俳優の妻夫木聡が主演を務める映画『宝島』(9月19日公開)の原作者である真藤順丈氏の母校・高輪学園の生徒らが集まった「『宝島』全校上映会」が実施された。

戦後沖縄を舞台に、歴史の陰に埋もれた真実を描く真藤順丈氏による小説『宝島』。
第160回直木賞をはじめ、第9回山田風太郎賞、第5回沖縄書店大賞を受賞するなど3冠に輝いた本作が、東映とソニー・ピクチャーズの共同配給によって実写映画化された。監督は様々なジャンルや題材を通して常に新たな挑戦を続ける大友啓史。主演には妻夫木聡を迎え、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太ら日本映画界を牽引する豪華俳優陣が集結し、誰も見たことがないアメリカ統治下の沖縄を舞台に、混沌とした時代を全力で駆け抜けた若者たちの姿を圧倒的熱量と壮大なスケールで描く。

9月3日、原作者である真藤順丈氏の母校・高輪学園の全生徒ら(中学1年生~高校3年生、教職員も含め) 約1,600人が上映会に参加した「『宝島』全校上映会」が実施された。上映後には、真藤氏、大友監督、そして進行役として、本作にも声で出演、沖縄出身で本作のハイライトシーンでもある「コザ暴動」が起きた当時沖縄で暮らし、事件を記憶しているジョン・カビラが登壇した。史実を背景に圧倒的な没入感を持って描かれる本作の魅力とともに、映画を鑑賞したばかりの生徒たちとの質疑応答を通して、未来への想いを熱く語り合った。さらに、熱気に包まれた会場では、主演の妻夫木聡によるメッセージビデオも届き、「今をどう生きるか」「未来に何を託していくのか」という本作に込められた想いが全生徒に エールとして贈られ、場内は割れんばかりの盛大な拍手に包まれた。

司会を務めるジョン・カビラが来場すると大歓声が上がり、「なぜ私がここに呼ばれているのかと思いましたか? 実は映画に声で出演していたんです」と明かしたカビラは、実はコザ暴動が起きた当時の沖縄に在住していたことを語りかける。「クリスチャンの家庭で育った私は教会に行っていたんですが、そこで大人たちがざわついていました。何やら大変なことがあったらしい。その話を両親とすると、父親が『沖縄の皆さんは虐げられている。いつか爆発するかもしれないと思っていた』と言いました。
そして基地で仕事をしてきたアメリカ人の母は『これは、いずれ起こるかもしれないと危惧していた』と。両親にはそういう思いがあったわけです。そしてわたしもこの映画を観ながら涙しました」と語ると、「新しい世代の皆さん、本当に心に刻んでくださいね」と会場に呼びかけた。

続いて登壇した大友監督は「これだけの人数と向き合うのは、今回初めてかもしれません。皆さんのいろんな感想が本当に楽しみです。そして高輪学園140周年おめでとうございます!」と呼びかけると、真藤氏も「僕は皆さんの30年先輩です。ちょうど皆さんの校長や教頭が、まだ20代の先生ぐらいだった頃なので、隔世の感があります。映画はすごかったでしょ? 僕も本当にすごいものを観たなと思いましたし、学校で映画を観るというのもなかなかない経験だったと思うので、今日はどういうイベントになるのか楽しみです」と続けた。

また、この日は、残念ながら登壇がかなわなかった主演の妻夫木聡よりビデオメッセージが寄せられた。「この映画を通して僕は、過去は変えられないけど未来は変えられると思いました。一人ひとりの想いが、希望ある未来を作っていくんだと、僕は信じています。私たちは、先人たちの想いと共に今を生きています。
今があるということは当たり前ではありません。何のために生きていくのか、そして未来に何を託していくのか。そういったことを、この映画を通して皆さんに感じていただけていたらうれしいです」と語るメッセージを、生徒たちも真剣なまなざしで見守っていた。

学生たちから、感想と質問を受けることになると、そこかしこから「はい!」「はい!」と元気な声が飛び交い、その様子に真藤氏も大友監督も「すごいね」と笑顔。「皆さんにとって沖縄とは?」という質問が投げかけられると、真藤氏は「青春と革命の島という感じですね」と返答。「このお話は、サンフランシスコ講和条約から沖縄返還までの20年間を描いてるんですが、その時代に本当に熱い時代があった。そこにはわれわれが忘れてしまったものや、青春に関する要素が全て凝縮されている。だからある種、戦後日本のあるべき姿がそこにあるのかなと思うんです。だから沖縄の青春と、その後のものを描いてるのが『宝島』。だから青春の島だと思います」と返すひと幕も。

その後も「コザ暴動のシーンで、本物の車がひっくり返されていたので、リアリティーがあって良かった」「教室で教科書を開いてるだけじゃ学べない沖縄の歴史を、俳優さんの迫真の演技、大友監督のこだわりで、沖縄に対する歴史の重みを強く感じられました」などの感想が続々と寄せられ、その言葉に大友監督は、思わず笑顔を見せた。

最後にメッセージを求められた真藤氏は「先ほど歴史の教科書で学べないようなこと、という話がありましたが、中学・高校の歴史の授業って縄文・弥生時代からはじまって、現代史みたいなものはほとんどやらずに時間が終わっちゃう。
だから歴史の授業は現代史という科目があった方がいいんじゃないかと。それくらい今の日本に繋がってる大事な時代の話ですし、僕は世の中を変えるつもりで『宝島』を書きました。映画のスタッフの皆さんもそういうような、何かを問いかけるようなものを届けたなと思い、感銘を受けています。でも実際に世の中を変えたり、動かない壁を動かしたりするのは皆さんの世代だと思っていますので先輩としてちょっと先輩風を吹かしてますけど、皆さんも自分の大事な宝を探すように、そういう風に人生を送っていただけたら」とメッセージを送った。

続く大友監督も、『宝島』という映画が2度にわたり中断を余儀なくされながらも、奇跡的に復活し完成にこぎつけた奇跡の映画であると前置きしつつ、「それだけに僕らもこの映画に対してものすごい愛着を持っているし、それと同時に、未来を切り開こうとしていた登場人物たちに、途中で諦めたら、『お前らに任せるべき作品じゃなかった』と言われちゃ うような気がして。途中で諦める判断もできずに、最後までしがみつくようにしてたどり着いた映画なんです。諦めずに一生懸命やってると誰かが光を当ててくれることもあると思うんで。皆さんぜひ『宝島』を見ていただいて、登場人物たちに自分を投影していただいて、当事者になっていただけたらと。もしちょっとでも感動していただけたら、この作品をぜひ広めてください」と会場の学生たちに呼びかけた。

(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会

【編集部MEMO】
映画の原作となった小説『宝島』は、真藤順丈氏のペンによる。「リュウキュウの青」「悪霊の踊るシマ」「センカアギヤーの帰還」の三部構成となっており、沖縄戦直後から始まった1952年の米軍統治時代から、日本に復帰した1972年までの沖縄を舞台としている。2018年に第9回山田風太郎賞、2019年に第160回直木三十五賞、2019年に第5回沖縄書店大賞の小説部門賞を受賞している。
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