愛用する腕時計を手がかりに"人生の時"を語ってもらうインタビュー連載『夢を刻む、芸人の時計』。テレビでおなじみのあの芸人は、どんな若手時代を過ごし、ブレイクの瞬間を迎え、どうやって未来を刻んでいくのだろうか? そのストーリーに迫る。


本稿で話を聞いたのは、お笑いコンビ 見取り図のリリーさん。NSC(お笑い養成所)大阪校29期生、2007年に相方の盛山晋太郎さんと見取り図を結成している。
○父の存在が重なるロレックスが目標に

――人生で初めて購入した腕時計を覚えていますか?

自分で購入したとしっかり記憶しているのは「ロレックス エクスプローラーⅠ」ですね。大阪から東京に出てくるギリギリくらいのタイミング、5年くらい前だったと思います。

それまでは父からもらったロレックスのデイトジャストをつけていました。父は僕が小学5年生のときに亡くなったんですが、時計を100本くらい持っていたので、ずっと買う必要を感じていなかったんです。

――エクスプローラーを購入しようと思われたきっかけは?

番組の企画がきっかけです。ちょうど買える余裕が出てきていたので、買おうと決めました。

ロレックスにはイメージとして父の存在が重なっていて、「父からもらった時計より、高い時計を買えるようになったら買おう」と、一つの目標にしていました。

僕はまだ結婚もしてないですけど、もし将来子どもを持つことがあったら、父と同じように子どもにあげるんだろうなと思います。

――お父さまが所有されていた100本の腕時計はその後、どうなったのですか?

持ってきているロレックスのデイトジャスト以外は、実家にあると思います。コレクションの中にはGMTマスターもあったんですけど、それは兄弟のヒエラルキーで負けて、兄に譲りました(笑)。


○一番しんどかったのは「M-1」のあと

――初めて舞台に立たれたときの感想や当時の心境を教えてください。

NSCで、選ばれた芸人だけが出られる発表会のようなものがありました。満席で400人くらいいたと思います。初めてだったので緊張していましたが、つかみからうまくいったので、そこからは緊張しなかったです。ただ、出る前はめちゃくちゃ緊張しました。

そのネタがめっちゃ"ウケた"んですよ。たぶん人生で一番くらい。もうあんまり覚えていませんが、自分でもすごく面白かったと思います。新人でまだ磨かれていない分、自分が一番出ていたので、見ている人にとっても新鮮だったんじゃないかなと思います。

そのとき「芸人チョロいな」とか思ったんですけど(笑)、そこからがもう難しかった。まぐれだったんでしょうけれども、あそこでウケた経験があったから、いままで続けられたかもしれないですね。あのときスベっていたらヤバかったと思います。


――これまでで「時間が止まってほしい」と感じた瞬間はありますか?

よくみんな「M-1に出た瞬間」とか言いますが、僕はM-1に出てからはしんどい記憶しかないので、むしろあの瞬間は早く流れていって欲しかったです。

毎日のように番組で同じようにM-1のことばかり聞かれて、初めての仕事ばっかりだし、休みもなかったので、ありがたいことなんですけど、とにかくしんどかったですね。

――では逆に「時間を巻き戻して戻ってみたい」瞬間は?

お金もなくて、売れてなくて、それでもみんなで慰め合って酒を飲んでいたときが、もしかしたら一番楽しかったかもしれません。でも戻りたいかというと、戻りたくはないです。もう一回やるのは嫌です(笑)。いま振り返ると楽しく感じますが、そんなものなのかもしれませんね。

――芸人をやめたいと思ったタイミングはありますか?

ないですね。つらいときもありますが「どうにかなるやろ」と思っています。性格的にあまり考えていないんでしょうね。「もう一度人生をやり直して、いまの自分を超えられるか?」と言われたら分かりませんが、芸人より結果を出せる仕事があるかと考えると謎ですね。

――現在、一番楽しい時間はどんなときですか?

