑)

――それでは、言える範囲で結構ですので、今後の展望について教えていただけますか?

我々が現在メインで販売しているのはいわゆる“内食”の「完全メシ」ですが、コンビニやスーパーで売られているお惣菜やお弁当といった“中食”への展開も始めています。また、企業の社員食堂に「完全メシ」のメニューを導入していただく提案も進めています。

現状では、「完全メシ」を手に取っていただけていないお客さまも沢山いらっしゃいます。一部のヘルシーコンシャス層だけでなく、老若男女問わず幅広い層の方々に栄養バランスの整った食事を提供し、ウェルビーイングの向上に貢献するのが当社の目標です。誰もがいつでも「完全メシ」を手に取っていただけるような未来を⽬指して、商品ラインナップの拡充やタッチポイントの拡大を図っていきたいと考えています。

――楽しみにしています!

食べる楽しみを我慢せず、健康的な食生活をキープする。「完全メシ」は忙しい現代人の味方として、今後、ますます多彩なラインナップを展開し、進化を続けていく。
編集部おすすめ