三井不動産は7月16日、半導体産業の新たな共創の舞台として、一般社団法人「RISE-A(ライズ・エー)」を設立したと発表。同日、記者発表会も実施した。
理事長には名古屋大学教授でノーベル物理学賞受賞者の天野浩氏が就任。今後は日本橋に開設予定の拠点「RISE GATE NIHONBASHI」を中心に、本格的な活動を展開していく。

○半導体産業を“垂直統合型”から“水平分業型”へ

「RISE-A」は、三井不動産がライフサイエンス(LINK-J)、宇宙産業(cross U)に続き、産業デベロッパーとして手がける第3の産業支援プロジェクトにあたる。今回、焦点を当てるのは半導体の分野で、RISE-Aはサプライヤーとユーザー、支援機関、アカデミアが連携し、分野を横断してイノベーションを生む「場」と「機会」の提供を目的としている。

近年、日本の半導体産業は世界的なシェアを落とし、国際競争力の低下が課題となっている。RISE-Aではそうした背景を踏まえ、さまざまな業種や領域からプレイヤーが集まり、共創を通じて実用化・事業化を推進するエコシステムの構築を目指す。ベルギーのimec、台湾のITRI、AIST Solutions、OpenSUSIといった世界的な研究機関や組織とも連携し、国境を越えたコラボレーションを促進する。

発表会で登壇した天野氏は、「日本の半導体産業は垂直統合型で、一社で設計からパッケージまですべてを賄うのが中心だった。しかし、半導体というのは非常に複雑。世界の潮流は水平分業型に変わってきていて、役割分担が進んでいる。そのほうがリスク分散にもなる」と指摘。「さまざまな異分野の方々を融合する、“人材の循環”。
さらには使用した物をリサイクルする“元素循環”。これがRISE-Aが提供できる、半導体における融合と循環であると思っている」と力を込めた。

10月には日本橋のスルガビルに活動拠点となる「RISE GATE NIHONBASHI」を開設予定。会員向けにイベントや技術交流、共創プログラムなどを展開し、会員には土地や施設の利用、工場やラボのマッチングなど、ビジネス成長を支える支援なども提供されるという。

三井不動産では、これまでも産業支援の一環として、ライフサイエンス分野における「三井リンクラボ」や、宇宙産業支援の「クロスユー」などの実績を持つ。RISE-Aを通じて半導体領域にもその知見を活かし、産業の拡大と成長を後押しする構えだ。

また、RISE-Aの設立は単なる法人の設置にとどまらず、全国ですでに進行中の半導体関連プロジェクトとも連動するかたちとなっている。例えば東北大学とのサイエンスパーク構想では、半導体研究を重点分野に位置づけ、産学連携による共創を推進。熊本では台湾の研究機関などと連携し、半導体クラスターを核としたサイエンスパークの構築も視野に入れている。

組織には、理事長の天野氏をはじめ、東京大学・東北大学などの専門家や、国内外の半導体・IT産業の実務者らがエバンジェリストとして参画。政府系研究機関や産業団体とも連携し、業界全体の底上げと発展を目指す。

RISE-Aの副理事長に就任した、三井不動産イノベーション推進本部長の山下和則氏は、「半導体は“産業のコメ”とも言われているとおり、私たちの身の回りのモノやサービスのほぼすべてに使われていて、その重要性は年々増している」と強調。
「半導体はデジタル社会における産業の根幹であり、付加価値創出の源泉。日本が産業競争力を確保するためには、その根幹である半導体と、それを活用するユーザー、産業をつなぐバリューチェーンが不可欠。RISE-Aの取り組みは、日本のあらゆる産業の支援につながる」とその意義を訴えた。

三井不動産は2024年に策定した「& INNOVATION 2030」において、「産業デベロッパーとして社会の付加価値の創出に貢献」を重点課題に掲げており、RISE-Aはその象徴のひとつとなる。日本の次世代を支える中核技術として注目が集まる半導体。その発展に向け、RISE-Aは共創のプラットフォームとして、多くの知と技術の融合を導く「場」となっていく。
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