毎月の支出を見直そうと思っても「何から手をつければいいかわからない」「我慢の節約は続かない」と感じている方も多いのではないでしょうか。そこで累計100万人以上にお金の診断を行ってきた、国内最大級の家計診断・相談サービス「オカネコ」所属の1級FP(ファイナンシャル・プランナー)/CFP 松井大輔さんが家計を分析。
難しい知識なしで、あなたの生活にフィットした"ムリなく見直せる支出のヒント"をお届けします。連載2回目となる今回は神奈川県にお住いの32歳女性、ご職業は会社員(営業職)のKさんの家計簿を見ていきます。
○神奈川県在住・32歳・会社員・手取り29万円のKさんの支出の内訳は?
プロフィール
お名前: Kさん
年齢: 32歳
性別: 女性
職業: 会社員
世帯構成: 一人暮らし
月の手取り収入: 29万円
総貯蓄額: 約300万円
Kさんの家計簿の内訳はこちらです。
○FPがやさしく分析! 生活にフィットした改善ポイントとは?
FPの目線から見ると、手取り収入に対して一定の貯蓄を確保しつつ、住居費や食費などの主要支出が適正な割合に収まっており、家計の健全性が高いことが見て取れます。こうした状況は、将来への備えやライフプランニング設計において非常に有利な出発点となりますが、さらなる最適化を目指すためには、特に交際費・通信費の中身に注目して支出の内訳を見直すことが効果的です。
○ポジティブポイントは?
一般的に理想とされる「手取りの20%を貯蓄」という基準をしっかりクリアしており、堅実に家計管理ができていて素晴らしいです。一般的に家賃は手取りの25~30%以内に収めるのが望ましいとされますが、Kさんは28%となっており無理のない水準です。
食費の25,000円という金額から見ると、自炊を中心にうまく節約されている印象があり、とても優秀にコントロールされています。ただし、後述の「交際費」とのバランスには注意が必要です。
○改善ポイントは?
交際費/その他が全体の17%以上を占めており、節約の余地があります。特に「その他」部分の中身を洗い出し、見直せる支出がないかチェックしてみましょう。
通信費は格安SIMやサブブランドなどに乗り換えることで、毎月数千円の節約が期待できます。
固定費は一度見直すと節約効果が持続するため、まず手をつけたいポイントです。
○リアルなお悩み: 通信量節約のコツ、保険の見直し方、投資を始めた方がいいですか?
続いて、KさんからFPにいただいた質問に回答していきます。
Q. 通信費の節約のコツを教えてください。また、変動費と固定費はどのような比率にするのが理想なんでしょうか?
通信費は、一度見直すと節約効果が長く続く"固定費"の代表格です。以下のような方法で見直しを進めてみましょう。
大手キャリアからの乗り換えを検討
現在、大手キャリアを利用している場合は、サブブランドや格安SIMへの乗り換えを検討してみてください。月額料金が大幅に下がるケースもあります。
オプションサービスの整理
通話が少ない方は、「通話料定額オプション」を外すのも一つの手です。加えて、留守番電話サービスや動画配信系など、使っていないオプションがあれば解約を検討しましょう。
実際のデータ使用量に合ったプランに変更
たとえば、月5GBも使っていないのに月20GBや無制限のプランを契約している方は、小容量プランに変更することで節約につながります。
年に一度は契約内容を見直す
ここも非常に重要ですが、利用状況と請求内容を出来れば年に1回、少なくとも2年に1回は確認し、現在の使い方に合ったプランになっているかをチェックしましょう。
家計のバランスを考えるうえで、固定費・変動費・貯蓄のバランスを意識することは大切です。
一つの目安としては、手取りに対して以下のような比率が理想とされています。
固定費: 50~60%(家賃、通信費、保険料など)
変動費: 30~40%(食費、日用品、交際費など)
貯蓄: 10~20%
ただし、これはあくまで目安であり、ライフスタイルや家族構成によって適切な比率は変わりますので、参考程度に捉えてください。節約を始める場合は、まず「固定費」から見直すのがおすすめです。固定費は一度下げるとその効果が毎月継続するため、無理なく長期的な節約につながるというメリットがあります。
Q. 保険は勧められたものに、そのまま入っています。見直しの手順を教えてください。
「勧められるままに入った保険を、なんとなくそのままにしている」という方は、実は少なくありません。ですが、ライフステージや収入、家族構成の変化に合わせて、保険も見直すことが大切です。適切に見直すことで、固定費を大きく減らせる可能性もあります。
以下の3つのステップで、自分に合った保険を考えてみましょう。
Step1 必要な保障内容を整理する
まずは、自分にとってどんなリスクに備える必要があるかを明確にしましょう。
万が一の死亡に備える「死亡保障」は必要か?
病気やケガによる医療費をカバーする必要はあるか?
がんや三大疾病など、特定のリスクに対する備えは必要か?
働けなくなった場合の収入保障は必要か?
