ドイツの首都ベルリンで、9月5日にエレクトロニクスショー「IFA 2025」が開幕しました。日本からもいくつかのエレクトロニクスメーカーが今年のIFAに出展していますが、中でもパナソニックが最新鋭の製品や、ユーザーフレンドリーでサステナブルなものづくりの取り組みを一堂に集めた大きなブースを出展していました。


日本の先端技術で豊かな暮らしを実現

新型コロナウィルス感染症による世界的なパンデミックが明けた2023年から、IFAは見本市会場メッセ・ベルリンで本格的な対面形式によるイベントを再開しました。

パンデミック前の頃に比べると日本からの出展社が少なくなった中で、パナソニックはIFAに洗練された大規模なブースを出して、日本のエレクトロニクスメーカーの存在感を強く打ち出していました。筆者もIFAの会場を回りながら、パナソニックのブースの近くを通るたびに頼もしさを感じていました。

2025年のIFAで、パナソニックは新たな企業戦略として「ホリスティック・ウェルビーイング(Holistic Wellbeing)」を発表しました。

これは、同社が持つ先端技術の中核的な強みを活かし、コンシューマーの多様なウェルビーイングの実現を目指すという考え方です。その対象は「身体の内面」や「外見」といった個人の健康や美に関わる領域にとどまらず、家庭の生活空間や社会のコミュニティなど、人々が暮らすあらゆる場所にまで広がっています。

日本のエレクトロニクスメーカーであるパナソニックは「日本の技術と職人技」を凝縮した製品やサービスを通じて、世界中のコンシューマーにより良い暮らしを提案する姿勢を、このIFAの出展で改めて宣言しました。

IFA 2025のブースには、パナソニックの様々な製品が出展されていました。最初にテクニクスのBluetooth機能を搭載する新しいアナログプレーヤーを見てみましょう。
テクニクス初のBluetoothオーディオ対応レコードプレーヤー

テクニクスはパナソニックのハイエンドオーディオのブランドです。2025年はテクニクスが誕生してから60周年のアニバーサリーイヤーです。IFAのブースには今年もテクニクスの特設エリアが設けられました。


注目の新製品はアナログレコードプレーヤー「SL-40CBT」です。テクニクスのアナログレコードプレーヤー(またはターンテーブル)は世界中のオーディオファンやDJに親しまれています。また、今は世界中でアナログレコードにより新作をリリースするアーティストが増えていることから、若い音楽ファンを中心にアナログレコードブームが再燃していると言われています。

テクニクスのアナログレコードプレーヤーには音質・機能・操作性に優れる多彩なラインナップが揃っていますが、今回初めてBluetoothオーディオ再生にも対応するモデルとしてSL-40CBTが発売されました。

本機はアナログレコードの再生方式として、鉄芯レスモーターと組み合わせるダイレクトドライブを採用しています。リジッドな筐体構造とともに回転を安定させて高音質再生を追求。テクニクスによるターンテーブルの伝統的な特徴である高精度S字型アルミ製トーンアームも受け継いでいます。

外観は落ち着きのある洗練されたデザインとして、カラーバリエーションには2024年のIFAで発表したアンプ内蔵のWi-Fiワイヤレススピーカー「SC-CX700」にマッチする3色、チャコールブラック、シルキーグレイ、テラコッタブラウンを展開します。

特に明るいブラウンのアナログプレーヤーはルックスも美しく、インパクトがありました。価格は799ユーロ(約13.8万円)です。日本での発売もありそうですが、IFAの時点で発表はまだされていません。

Bluetoothオーディオに対応することで、例えば“ジャケ買い”をしたアナログレコードが本機とBluetooth対応のスピーカー、またはワイヤレスヘッドホン・イヤホンで簡単に聴けるようになります。


もちろん、いずれアンプやスピーカーを買いそろえて、本格的な再生環境を構築することも可能です。プレミアムオーディオブランドであるテクニクスのアナログレコードプレーヤーにより、Bluetoothオーディオ再生が楽しめるようになることが若年層の音楽ファンにどれほど響くのか、期待がかかる新製品です。ブースで新製品のサウンドを聴くことができなかったので、筆者もあらためてまた試聴の機会を見つけたいと思います。

テクニクスのブランドからは、ボイスコイルの動作を滑らかにする磁性流体をドライバー部分に採用するワイヤレスイヤホン「EAH-AZ100」の新色“ミッドナイト・ブルー”を展示していました。歪みがなく、レスポンスの良いサウンドを視覚的に再現するために、再生中の音楽に合わせて「磁性流体が動く」展示も来場者を楽しませていました。

それにしても、このミッドナイト・ブルーはハイエンドモデルのイヤホン「EAH-AZ80」も海外で展開されていましたが、なぜか日本で販売されていません。AZ100のクリアなサウンドにとても良く合う色だと思うので、ぜひ最上位モデルで日本発売を実現してほしいと思います。
日本でおなじみのビエラやルミックスも展示

