「お仕事も私生活も、やっと地に足がついたような感覚」

ディズニー&ピクサー最新作『星つなぎのエリオ』(公開中)で主人公エリオの叔母・オルガ役の日本版声優を務めた清野菜名にインタビュー。ディズニー&ピクサー声優初挑戦の感想や、30代になってからの変化、これまでの転機などを語ってもらった。

ひとりぼっちの主人公エリオが、何光年も離れた星で、本当の居場所、大切なつながりを見つける物語を描く本作。
エリオはある日、様々な星の代表が集う場所“コミュニバース”に招かれ、そこで出会った孤独なエイリアンの少年グロードンと心を通わせるも、2人の絆を引き裂く脅威が迫る。

オーディションを経て念願のディズニー&ピクサー声優の座を射止めた清野は、「うれしい!」と大喜びしたと振り返る。

「ディズニー&ピクサーは人気もすごいですし、みんなの憧れの作品で、その日本版に自分の声が乗ると思うと、ワクワクしましたし、ドキドキもして、緊張感が走りました」

アフレコでは、声のみで表現する難しさを実感したという。

「映画の声優を務めるのは初めてだったので、ずっと手探りの状態で、監督にアドバイスをいただきながら、なんとか食らいついて一生懸命やらせていただきました。喜びや悲しみ、怒りなど、声だけでどうやって表現するのだろうと悩みながら。普段は自分が演じているので自然と動きに合った声が出ますが、映像にそれを合わせるのが難しかったです」

新たな挑戦に苦戦しつつ、とてもやりがいを感じたと語る。

「ディズニー&ピクサー作品ということで周りの反響もすごくて、みんな楽しみにしてくれているので、とてもやりがいを感じます。初めての経験をさせていただいて、自分の視野も広がりましたし、これを機にまた声優のお仕事にチャレンジしてみたいです」

2007年にデビューしてから18年。昨年10月14日に30歳の誕生日を迎えたが、「20代に比べて、30代は楽しいです」と晴れやかな表情を見せる。

「お仕事も私生活もどちらも、やっと地に足がついたような感覚で、その場をちゃんと楽しめるようになってきているなという感覚があります」

何事も楽しめるようになってきたきっかけを尋ねると、「30代になって自分と向き合う時間が増えて、自分の好きなことがわかってきたことが大きいと思います」と答えた。

「20代の頃はがむしゃらにお仕事をしていたので、自分が何に興味を持っているとか、何が楽しいというのを考えるより、目の前のことに必死に取り組んでいたので、自分自身についてわからないことが多くて。最近は余裕もできて、それによって自分のことも少しずつわかってきて、親友といる時が素で居られる場所なのだと感じられたりして、とても楽しいです」

また、「子供ができると、自分もしっかりしないといけないなと、いろんな責任感が芽生えて、それで地に足がついたという感覚があるのかもしれません。
子供にとっては自分がお手本なので、ちゃんとお手本のような存在でいなければいけないなと」と述べ、「憧れのお母さんでいられるようにしたい」とほほ笑む。

さらに、「以前ももちろん真剣でしたが、30代になって、今はもっと一個一個の仕事に大切に臨んでいる気がします。100%仕事につぎ込める環境ではなくなったので、やると決めた仕事に関しては本当に集中して、大事に向き合っています」と語った。

武器であるアクション封印のピンチを機に広がった表現の幅

本作では、エリオが冒険の中でさまざまなピンチに直面するが、清野のキャリアにおける最大のピンチを尋ねると、20代の時に経験した腰のケガを挙げた。

「アクションの練習をしすぎて、病院に行ったら、『車椅子の一つ手前だったよ』と言われて、『私の人生、そうなってしまう可能性があったんだ』と思うと、すごくゾッとしました」

本格的にアクションの特訓を受け、アクション女優としても知られている清野。腰のケガでその武器を封じ込められた時は、「不安でいっぱいでした」と振り返る。

「それまでは、全くアクションがない普通の役で呼んでくださることは本当に稀だったので、自分の特技をなくして、お芝居だけで飛び込むと思うと毎回不安で、アクションがないだけでこんなに不安なんだと思っていました」

しかし結果的に、アクションがない作品への出演が増え、大ピンチが女優としての幅を広げることに。

「その間に、『北の国から』の脚本家である倉本聰さんとも出会い、お芝居の楽しさを教えていただいて、いろんなことがうまくつながって今があるなと感じています」

ケガをした当時は、ケガのことを公にはせず、あえてアクションのない作品に挑戦しているという風に見せていたという。

「ケガをしたということはマイナスなことで言ってはいけないかなと思ってしまって。当時はいろいろなことに気を使いすぎてしまっていました」

そんな清野にとって、『星つなぎのエリオ』のグロードンのセリフが心に響いたと明かす。

「グロードンがエリオに『そのままの君が好きだよ』とエリオを受け入れるシーンがあるのですが、すごくいいシーンだなと。過去の自分を思い返すと、心に刺さって。
すべてを受け入れてくれる言葉って素敵だなと思いました」

今は素の自分を出せるように変わってきたそうで、「20代の時よりすごくオープンになりました。年齢と共にいい意味で大雑把になってきたのかなと。以前は窮屈な感じがしていたので、素のままでいられるようになってきてよかったです」とにっこり。

今後の展望を尋ねると、「本当にわからないです」と答え、突然やって来る新たな挑戦を楽しんでいきたいと語る。

「『星つなぎのエリオ』もそうですが、30歳になって経験したことがないことをやらせてもらって、そういうものは急に来るものだと思いますし、何歳になってもそういう経験ができたらすごく楽しいだろうなと思います」

さまざまな挑戦に意欲を見せつつ、アクションは今後も自身の武器として大事にしていきたいと言い、「それは間違いないです。『キングダム』で確信しました」と力強く語っていた。

■清野菜名
1994年10月14日生まれ、愛知県出身。2007年デビュー。アクションを得意とし、女優として数々の賞を受賞。近年の主な出演作に、映画『異動辞令は音楽隊!』(22)、『耳をすませば』(22)、『ある男』(22)、『キングダム』シリーズ、ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』(23)、「世にも奇妙な物語’24冬の特別編『フリー』」(24)、『119エマージェンシーコール』(25)、Prime Video『No Activity』シリーズなどがある。
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