両備システムズ 代表取締役社長であり、両備ホールディングス 代表取締役CSO(最高戦略責任者)を務める松田敏之氏は「両備システムズは、両備グループの中核企業である」と位置付ける。連載「『ともに挑む、ともに創る。
』 - 歴史を未来につなぐ両備システムズの60年」の一覧はこちらを参照。

約50社で構成し、約300業種を展開する両備グループにおいて、最も高い成長性と収益性を実現しているだけでなく、今後のグループ企業とのシナジー効果や、外部企業とのパートナーシップによる新たな挑戦を積極化することで、両備グループ全体の成長戦略を下支えすることになるからだ。

両備グループでは、2027年を最終年度とする中期ビジョン「RYOBISION(リョウビジョン)」を策定。8つの経営ミッションをベースに、両備グループが取り組むいまと未来の姿を「ツリー」として図式化したものとなる。

「しっかり根を張り、高く伸びる」ことを目指す、この中期ビジョンの推進においても、両備システムズが果たす役割は大きい。松田敏之社長に、両備グループ全体の成長戦略と、両備システムズの今後について話を聞いた。

経営理念「忠恕(ちゅうじょ)」が支える企業文化
○--まず、両備グループ全体について教えてください。両備グループは、2025年7月31日に115周年を迎えます。100年以上の歴史のなかで、社会に対して、どのような役割を果たしてきた企業グループなのでしょうか。

松田氏(以下、敬称略):両備グループは、1910年7月31日に岡山市内で西大寺軌道を設立し、西大寺鐵道による11.5キロメートルの軽便鉄道事業を開始したことがはじまりです。それ以前からも柳屋の屋号で、燃料の販売事業を行っていましたが、地域の生活を便利にし、発展に貢献する姿勢は、そのときから変わりません。

西大寺鐵道の誕生は、地域の移動に革命を起こし、人々の生活を大きく変えたわけですが、国鉄(現・JR)が赤穂線を開業し、より速く・多くの乗客を乗せて移動できるようになったことで、地域にもっと貢献できる手段は何かを考え、鉄道事業を閉業する一方でバス事業を拡大し、地域の移動を支えてきました。


同時に、バスでつないだ地域の発展のために、スーパーマーケットやエネルギー、不動産へと事業を広げ、いまではグループ全体で約50社、約300業種の事業を展開しています。地域密着で、これだけ幅広い事業を展開している例は、世界中を見回しても稀有だと言えます。

「人を運ぶ」「モノを運ぶ」「情報を運ぶ」といったように「運ぶ」ことに力を注いできましたが、いまではその枠には収まらない企業グループとなっています。創業100年目を迎えるまでは、岡山県に根差した事業が中心でしたが、この15年間はあらゆる事業において、全国展開したり、海外に進出したりといったことを積極化しています。多角的に、多領域に事業を展開しながら、地域分散を図り、より安定した事業ポートフォリオの確立に挑んでいる段階にあります。
○--両備グループでは、真心からの思いやりを意味する「忠恕(ちゅうじょ)」を経営理念に掲げています。その実践が115年の歴史を支えてきたと感じます。

松田:経営理念の多くは、企業の方向性やいかに社会貢献するのかなどを打ち出すケースが多いのですが、両備グループの経営理念は精神を示したもので、その点でも珍しいものです。

忠恕という言葉に込めているのは、お客様に対して、あるいは社会に対して思いやりを持ち、社員同士も思いやりを持って仕事をする企業であるということです。社内で物事を判断する場合にも「それは、思いやりを持った判断になっているのか」といったことを重視しています。

忠恕という言葉は、創業者である松田与三郎の戒名に刻まれていたものであり、まさに思いやりを貫いた人物が創業したのが両備グループです。このDNAを長年貫き続けてきた企業であることは間違いなく、そこに両備グループらしさがあります。

「人軸経営」の実践
○--両備グループにおいて、両備システムズはどのような位置付けになりますか。

松田:岡山県内で両備グループと言えば、Ryobiブランドのバスが縦横無尽に走っていますから、バス事業の会社としてのイメージが強いといえます。また、交通運輸関連事業がグループ売上高の約4分の1を占めており、最大の事業となっています。