こうしたリスクが現実に起きたとき、預貯金などの保有資産でどこまでカバーできるかを考えながら、必要な保障を洗い出していきます。
たとえば独身で扶養家族がいない場合、死亡保障は最小限でも問題ないケースもあります。次のステップで確認する「公的保険」も踏まえながら、本当に必要な保障を洗い出していきましょう。
Step2 公的保険と必要保障額を確認する
続いて、Step1で挙げたリスクについて、公的制度でどのくらいカバーされるかを確認します。以下は主な制度の一例です。
遺族年金(遺された家族の生活保障)
障害年金(障害が残った場合の生活支援)
高額療養費制度(医療費の自己負担軽減)
傷病手当金(病気やケガで働けなくなった場合の収入補填)
これらをふまえたうえで、「公的保険では足りない部分=必要保障額」を見積もります。
Step 3 現在の保険内容を確認する
最後に、今加入している保険内容を確認し、Step 2で算出した「必要保障額」と比較します。以下のポイントをチェックしてみましょう。
必要な保障がきちんとカバーされているか?
保障内容が重複していないか?
保険料が無駄に高くなっていないか?
保障が足りない場合は補う方法を検討し、逆に過剰であれば削減を視野に入れましょう。
最後に: プロへの相談も選択肢に
ここまでの内容を自分だけで整理するのは、正直なところ大変だと思います。特に、公的保険制度をもとに具体的な必要保障額を算出するのは、十分な知識がないと中々難しいでしょう。そのため、ファイナンシャル・プランナーなどの専門家に相談するのも有効な選択です。ただし、注意したいのは以前と同じように「勧められるままに加入する」のではなく、今回整理した考えをもとに、自分の意思で選ぶ姿勢が大切だということです。
Q. 毎月の貯金も総貯蓄額の約300万円もすべて預金で保有しています。投資は怖くて始められません。投資を始めた方がいい理由を教えてください。
確かに、投資には元本割れのリスクがあり、「投資は怖い」「お金が減るかもしれない」と不安に感じるのはごく自然なことです。大切に貯めたお金が減ってしまう可能性を考えると、慎重になるのは当然ですよね。ですが、実は「現金だけで資産を保有し続けること」にも、見落とされがちなリスクがあります。
その代表例が、最近多くの方が実感している「物価上昇(インフレ)」です。たとえ貯金そのものが減らなくても、物価が上がれば、同じ金額で買えるモノやサービスが少なくなり、その結果、お金の実質的な価値が下がってしまうのです。また、預貯金の金利は徐々に上昇しているとはいえ、まだまだ低い水準にあり、資産を増やす手段としては頼りない状況です。だからこそ、インフレに負けず、お金を"育てる"ためには「投資」という選択肢が重要になってきます。
もちろん、投資にはリスクがつきものです。しかし、「長期・分散・積立」といった基本的な手法を取り入れることで、リスクを抑えながら安定的な資産形成を目指すことができます。
また、NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)といった国が後押しする制度を活用すれば、税制上のメリットを受けながら投資を始めることが可能です。「投資=一発勝負で大きな利益を狙うもの」というイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、実際には資産を守り・コツコツ育てる手段のひとつとして、少額からでも無理なくスタートできます。まずは仕組みを知ることからでも、一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。
Q. 貯金は約300万円で30代にしてはよくできている方だと思っているのですが……実際はどうですか?
30代で貯金が300万円あるというのは、非常にしっかりと貯蓄ができている印象を受けます。この年代はライフイベントが多く、貯蓄よりも消費にお金を回しがちな時期とも言われますが、そのような中で着実に貯蓄を積み上げてこられたことは、自信を持ってよい成果だと言えるでしょう。
実際、金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査](令和5年)」によると、30代単身者の金融資産保有額の中央値は100万円となっており、300万円の保有は上位約35%に入る水準です。なお、インターネットなどで目にする「平均値」は、一部の高額資産保有者によって数値が引き上げられる傾向があるため、実態に近い指標としては「中央値」の方が参考になります。
家計管理において大切なことは「我慢する節約」ではなく、自分のライフスタイルに合った"見直しの工夫"を見つけることです。小さな改善の積み重ねが、将来の安心ややりたいことを実現する力になります。
次回は、神奈川県にお住まいの30歳会社員、27歳サービス業の方の家計簿を監修していきます。お楽しみに!
※本家計簿の内容は、オカネコに寄せられた相談をもとにしたイメージであり、実在の人物や家計とは一切関係ありません。
松井大輔(オカネコ) まつい だいすけ 1級FP技能士/CFP/公的保険アドバイザー/生命保険募集人/証券外務員一種/宅地建物取引士。
約1,200人に対するコンサルティングと300回以上のマネーセミナー実施経験を持ち書籍・Web記事の監修も多数行う、元エンジニアの敏腕FP。エンジニア時代に培った論理的思考を用いてお金の話について分かりやすく伝えるをモットーに、総合的なライフプランニングによって住宅資金、教育資金、老後資金を「最適」な金融商品・制度を用いて戦略的に準備するアドバイスを得意としている。家計の改善をマンツーマンでサポートするトレーニングサービス「OKANE-KOllege(オカネカレッジ)」の講師も担当。 この著者の記事一覧はこちら
編集部おすすめ