第84期順位戦B級1組(主催:朝日新聞社・毎日新聞社・日本将棋連盟)は2回戦全6局の一斉対局が東西の将棋会館で行われました。このうち、東京・将棋会館で行われた伊藤匠叡王―佐藤康光九段の一戦は79手で伊藤叡王が勝利。
○剛腕流のダイレクト向かい飛車
今期のB級1組は2つの昇級枠を13名で争うもの。広瀬章人九段・菅井竜也八段らA級経験者から服部慎一郎七段・青嶋未来七段ら昇級組の成績まで幅広く注目が集まります。白星スタート同士の対決となった本局、後手番となった佐藤九段は得意のダイレクト向かい飛車を採用しました。すぐさま逆棒銀の要領で仕掛けたのが趣向とみられる作戦選択です。
佐藤九段らしい剛腕流の急戦策を見た先手の伊藤叡王ですが動じません。攻防の自陣角で後手にも角打ちを強要させたところで、すぐさまフェイントのように角交換を拒否したのが高級手筋。スルスルと繰り出した右銀で敵角をいじめて主導権を握りました。決断が求められる局面でもテンポよく指し手を進める伊藤叡王の様子からは事前準備の深さがうかがわれます。
○快勝で暫定首位に
飛車交換が行われて盤上は終盤戦へ。形勢は難解ながら、先手は数手前に再び放った自陣角がよく働き、後手の美濃囲いをにらんでいます。手番を握った伊藤叡王はここから緩みない寄せで敵陣攻略に成功しました。
秘孔を突いた伊藤叡王の攻めを前に、この日はさすがの佐藤九段の剛腕も鳴りを潜めました。終局時刻は21時26分、最後は逆転の見込みなしと認めた佐藤九段が投了。二度の自陣角でペースを掴み、逆棒銀攻略に成功した伊藤叡王によるお手本通りの快勝譜となりました。これで伊藤叡王は2勝0敗で暫定首位、3回戦では稲葉陽八段と盤を挟みます。
水留啓(将棋情報局)