初めて帳簿付けにチャレンジするけれど、不安を感じる方も多いでしょう。会計や経理に関わった経験がないと、帳簿付けはハードルが高く感じるかもしれません。
そこでこの記事では初心者の方でも理解できるよう、帳簿付けの種類や具体的な方法をわかりやすく解説します。

そもそも帳簿付けはなぜ必要?

帳簿付けとは、事業を営むうえで発生する取引・お金の流れを記録することです。
○帳簿付けは個人事業主の義務

帳簿の作成は、個人事業主を含めすべての事業主に義務付けられています。確定申告では、帳簿に基づいて申告をしなければなりません。

帳簿付けをしないと、ペナルティとして重加算税などの税金を課される恐れがあります。
○確定申告と節税のため

確定申告には青色申告・白色申告の2種類がありますが、青色申告では一定額の控除が認められています。事業で得た所得から控除されるため、結果的に所得税や住民税が軽減される仕組みです。

帳簿付けは確定申告のために必要ですが、青色申告をすると節税にもつながってくるため、事業主にとってメリットもあるということです。
帳簿の付け方は2種類 あなたに合うのはどっち?

帳簿付けの方法は、単式簿記・複式簿記の2種類があります。自分自身にどちらが合うかを考えてみましょう。
○単式簿記(簡易式簿記)

単式簿記は、1つの取引を1つの勘定科目によって、シンプルに記録していく方法です。家計簿やお小遣い帳のようなイメージです。


◆単式簿記の記入例

材料などを仕入れたら、勘定科目は「仕入」として、支出欄に金額を記入します。物やサービスが売れたら、勘定科目は「売上」として、収入欄に金額を記入します。

単式簿記は、主要な勘定科目を少し覚えれば、簿記の知識がない方でも記帳しやすい方法です。損益状況をひと目で確認できるのもメリット。

単式簿記のデメリットは、青色申告での特別控除が10万円までと少額にとどまることです。
○複式簿記

複式簿記は、お金の動きを詳しく記録できる方法です。単式簿記は1つの取引での勘定科目は1つですが、複式簿記では2つ以上の勘定科目を使用します。

◆複式簿記の記入例

上記は、先ほどの単式簿記の取引内容を、複式簿記で記入した場合の一例です。一般的な勘定科目を使用していますが、上記以外を使用する場合もあります。

複式簿記のメリットは、青色申告の特別控除が最大65万円になることです。単式簿記よりも大きな節税効果が生まれます。

一方で、記入方法がやや複雑なのがデメリットで、慣れるまで少し手間がかかります。

帳簿付けの具体的な手順【5ステップで解説】

帳簿付けでは、以下5つの手順で進めることがおすすめです。

1. レシート・領収書の整理
2. 帳簿の分類(勘定科目の設定)
3. 日々の取引を記録
4. 現金・預金残高の確認
5. 決算書・申告書の作成

○1. レシート・領収書の整理

まずは帳簿に記入する取引を把握するため、領収書・レシート・通帳などを整理します。前提として、事業に関わるもののみが対象です。プライベートで支出したレシートや領収書を含めないようにしましょう。

クレジットカード払いの場合、明細書とレシートが発行される場合もあります。二重に計上してしまわないよう気を付けましょう。
○2. 帳簿の分類(勘定科目の設定)

単式簿記でも複式簿記でも、適切な勘定科目を使う必要があります。たとえば支出に関しても、何にしはらったかによって勘定科目が変わるため、代表的なものを覚えておきましょう。

個人事業主の方がよく使う勘定科目は以下のとおりです。

-売上関連:売上、売掛金、雑収入など
-経費関連:水光熱費、地代家賃、消耗品費、旅費交通費、接待交際費など

先ほどのレシート・領収書の管理に関しても、帳簿付けが初めての方はまず勘定科目ごとに保管するのがおすすめです。勘定科目を覚えやすく、帳簿付けもしやすくなります。
○3. 日々の取引を記録

1つ1つの取引に関して、「いつ」「誰に(誰から)」「何を」「いくら」「支払ったのか(受け取ったのか)」を記録するのが基本ルールです。


たとえば20XX年9月5日に、文房具を購入し、10,000円を現金で支払ったといった具合です。この場合の単式簿記と複式簿記の具体的な記入例は以下のとおりです。

◆単式簿記の記入例

◆複式簿記の記入例

○4. 現金・預金残高の確認

帳簿上の残高と、実際の預金残高が合っているかを確認することが必要です。残高がずれている場合、二重に計上しているものがある、計上漏れが発生している、勘定科目を間違えているといった可能性があります。