しかし、いま「両備グループは何の会社か」と聞かれれば、私は「ICT事業を中心とした会社」と答えています。そのICT事業を担っているのが両備システムズです。

では、なぜICT事業が中心なのか。それには理由があります。まずは経常利益率がグループのなかで最も高い事業部門であること、また将来性がある事業であること、さらに今後グループ企業との事業シナジーを生み出しやすい事業であることです。そして、ボトムアップの文化が最も浸透している企業であることも重要な要素です。

両備グループは同族経営の企業ですから、トップダウンが強い傾向にあります。しかし、トップダウンの判断がすべて正しいというわけではありません。間違っているときに、それを指摘する文化がICT事業のなかには定着しています。
また、トップダウンだけでは経営層が考えたもの以上にはならないことが多いのが実態です。

大切なのはトップダウンとボトムアップを融合することであり、ICT事業はそこにも取り組んでいます。たとえトップダウンのテーマであっても、自分たちなりに考え、実行し、成功につなげることに幸せを感じながら仕事をしている社員が多いことは心強いですね。こうした文化が定着しているからこそ、両備グループが掲げている「想像もつかない世界」を実現でき、社員自身の幸福度も高めることができるのです。

また、私は2019年6月に両備ホールディングスの社長に就任したときに「人軸経営」を打ち出しました。この人軸経営を最も実現しているのがICT事業だと思っています。
○--「人軸経営」とは、どのようなものですか。

松田:社員は何のために働いているのかということを考えた場合、それぞれのステージで目的や理由が違ってきます。まず、第1フェーズの入社1~3年目の社員は、自分が社会で生きるための基礎や地盤を作ることが働く目的になります。

仕事の仕方やマナーを覚えて、社会で生きていけることに徐々に確信が持てるようになると、第2フェーズとして家庭を持つというステップへと踏み出すことができ、働く目的が家族のためへと変化していきます。また、同僚を大切にしたり、友人を大切にしたりといったことに高い関心を持つ人もいるでしょう。

会社側は、家族を幸せにすることができる人には、ぜひ会社の仲間の面倒も見てもらいたいと思いますから、組織を率いて仲間を幸せにするために仕事をしてもらい、そこに力を発揮してもらいます。
これが第3フェーズです。

そして、仲間を幸せにするにはどうするのかを考え始めて気付くのは、その近道はお客様を幸せにするという点です。第4のフェーズでは、お客様のために仕事をすることに意識が変わるのです。

お客様を幸せにしていくことが定着すると、次はレベルが一気に上がり、社会全体を幸せにと考えるようになります。地域や社会にどう貢献するか、自分が生きている間に少しでも役立ちたいと思い始めます。これが第5フェーズです。

このように、働く人のステージや意識が変わるごとに、人を軸として社員を支援していく必要があります。最初は社会で生きていくための人づくりの部分を支援し、次に家族などの幸せに向けて仕事に取り組む社員をサポートする。そして、その先では仲間を幸せにし、お客様を幸せにするために仕事ができる環境を整えることが必要です。

上司・部下間におけるミスマッチの多くは、相手のことを理解できていないことです。自分の成長のことで精一杯の若い社員に、社会にどうのように貢献するのかという話をしても通じません。相手がどういうステージにあるのかを理解し、思いやる形でコミュニケーションをとることが重要なのです。


一方で、経営者は働きやすい環境を作り、ステージを上げていけるように支援しなくてはなりません。これが、会社の成長と社会の貢献にもつながります。両備グループは、社員とその家族が老後まで安心できる仕組みを構築し、安定的な生活基盤を提供することを目指しています。これを実現するための経営が人軸経営なのです。社員は、両備グループという組織にいることで、想像もつかない学びや体験、成長などが期待できます。

ICT事業は、人軸経営が最も浸透しており、私が考えている最初のゴールの約6割のところまできています。グループ企業のなかには1割に至っていないところもありますからね(笑)。ICT事業での成果をもとに、グループ全体に、人軸経営を広げていきたいと考えています。
新技術×新市場への挑戦、医療AI・FinTech・M&Aの展望

--60周年を迎えた両備システムズは、どのようなフェーズに入っているのですか。


松田:地方のICT企業だった両備システムズが、全国展開するシステムインテグレータとも肩を並べる企業に成長してきたと自負しています。もともと得意としている行政、医療の分野から、民需の世界にも事業が広がり、新たな市場に向けた大きな挑戦にも取り組んでいます。

