やめる勇気、やらない勇気。みなさんはどれほどの強さをお持ちでしょうか?企業や自分の時間、エネルギー、お金などのリソースには限界があります。
すべてをこなすことはできないので、優先順位の高いことにリソースを集中して、成果を出す必要があります。

今回は、やめる勇気、そしてやらない勇気をどのように持ち、制約あるリソースを企業や自分の進歩に使うべきかを解説します。やめる勇気はリソースの消費を解放することで、やらない勇気はリソースを優先順位の高いことに集中させるという意味です。
やめる勇気

複数のクライアントとの仕事をしていると、なんでこんなことを継続しているのだろうと思うことが多くあります。理由を聞くと、昔は意味があったとか、さぁなぜでしょう?という答えが返ってきます。みなさんも普段の仕事の中で、頭の中にクエスチョンマークを持ちながら、そういうものだと思って惰性でこなしている仕事も多いのではないでしょうか?

筆者のクライアントの中に、ソフトバンク関連のとある企業があります。そこでふと気になり、孫正義さんの経営哲学は何だろうと書籍『孫の二乗の法則 孫正義の成功哲学』(PHP研究所 著者:板垣英憲)を読みました。孫正義と孫文を掛け合わせて、"孫"の二乗なのだそうです。

この『孫の二乗の法則』では、孫さんの経営哲学を縦横5文字ずつの25文字で表現されています。それぞれ5文字ごとに、理念、ビジョン、戦略、将の心得、戦術を説明しています。この順番も俊逸です。とても参考になりますので、ぜひ読んでください。
将の心得の中に、「勇」があり、「闘う勇気」と「退却の勇気」を併せ持てと述べています。「退却の勇気」は、やめる勇気ですね。孫さんらしい気がします。

多くの場合、古くなった仕組みが勝手に動いています。それをやめるのもエネルギーを消費するので、なかなかな手を付けられない状態なのだと思います。このような仕事は、さまざまなところにあります。売れない製品の維持、よくわからない営業プロセスや社内の人事制度などです。ブレーンストーミングで列挙してみるものいいかもしれませんね。そして、撲滅する。
やらない勇気

よく「選択と集中」といいますが、やらない勇気はこれに関係します。やるべきことだけに集中するということです。「選択と集中」は、限られたリソース(時間・人材・資金など)を、最も価値を生む領域に絞って投下する戦略です。
これによって、組織の一体感が生まれたり、意思決定のスピードと精度が向上したりします。ご存じのように、GE(ゼネラル・エレクトリック)のジャック・ウェルチ氏が提唱し、経営改革の代名詞として広まりました。

やらない勇気を持てないと、次のような弊害がでます。
・あれもこれもと手を出し、時間とエネルギーが分散する
・目的が曖昧になり、成果が出ないまま疲弊する
・選択肢が多すぎて、決断力が鈍る
・場合によって休む勇気が持てず、心身が限界を超える
怖いですね。

やらない勇気を持つためには、仕事の目的を明確にすることが始まりです。その目的に沿わない、または、重要性が見いだせない場合はやらないのです。リソースがないというのも理由になります。筆者が以前ERPベンダーにいたときは、実装のコンサルタントがいない製品は、顧客が欲しいと言ってきても「売らない」ことを徹底していました。

筆者は普段、企業戦略や営業&マーケティング戦略などの「戦略」の立案にかかわる機会が多いです。この戦略についての筆者の定義は、重要度の高いことに人・物・金などのリソースを集中することです。

たとえば、営業戦略ですと、どのセグメントをやり、どのセグメントをやらないかを明確にします。強みが発揮できないようなやらないセグメントは、徹底してやならいことにしています。

重要度と緊急度を見るという対処方法

ここで重要なことは、仕事の重要度と緊急度です。重要度を意識して仕事をしていることは多いと思います。しかし、実は緊急度も見ないと、やめる勇気が持てないのです。普段仕事をしていると、おそらく、重要度が高く、緊急度の高い仕事を中心に回していると思います。また、重要度が低く、緊急度の高い仕事に忙殺されているかもしれませんね。

しかし進化・進歩というのは、重要度が高く、緊急度の低い仕事にどれだけリソースを振り分けて完結させたのかに関わります。この領域の仕事は、戦略的・予防的な活動で、未来に向けた準備につながるのです。ちなみに、やめる勇気を要する仕事もここに入ります。本当は緊急度が高いのですが、なくならなくても現状維持のため緊急度が低い仕事に当てはまります。

そのためには、何を実行するのかを管理する「Action Item」のリストに工夫をするといいと思います。Action Itemのリストには2つのカラムをもちます。そうです、重要度と緊急度です。


両方が低いActionはやりません。同様に緊急度が高く重要度の低い仕事も、優先順位を下げます。参加の理由がよくわからない会議などがここに当たります。そして、重要度の高い仕事に集中して、緊急性の高い仕事と緊急性の低い仕事のバランスをとります。

リーダーこそ、重要度が高く緊急度の低い仕事に集中すべきかもしれません。ただし、重要度の高く緊急性の低い仕事は、タイミングを見極めることも大切です。闇雲に突っ走るわけにはいきません。

Action Itemの工夫として、もう1つカラムを追加して、容易性を評価するものよいです。重要性が高く容易性も高い仕事はすぐやるのです。3つの軸で優先順位を評価すると、鮮明に順位を定義できます。

また、Action Itemで重要なことは、締切日とNext Action(次の行動)です。ここをきちっと管理して、進捗を促進することが大事です。
この2つを管理していない組織は多いです。企業の行動原則に落としこむ必要があるかもしれませんね。

やめる勇気とやらない勇気は、どちらも自分の人生や仕事における選択と集中を支える力です。この2つの勇気を持つことで、貴重な時間・エネルギー・思考の余白が生まれ、より本質的な価値創造に向かうことができます。

北川裕康 キタガワヒロヤス 35年以上にわたりB to BのITビジネスに関わり、マイクロソフト、シスコシステムズ、SAS Institute、Workday、Infor、IFS などのグローバル企業で、マーケティング、戦略&オペレーションなどで執行役員などを歴任。現在は、独立して経営・マーケティングのコンサルティングサービスを提供しながら、AI insideの Chief Product Officer(CPO)を担当。大学は計算機科学を専攻して、富士通とDECにおいてソフトウェア技術者の経験もあり、ITにも精通している。前データサイエンティスト協会理事。マーケティング、テクノロジー、ビジネス戦略、人材育成に興味をもち、学習して、仕事で実践。書くことが1つの趣味で、連載や寄稿多数あり。 この著者の記事一覧はこちら
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