世界最大のコンシューマーエレクトロニクスショー「IFA」が、2025年も9月5日から5日間に渡って、ドイツの首都ベルリンで開催されます。開幕前日の4日にはサムスン電子がプレスカンファレンスを開催しました。
生成AI対応のスマートテレビなど、サムスン独自の「AI HOME」のライフスタイルを会場で体験してきました。

サムスンと言えばスマートAI冷蔵庫。お手頃価格のモデルに広がる

日本でサムスンといえばスマホやタブレット、スマートウォッチなどモバイルやウェアラブルデバイスのメーカーという印象が強くあります。韓国、欧米では有機ELや液晶の大画面テレビ、生活家電にゲーミングディスプレイなどコンシューマーエレクトロニクスの幅広い分野にわたる製品を展開する総合家電メーカーです。

インターネットにつながるスマート家電、それぞれを統合・管理するSmartThingsブランドのIoTサービスもサムスンが強みとするところです。サムスングループ全体では半導体やAI関連のソフトウェア開発にも幅広い知見を持つことから、流行の生成AIを載せたスマート家電も先陣を切って開発、商品化してきました。

2024年のIFAで、サムスンは独自のAIエージェントである「Bixby(ビグスビー)」を載せて、音声操作に対応するスマート冷蔵庫のフラグシップ「Family Hub(ファミリーハブ)」の最新モデルを発表しました。今年はFamily Hubのシリーズをより安価なモデルにまで裾野を広げました。

最上位のモデルは冷蔵庫の片側のドアいっぱいに、32インチのタッチ操作ができる有機ELディスプレイを載せています。新しいスタンダードモデルは9インチのタッチ操作に対応するコンパクトな有機ELを搭載しました。見た目にはスマホがくっついたような感覚です。サムスンの担当者いわく「コストダウンを図って、スマート冷蔵庫の体験を多くのユーザーに楽しんでもらうこと」が、本機を商品化した大きな理由のひとつだそうです。


最上位モデルはBixbyに話しかけて冷蔵庫の設定を変更したり、今日の天気やおすすめのレシピをBixbyに聞ける音声チャットが楽しめます。スタンダードモデルは複雑なチャット機能を省く代わりに、音声で「ドアを開けて」と話しかけるとハンズフリーで開くシンプルな機能を追加しました。サムスンの担当者は「音声で操作できることを今後も増やしたい」と話していました。

サムスンのスマート機能を搭載する生活家電には「Bespoke(ビースポーク)」というシリーズネームがあります。

シリーズの冷蔵庫、洗濯機には7~9インチ前後のスマホのようなカラーディスプレイが搭載されており、本体のスマート機能を画面で確認しながら、画面タッチで細かな設定変更などが行えます。省電力モードの設定操作や、運転中にどの程度の電力を消費したかをモニタリングできる機能なども充実しています。

サムスンとSmartThingsのブランド、あるいはSmartThingsと互換性のある他社のIoTデバイスの運転状況などもBespokeシリーズの家電はそれぞれの宅内に置かれている部屋から確認したり、一部の機能を操作することも可能です。スマホにSmartThingsアプリを入れればできることとはいえ、洗面所にいながら、洗濯機のモニターを使って同じことができたら便利なはずです。

サムスンの生成AIサービスと言えば、スマホやタブレットの「Galaxy AI」が先行している印象がありました。

生活家電について、今後の展望をサムスンの担当者に聞いたところ「技術的に様々なことを実現できる準備は整っている。あとはユーザーが必要とする機能を慎重に見極めながら、最も実用的な形で家電に載せたい」という答えが返ってきました。
ユーザーと自然会話ができる「生成AI対応テレビ」が登場

今年、サムスンがIFAで見せた展示の中では「生成AI対応テレビ」のインパクトが大きかったです。


現在、同社の大画面スマートテレビの上位モデルにはLEDバックライトと量子ドットフィルムによる「波長変換」方式を採用するQLED(Quantum Dot Light Emitting Diode)シリーズのフラグシップモデルがあります。

2025年に発売する新しいQLEDの中から、スタンダードラインのQ7xシリーズを除く上位モデルには生成AIによるチャット機能が搭載されます。同社はこの機能を「Vision AI Companion」と呼んでいます。