政府が推進している自治体システム標準化の動きに対しても、約3年前から準備をはじめ、やり切る力を発揮してくれています。
チャレンジ精神が旺盛な企業ですから、私が知らないような挑戦にも取り組んでくれています。データセンターを含め、これからの時代に必要なものに対して投資を強化するなど、足元をしっかりと整え、未来の成長に対しても大きな希望を持てるフェーズに入ってきたと言えます。

新規事業では、為替ディーラーの知見を活用したAIで為替動向を予測し、AI特化型為替ヘッジファンドを設立するなど、FinTechの領域にも取り組んでいます。為替に関するAIは世界でも珍しく、この成果は世界各国の年金運用に活用できるかもしれません。

また、医療分野では2018年度から岡山大学医学部との共同研究により、AIを活用した画像解析で早期の胃癌の深達度を判定し、医師の診断を支援するシステムを開発しています。医療の現場において患者の命を救うことにも、両備システムズは乗り出しています。

このように、両備システムズは新たなテクノロジーを活用することで、金融や医療の現場から世の中を変えていく取り組みに挑戦しているところです。さらに、M&A(合併・買収)も積極化しています。

60年の両備シテスムズの歴史においてM&Aの実績はほとんどありませんでしたが、2013年に税金の滞納管理システムで実績を持つシンクと資本提携し、さらに2021年にはアパレル分野を得意とするドリームゲートを譲り受けました。

アパレル分野は従来から卸売のシステムを自社開発して提供していましたが、ドリームゲートのお客様から支持を得ている小売のシステムを追加し、製造、卸売、小売で一気通貫のサービスを目指しました。

グループインした会社が持っている資産を最大限に引き立てるために、縁の下の力持ちとしての役割を果たすことで、仲間入りした企業がこれまで以上に成長するといったケースが多く見られています。ICT事業のM&Aは、これからもますます加速していくことになります。
両備グループのDX推進と業界の常識を変えるイノベーション
○--両備グループの成長戦略において、両備システムズはどんな役割を果たしますか。

松田:両備グループのこれからの成長戦略を描くうえでデジタルは不可欠なものになります。両備システムズは、計算センターからスタートし、60年間にわたりデジタルに関する多くのノウハウを蓄積してきました。しかし、振り返ってみると行政と医療を中心とした専業特化を進め、グループ企業以外に価値を提供してきたとも言えます。

裏を返せば、両備グループの各事業とのシナジーは、あまり追求してこなかったのです。両備グループという幅広い事業を行う企業グループにありながらも、ICTという領域では、あまりシナジーが発揮されてきませんでした。両備グループの立場で見ると、両備システムズというICTに強い企業がありつつ、グループ全体にICTのマインドを浸透させることができなかったという反省があります。

現在、両備グループ全体で進めているのは、別の事業部門が持つ知見を自らの事業に生かしていくことです。両備グループのバス事業や物流事業、介護事業、小売事業、エネルギー事業とICT事業が組むことができないかといったことを模索しています。両備システムズが他のICT企業と違うのは、現場を持つ企業がグループ内に多くあるという点です。

これは富士通やNEC、IBM、アクセンチュア、マイクロソフト、SalesforceなどICT業界の大手企業と大きく異なる部分です。さまざまな業界において新たなテクノロジーを実装し、先行的に実験することで今後どのように変えていくのかといったことを仲間同士で話し合うことができます。つまり、グループ内のデジタル化だけでなく、それぞれの業界で革新や革命を起こすことができるポジションにいるわけです。

そうした観点からも両備システムズはグループ全体のデジタル化とともに、成長を牽引する役割を担うと考えています。実は、私は両備システムズが両備グループの親会社になるべきだと提唱しています。名実ともに、ICT事業が中核になることで両備グループ全体を成長させる仕組みが構築できると思っているからです。

一方で、グループ内でのシナジーだけでなく、地域・社外の企業とも共創できないかということに取り組んでいます。「業界の常識は、世間の非常識」であると捉え、異なる業界の常識を当てはめることで、新たな発見が生まれ、そこにビジネスが創出できると考えています。

たとえば、サービス業では店の扉が開くと「いらっしゃいませ」と言うのが業界の常識ですが、バス業界では扉を開けても「いらっしゃいませ」とは言いません。むしろ、お客様が「ありがとう」と言ってお金を払っていく。サービス業の常識から見れば、バス業界の常識は非常識に見えるわけです。

