ここ最近、こうした富裕層向けと位置づけられるサービスが連続して登場しています。高級路線のサービスが増えている現状について調べてみました。
○体験価値を競う富裕層向けサービス
JAL Luxury Cardは、年会費24.2万円、そして完全招待制の年会費59.95万円のJAL Luxury Card Limitedという2種類で構成される富裕層向けカードです。もともとのLuxury Cardとしては最上位に入会金110万円/年会費66万円というMastercard Black Diamondカードもありますが、それでもこのJAL Luxury Cardは国内有数の高額な年会費となっています。
JALカードとしては年会費77,000円のプラチナ Proカードが発行開始となったばかりですが、さらに追加で富裕層向けのカードとして今回のカードの登場となります。JALカードは、JALグローバルクラブ(JGC)の入会条件となるため、JALの上級会員の人は保有している人が多いでしょう。
今回、JAL Luxury CardはJGCの条件にはなっておらず、JGCを維持するためにはJALカードと併用することになるようです。ただ、JAL Luxury CardにはステイタスとしてJMBクリスタルが自動付与。JAL Luxury Card LimitedにはJMBサファイアが付随し、さらに毎年5万FOPが付与されるので、残り3万FOP分のフライトで、JGCプレミア(ワンワールドではエメラルドステイタス)が達成できます。富裕層で飛行機に乗る機会が多い人であれば余裕のある数字でしょう。
ほかにもLuxury Cardならではの特典が特徴で、優待や交流イベントなどの体験がメリットと言えます。こうした富裕層向けカードでは各社共通なのですが、このカードでも「体験価値」がキーワードとなっています。
○アメリカン・エキスプレスとMarriottの提携カードも上位カードが登場
同様の言葉では、「プレミアムな体験」というワードもあります。これは8月5日のアメリカン・エキスプレスの提携カード「Marriott Bonvoy アメリカン・エキスプレス・プレミアム・カード」の発表会で出てきた言葉。このカードはLuxury Cardに比べれば控えめで、年会費は82,500円。無印のMarriott Bonvoy アメリカン・エキスプレス・カードであれば年会費は34,100円です。
「富裕層向け」とまで言えるかどうかはともかくとして、同じ旅をテーマに考えると、世界各地のMarriott系列のホテルに頻繁に泊まる人であれば1枚持っていてもよさそうです。
このカードでは、利用額が年間500万円以上でMarriott Bonvoyのプラチナエリート会員資格が得られます。Luxury Cardを使うような富裕層であれば、年間500万円以上の利用をMarriott Bonvoyアメックスカードに振り分ければ、ホテルステイの体験価値を高めることができるかもしれません。
ちなみに今回のリニューアルで、Marriott Bonvoyアメックスカードの年会費は無印の23,100円が34,100円に、プレミアム・カードは49,500円が82,500円に値上がりしました。特典も拡大して数万円の価値があることから値上がり分はカバーできるというアメックス側の意見もありましたが、まあ、富裕層ならそれほど気にはしないかもしれません。
そのアメックスは、7月に羽田空港第3ターミナルに「センチュリオン・ラウンジ」をオープンしました。
対象となるのはプラチナカード、ビジネス・プラチナ、コーポレート・プラチナ、JR東海エクスプレス・プラチナ・コーポレート、そしてセンチュリオン・カードの各カードの保有者(家族カード、特典あり追加カード含む)。
センチュリオンという最上位カードも対象にしているだけあって、寿司やスイーツ、特別なお酒も飲食できる高級路線のラウンジです。航空券だけでは入れず、該当クレジットカードを持っていなければ入れないので、カードユーザーの体験価値を高めてくれます。
○東京・銀座のJCBのラウンジもリニューアルオープン
ラウンジといえば、JCBが東京・銀座にある老舗百貨店である松屋とラウンジ「THE GINZA LOUNGE」を設置しています。この7月にリニューアルオープン。松屋の向かいのビル内にあり、銀座の買い物、食事までの待ち時間といった合間の休憩に活用できます。対象となるのはJCB ザ・クラス、JCBプラチナという上位カードの会員で、1回1,650円利用料金が発生します。
同じく銀座にラウンジを設置しているのがダイナースクラブの「銀座プレミアムラウンジ」。銀座5丁目にある銀座七宝ビル8階にあり、ダイナースクラブ プレミアムカード会員と、銀座の町と連携し銀座ダイナースクラブカード会員も利用できます。こちらも銀座での買い物の合間に休憩をするなどの用途で使えます。
このラウンジにはコンシェルジュサービスもあり、レストランの予約や店舗の案内なども提供してくれます。銀座以外に、大阪梅田プレミアムラウンジもあります。
この銀座プレミアムラウンジでは、7月29日から8月10日にかけて、「Mid-Summer Lounge 2025」としてラウンジが一般に無料開放。日によって日本やワインの試飲、音楽ライブなどのイベントも催されて、プレミアムカードを持たない人でもラウンジを体験できるようになっていました。
創業65周年を記念して初めての無料開放とのことですが、普段から混雑しているというラウンジ内は、さらに多くの人が来訪し、入場規制をするほどでした。
7月から8月にかけての富裕層向けサービスに関するニュースですが、たまたま時期が重なったということはあるでしょう。ただ、業界で「富裕層向け」に熱い視線が向けられているということも間違いないでしょう。
Luxury Cardのユーザー層は経営層が7割、上位50%の会員の平均年収が6,000万円以上、年間平均決済金額は3,000万円以上だそうです。ちなみに以前のLuxury Cardの発表では、2021年から2022年にかけて、利用者全体の平均年収が40%アップして2,400万円になったとしていました。
Luxury Cardの利用者は、さらに詳しく動向が調査されています。月々50~100万円の利用がボリュームゾーンで、年間だと1,000万円前後を使っているそうです。年収3,000万以上だと100~200万円、200~300万円が多く、年収3,000万以上が「本格的な上流層」と定義づけていました。
つまり、JAL Luxury Cardはそれ以上の富裕層をターゲットにしたカードということになります。こうした富裕層がどこまでカードの使い分けをするかは判断の難しいところですが、Luxury Cardでもポイントプログラムがあり、富裕層でもカードを使い分ける人はいるでしょう。
同じアンケートでは、年収が上がるにつれて付き合いの場が広がって社交のための支出が増えたといった回答もあり、つまり新興の富裕層が増えていることが示唆されています。富裕層向けカードの体験価値として「社交の場」や「ビジネスの交流」を提供する例も多いのは、こうした新興の富裕層が特に期待しているということかもしれません。
日本が総中流時代から低迷の時代になり、格差が固定された時代を経て、新たな富裕層が誕生する時代になったとも言えるかもしれません。格差が広がったという見方もできますが、2世3世がさらに裕福になる格差の拡大よりも、新興の富裕層が増える方が健全ではあるでしょう。
Luxury Cardのアンケートでは、「経済というのは消費をすることによって回っていくので、消費行動を控えないようにしている」という回答者のコメントがあり、富裕層の鑑といった感じでした。
富裕層向けのサービスが、今後も拡大して熱い競争に繋がることを期待したいところです。
小山安博 こやまやすひろ マイナビニュースの編集者からライターに転身。無節操な興味に従ってデジカメ、ケータイ、コンピュータセキュリティなどといったジャンルをつまみ食い。最近は決済に関する取材に力を入れる。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。