パナソニックのブランドからは日本で販売されている製品と、生活家電のように海外のコンシューマーの暮らしに最適化した、ヨーロッパ向けのユニークな製品もブースに並んでいました。

日本にもある製品については、例えば有機ELテレビのビエラ「Z95B」がありました。新世代有機ELパネル「プライマリーRGBタンデム」による高画質や、Amazon Primeビデオに最適化された映像モード、ゲーミングコンテンツに対する応答の良さなどが紹介されていました。

パナソニックはゲーミング向けのネックスピーカー「SC-GNW30」を日本でも発売しています。ゲーミングコーナーではビエラで楽しむゲームのサウンドをSC-GNW30で再生しながら試遊できるコーナーも設けていました。


動画クリエイター向けのイノベーションとして、パナソニックから発売中のデジタルカメラ「LUMIX」シリーズの「LUMIX S9」「S1RII」「S1II」の3機種も展示されました。ドイツもデジタルカメラの愛好家が特に多い国とされていますが、ルミックスは写真だけでなく動画撮影の機能にも優れていることから、その高いパフォーマンスに信頼を寄せる一般・プロフェッショナルのユーザーを多く獲得しているそうです。
世界の暮らしに最適化したパナソニックの生活家電

ヨーロッパの場合、家庭用の調理家電はキッチンや住宅設備に組み込んで使うビルトインタイプが好まれる傾向にあります。一方で、ドイツなどの国々では油を使わずに美味しく調理できるエアフライヤーのように、新しい調理方法やライフスタイルを提案する調理器具は、いわゆる据え置きタイプのスタンドアロンな製品でも人気を集めています。パナソニックのエアフライヤーもまた然りです。

今年はキッチン家電として新しく「ブレンダー&スープメーカー」やテーブルトップタイプの「マルチクッカー」などを発売しました。本体にカラーディスプレイを搭載して、献立の選択操作などを直感的に行えるのが特徴です。

パナソニックの理美容家電器具はヨーロッパでも人気です。髪のうるおいを保ちながら乾かせる「ナノイー ドライヤー」は、くせ毛のケアにも効果が高く、パサつきや広がりを抑えられることからヨーロッパの女性にも注目されているアイテムです。2025年には眉毛の手入れに使うアイブロートリマー、エピレーターなどの美容のウェルビーイングをかなえるパナソニックの製品が充実しました。

男性用美容家電も、1~2年前から海外向けに展開する製品が好調です。

モジュール式パーソナルケアシステム「マルチシェイプ」は、充電池を搭載するスティック型のメインユニットの先端に、電動シェイバーやトリマーなど用途の異なるアタッチメントを装着して、1台で複数の使い方ができるアイデアに富んだ家電です。


価格は、トリマーを中心に数種類のアタッチメントを同梱するスターターキットが299ユーロ(約5.1万円)。髭や体毛のトリマーは、日本国内ではまだ男性の家電ユーザーにとってあまりポピュラーではないかもしれませんが、パナソニックのマルチシェイプはアタッチメントを変えることで「電動歯ブラシ」や「フットケア」「フェイシャルブラシ」などにも使えるユニークな製品です。

マルチシェイプがあれば、複数の男性用美容家電をひとまとめにできる効果もあるため、スペースセービングやエコな暮らしにも貢献します。日本のユーザーの使い方に最適化したマルチシェイプもぜひ商品化してほしいと思います。

パナソニックによるサステナブルなものづくりや、循環可能な社会ヘの取り組みについても、IFAのブースで大きなスペースを割いて紹介していました。

高濃度セルロースファイバー成形材料「kinari(キナリ)」は、プラスチックに代わる植物繊維由来のサステナブルな材料として注目されています。コーヒーかすや木製の樽、果実などのしぼりかすを使って再生された素材を食器などにリユースする試みや、自動車部品として活かす使い方も現在検討されています。

ほかにもパナソニックが掲げる「GREEN IMPACT」の取り組みとして、ヨーロッパで初めて水素を活用しながら100%再生可能エネルギーで稼働するソリューション「パナソニックHX」の実証施設が、英国カーディフのほかにドイツのミュンヘンにも開設されたことがIFAのブースで紹介されていました。

2022年に先行する形で日本の草津で稼働しているパナソニックHXの取り組みが、今後より広く脚光を浴びることになりそうです。

著者 : 山本敦 やまもとあつし ジャーナリスト兼ライター。オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。独ベルリンで開催されるエレクトロニクスショー「IFA」を毎年取材してきたことから、特に欧州のスマート家電やIoT関連の最新事情に精通。
オーディオ・ビジュアル分野にも造詣が深く、ハイレゾから音楽配信、4KやVODまで幅広くカバー。堪能な英語と仏語を生かし、国内から海外までイベントの取材、開発者へのインタビューを数多くこなす。 この著者の記事一覧はこちら
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