基本的に仕事って、いまの自分からアウトプットすることばかりなので、何か新しいことをやったり吸収したりしているときが楽しいです。

最近、番組でネイリストの検定を受けたんですよ。
10回くらい授業に行って、ちゃんと勉強して本格的に取り組みました。時間はめっちゃ取られましたけど、やりがいがありました。番組の企画で新しいことにチャレンジさせてもらえるのは、とってもありがたいですね。次は登山をやってみたいです。

たまの休みも、銀行に行ったり、髪を切ったり、税理士の人に会ったり、"完全にオフ"の日がないので、もっと時間が欲しいなとは思いますね。
○時計を巻くと自分も一緒にチューニングしている感じがする

――いまのリリーさんにとって腕時計とはどんな存在でしょうか。

僕は腕時計をつけていないと落ち着かないので、100%、毎日つけています。最初はロレックスのように、みんなが価値を理解できる時計が欲しかったんですが、途中から自分さえ価値が分かっていればいいや、という気持ちになりました。

それと、やっぱり僕にとってはオシャレの一つかな。例えばアメカジの気分ならハミルトンのパルサーをつけますし、高級感を出したかったらロレックスをつけます。靴とかと一緒の感じです。

それとは別に、ジンクスとしてつけているところもあります。
芸人を始めたころは、大きな仕事のときは必ず父からもらったロレックスをつけていたんですよ。

まあ実際はそんなに甘い世界じゃないですし、つけたところで変わらないんですけれど、0.1%でも心の余裕ができたらいいかなって。女性の方のネイルと同じで、腕時計も必ず目に入るじゃないですか。自分のテンションを上げるためにつけているのかもしれませんね。

――腕時計をつけると気分が変わったりすることはありますか?

時計のゼンマイを巻く時間は嫌いじゃないですね。タクシーの中とかで巻くんですけど、その瞬間は「なんか俺ちょっと大人っぽいな」って思います。かっこいい言い方をしたら、「自分も一緒にチューニングしている」感じがしますね。

○1年に1本はいい時計を買えるように、いい仕事をしたい

――とくに大事にされている時計を教えてください。

もう全部大事にしていますね。父からもらったロレックスもまだ使っていますし、エクスプローラーⅠも使っています。ヴァシュロンも買いましたし、今年はカルティエも買いました。

あと、この前オメガも初めて買いましたね、アンティークでめっちゃ安いやつ。
それと、1,200円くらいのチープカシオ。逆にめっちゃかっこいいと思って、たまにつけてます。……俺、めっちゃ買ってるな(笑)

――いつか手に入れたい腕時計は?

最近めっちゃいいなと思ったのは、パテック フィリップの「スプリットセコンド・クロノグラフ」ですね。価格が4,000万円以上なのでちょっと買うのは無理なんですけれども。

現実的に買おうかなと思っているのは、オメガの「シーマスター アクアテラ」の深緑とか文字盤が派手なやつとか。いま使っているのは落ち着いたシルバーが多いので、そっち系を1本。

その次に買うとしたらチューダー。あと「サントス ドゥ カルティエ」のゴールドとか。最近、アンディー・ウォーホルがピアジェをつけていたと知ったので、それも欲しいです。フランク ミュラーも。無限に出てきますね。

時計っていう趣味は、すごく男の子の趣味って感じがしますよね。
いっぱい欲しいですし、集めたい。本当は一つでいいはずなのに。見るだけでもなんか楽しいんですよね。時間を見るためのものなのに、時間を見るだけのものじゃないというか、なんなんですかねこの存在感。付加価値がすごい。

目標として、1年に1本はいい時計を買おうと思っています。時計は欲しいなと思ってもなかなか買えないじゃないですか。一期一会がすごく大事で、出会ったタイミングで欲しい時計を買えるだけの収入を得られるように、仕事もがんばらなきゃなって思います。
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