ズレを放置するとどんどん大きくなり、確定申告前の修正が大変になってしまうことも。ズレが小さいうちに早期に原因を発見し、帳簿上の残高と実際の残高を合わせるよう修正しましょう。
○5. 決算書・申告書の作成

1年間の帳簿を基に、最終的な「決算書」を作成します。売上から経費を引き、最終的にいくらの所得を得たのかを明らかにする書類です。

青色申告で最大65万円の控除を受ける場合、貸借対照表と損益計算書も作成・提出する必要があります。簿記の知識がないと作成するのは難しいため、会計ソフトを活用するのがおすすめです。
帳簿付けをしなかった場合のペナルティ

帳簿付けを怠ると、以下のようなペナルティが発生する恐れがあります。
○過少申告加算税

本来申告すべき金額より少ない金額で申告をすると、過少申告加算税を課されます。
こちらの税額は、追加で納める税額の10%です。

また、帳簿が保存されていないなどの重大な不備があると、さらに最大10%加重されることもあります。
○重加算税

意図的に申告内容を隠したり、嘘の申告をしたりして、脱税をしたとみなされたときに加算されるのが重加算税です。納めるべき税額の35%、無申告では40%と税率が非常に高くなっています。

わざと隠ぺいしたり申告をしなかったりした場合は、大きな税金が課されるため、ごまかさず正直に申告をしましょう。
○青色申告認定の取り消し

税金のペナルティだけでなく、青色申告の認定の取り消しになってしまうケースも。たとえば税務署から帳簿や書類の提示を要求されたにもかかわらず、それに従わない場合は、所得税法での認定の取り消しの要因に該当することになります。
個人事業主が楽に帳簿を付ける方法

これから初めて帳簿付けをする方には、以下の方法がおすすめです。
○取引が発生するごとにすぐ記録する

取引が発生したら、原則としてすぐ帳簿に記録することがおすすめです。大量のレシートや領収書が貯まると、記録に手間がかかり、ミスが発生しやすくなります。

さらに、確定申告の期限が迫り、処理できていない書類が大量にあると、途方に暮れてしまうかもしれません。帳簿付けは後回しにせず、すぐ記録することが大切です。

○クラウド会計ソフトを活用する

クラウド会計ソフトとは、Webブラウザで操作できる会計ソフトです。ソフトのインストールは不要で、インターネットを使える環境ならどこでもアクセスできます。

クラウド会計ソフトは取引を自動で判定して勘定科目を設定する機能などがあり、上手に活用すると、自分ですべてイチから登録しなくてもよいので便利です。

さらに、貸借対照表や損益計算書、確定申告書なども自動で作成できるため、手間を省けるのも大きなメリット。ただし、月額あるいは年額の利用料金がかかるため、費用に見合うかを慎重に判断しましょう。
○簿記3級を学ぶ

簿記の知識があると、帳簿を付けるのがかなり楽になります。会計ソフトでの仕訳の間違いにも気づきやすく、分からないことがあってもネットで検索すれば対処法をすぐ見つけられるでしょう。

日商簿記は3級から1級までありますが、個人事業主の場合は簿記3級で十分です。簿記3級に合格するためには、80~100時間程度の勉強が必要とされています。

やや多く感じられますが、簿記は個人事業主を継続する限りはずっと付いて回るため、勉強する価値は十分にあるといえます。
帳簿保存のルール

帳簿や領収書などの書類は、一定期間保存しておくことが義務付けられています。
○青色申告の場合は原則7年

青色申告をした場合、確定申告期限の翌日から、帳簿類を7年間保存する必要があります。
領収書やレシートなどの関係書類、貸借対照表や損益計算書などの決算書類も7年間の保存が必要です。

請求書や契約書など取引に関連して作成・受領した書類は、保存期間が5年間となっています。
○白色申告の場合も原則7年

白色申告の場合、収入や経費を記録した帳簿に関して、確定申告期限の翌日から7年間の保存が義務付けられています。業務関連で作成した、請求書や決算関係の書類等に関しては保存期間が5年間です。

安藤真一郎 あんどうしんいちろう マーケティング会社に勤務した後、フリーランスのライターに転身。 多種多様なジャンルの記事を執筆するなかで、金融リテラシーを高めることや情報発信の重要性に気づき、現在はマネー系ジャンルを中心に執筆している。 ライターとして、知識のない人でも理解しやすいよう、かみくだいた文章にすることが信条。 ファイナンシャルプランニング技能士2級、日商簿記検定2級取得。 この著者の記事一覧はこちら
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