バス事業をICT事業の視点で捉えると、さまざまな課題と解決策が見えてきます。その結果、生まれてきたのが「コネモビ」です。これまで全国の高速バス会社は、それぞれに路線を設定し、チケットを販売していました。

仮に岡山から熊本に行こうとすると、両備バスの福岡行き高速バスのチケットを購入し、福岡からは西鉄バスのチケットを別に購入しなくてはなりませんでした。しかも乗り換えがスムーズではなく、待ち時間が長いといったことも発生していました。

これがバス業界の常識だったわけです。しかし、ICT事業の視点で捉えれば、複数の高速バスをワンチケットで乗り継ぐことができ、決済も一回で済めば、これだけ便利なことはないという発想が生まれます。乗り継ぎの時間にあわせてダイヤ調整を行ったり、乗り継ぎが多い路線ではそれぞれのバス停を近くに置いたりといったように、さらに乗りやすい提案も行うことができます。

コネモビは、バス事業とICT事業が共同で作り上げた新たなプラットフォームであり、すでに成果を生み始めています。DX(デジタルトランスフォーメーション)やIoT、AI、ロボティクスなど、新たな技術を活用することで業界の非常識を改善できます。両備グループ全体で、そうした視点を持ち、DXを進めることが今後は大切になると思っています。

それぞれの業界の常識と非常識を、デジタルの目線から変え、常識を壊し、時代の変化に対応していくことが、あらゆる業界でますます重要になります。両備グループが、こうした状況に挑むことができるのは、数多くのグループ会社の存在、そして両備システムズの存在があるからです。

横軸に新しい市場、古い市場、縦軸に新技術、既存技術の四象限としたときに、自らが新しい市場を作り、新しい技術を提供するのはなかなか難しいかもしれません。しかし、古い市場に新しい技術を取り入れる部分には、両備システムズの力を発揮することができます。

両備グループにはバスやタクシー、エネルギー、小売、不動産をはじめ、古くから存在している市場は多くあります。ここに、ICT事業が持つ新たな技術を用いて、提案することで大きなビジネスチャンスが生まれます。

また、新たな市場に対して、既存技術を展開することも事業拡大につながります。たとえば、交通分担率を見るとバスに乗っている人はわずか2%です。既存のテクノロジーを活用することで速達性や安全性が向上し、蓄積したデータをもとにバス停の位置を変えたり、路線を変えたりすることで、2%の交通分担率を4%に拡大すればバス事業の売上げは2倍になります。

これまでバスに乗っていない新たなお客様に対して、既存技術を活用することでビジネスを変革できます。一方で、受託開発に代表されるように古い市場に対して既存技術を維持することは、お客様にとっても私たちにとってもメリットはありません。ここは縮小していくことになります。

両備システムズが目指す未来
○--61年目以降の両備システムズはどんな会社を目指しますか。

松田:夢を持っている社員が集まる会社にしたいと思っています。両備システムズで働いているからこそ、夢を持ち実現し、一生大切にできる仲間も生まれる--。こうしたことが、両備システムズで働くことで得られる価値になるといいなと思っています。企業として、先進的な取り組みをしていくことは重要ですが、まずは社員がイキイキと働けるためのベースをしっかりと作り、維持していきます。

両備グループでは、2027年を最終年度とする中期ビジョンのRYOBISIONを策定しました。私が社長として実現したい8つの経営ミッションをベースに、両備グループが取り組むいまと未来のテーマや仕組み、意識を設定し、ツリーとして図式化しています。両備グループ全体だけではなく、それぞれの事業部門やバックオフィス部門なども個別のRYOBISIONを策定し、これをもとに根を張り、高く伸びることを目指します。

RYOBISIONでは「Think Life and the Earth,Think SETOUCHI」を打ち出し「地域とともに成長し、想像もつかないような、より良い未来を創り出す」ことを掲げています。この実現に向けて、それぞれのリーダーが前向きに取り組んでおり、グループ全体が変わっていくことになります。そして、変革の中核にいるのが両備システムズということになります。これからの両備グループの成長において、両備システムズが果たす役割は、ますます重要になります。

大河原克行 1965年、東京都生まれ。IT業界の専門紙「週刊BCN (ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年フリーランスジャーナリストとして独立。電機、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を行う。著書に「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)など。 この著者の記事一覧はこちら
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