テレビに付属するリモコンの「AIボタン」からVision AI Companionが起動できます。

例えば「私がいま見ている連ドラについて教えて」「今の番組に登場している俳優が出演している、人気の映画を教えて」「パリとベルリン、大きな都市はどっち?」といった“自然会話形式”のコミュニケーションをテレビのAIエージェントと交わせるところが大きな特徴です。サムスンのテレビのラインナップにも初めて加わる格好になります。

同社のスマートテレビにはプラットフォームとしてTizen OSが搭載されています。ユーザーがリモコンのボタンを押すと最初にBixbyが起動します。テレビの設定変更など簡単な操作はBixbyが直接オンデバイスで処理しますが、より複雑で高度なリクエストにはGemini APIを介してクラウド上のGeminiが応答します。

IFAの会場でVision AI Companionのデモンストレーションを見ましたが、AIの応答は迅速で内容も正確でした。Vision AI CompanionはBixbyとGeminiによる連携を基本形としていますが、テレビのアプリストアを通じて、テレビでの利用に最適化した「Copilot」や「Perplexity」のアプリを追加して使えるようにもなるそうです。

筆者はそもそも“家庭の一等地”であるリビングルームに鎮座する大画面テレビとAIエージェントの相性が悪いわけがない、これはぜひテレビに入れるべきだと、数年前にChatGPTがブレイクした頃に強く思いました。


現在は、家電が搭載するAI対応プロセッサの性能が十分に成熟しました。今後はサムスンのQLEDシリーズのように「ユーザーと自然に会話ができるAIテレビ」が続々と誕生することが期待できそうです。
超高画質のマイクロLEDやスマートOS搭載の移動式液晶モニター

ほかには、サムスンが今年の8月に発表した3色(RGB)マイクロLED方式を採用する115インチのテレビが展示されました。カラーフィルターを使うのではなく、赤・緑・青(RGB)3色の微細なLEDチップを光源とすることでより多彩で正確な色彩を表現できるところが特徴です。

現在ハイエンドモデルの液晶テレビが採用する量子ドットミニLEDのバックライト技術に対して、サムスンが優位性を示せるテレビの画期的な技術としてIFAの会場でも注目されていました。

でも、実はサムスンは数年前からIFAやCESで3色マイクロLEDを採用する大型ディスプレイの参考展示を行ってきました。いかんせん「商品としてのテレビ」に落とし込むためにはまだコスト面で折り合いが付いていないとされていた技術だったので、サムスンがいよいよ発売したテレビの価格が注目されていました。先行展開が始まった北米では29,999ドル(約445万円)で販売されているようです。

IFAの会場ではビビッドな色彩のデモ映像が表示されていたので、ややコントラスト感も強めな印象を受けました。明日以降は通常のテレビ番組や映画をリファレンスにした展示も行っているのか、再度ブースをのぞいてみたいと思います。

ほかには27インチのタッチ液晶とTizenOSを搭載する、キャスターとアーム付きのスタンドで置き場所を自由自在に変えられる「Smart Monitor M50F」も新製品として発表しました。

欧州では11月に、1,499ユーロ(約26万円)で発売するそうです。
アームスタンドのほかキャリングハンドルやテーブルトップスタンドもパッケージに同梱されています。先にLGエレクトロニクスが、日本国内ではクラファンを通じて販売を始めた移動式のスマートモニター「Swing」とコンセプトが似ている製品です。

モバイルではGalaxy S25シリーズの廉価モデルである「Galaxy S25 FE」を展示していました。日本での販売予定については明らかになっていませんが、ドイツでは749ユーロ(約13万円)で発売されています。日本でも9月19日に発売される、Galaxy AI対応のAndroidタブレット「Galaxy Tab S11シリーズ」の2機種も展示がありました。

グーグルとサムスンが共同開発中のAndroid XRヘッドセット「Project Mohan」をベルリンで一足早く体験できるかと期待していましたが、残念ながらIFAのブースにはプロトタイプの展示すらありませんでした。でも、その代わりエキサイティングな生成AI家電に出会えたので全体的には満足しています。

著者 : 山本敦 やまもとあつし ジャーナリスト兼ライター。オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。独ベルリンで開催されるエレクトロニクスショー「IFA」を毎年取材してきたことから、特に欧州のスマート家電やIoT関連の最新事情に精通。オーディオ・ビジュアル分野にも造詣が深く、ハイレゾから音楽配信、4KやVODまで幅広くカバー。堪能な英語と仏語を生かし、国内から海外までイベントの取材、開発者へのインタビューを数多くこなす。
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