「家を買う」こと。それは、人生で一番大きな買い物の一つと言われる。
これまで多くの人が「家=資産」と考え、マイホームを持つことが安定した生活の基本だと信じてきた。
しかし、その「常識」は今も本当に正しいのだろうか。

「東京で家を買えば、価格は1億円近くになります。その巨大なリスクを負ってまで、一つの場所に縛られる必要はあまりないと思っていて……」

そう話すのは、YouTubeチャンネル『ライオン兄さんの米国株FIREが最強』(登録者数28.8万人)の弟子であり、自身でも『ライオンじゅんさんの米国株FIREが最強』(登録者数9400人)を運営する投資家・ライオンじゅん氏だ。

経済が伸びにくく、仕事や住む場所も変わりやすい今の時代に、簡単に売ったり引っ越したりできない「家」を持つことは、賢い選択と言えるのか。

今回は、ライオンじゅん氏に、持ち家に潜む見えにくいリスクや、賃貸だからこそ実現できるお金の活かし方について話を聞いた。
○売りたくても売れない...持ち家があなたの人生を縛るとき

多くの人が夢見るマイホーム。だがその裏には、見えにくいコストとリスクが潜む。「資産」となるはずの家が、家計を圧迫する「負債」へと変貌しかねない。

まず直面するのが、ローン以外の「維持費」だ。「ローンさえ終われば安心」と考えがちだが、現実は甘くない。予期せぬ修繕費の高騰、固定資産税、老朽化への対応。
特にマンションでは修繕積立金が不足し、一時金徴収に見舞われるケースも頻発する。

「家は"持った瞬間からコストがかかり続ける、言わば生き物"です。災害リスクの大きい日本では、築年数とともに修繕費はどんどん増えていきます。戸建てなら外壁や屋根、マンションなら大規模修繕などで、10~15年ごとに数百万円単位のお金が飛んでいく。さらに固定資産税も、手放さない限り払い続けなければなりません。こうした『見えないコスト』を計算に入れずに家を買うのは、かなり危険だと考えます」(ライオンじゅん氏)

例えば、外壁や屋根の修繕に200万~300万円、設備交換や細かな修理に数十万円が何度かかかり、さらに毎年の固定資産税も加わると、30年間でローンとは別に数百万円~1000万円超を支払うことも...。こうしたトータルコストまで見えている人は、実際には多くないだろう。

一方、持ち家最大のリスクが「流動性の低さ」だ。金融資産と違い、不動産はすぐ現金化できない。「いざとなれば売ればいい」と言うが、希望の価格とタイミングで売れる保証はないのだ。

「ここが一番のネックだと思っています。急な転勤や親の介護などのライフイベントが起きたとき、持ち家が"足かせ"になってしまうんです。
すぐに売れなければ、一定期間は二重に住居費がかかります。加えて、市場環境の変化で価格が下がれば『オーバーローン』になるリスクもある。こうした"動きにくくなるリスク"が、現代に求められる柔軟なキャリア設計やライフプランの自由度を大きく奪ってしまうのです」(ライオンじゅん氏)
○"身軽さ"に投資する。賃貸という名の資産戦略

持ち家のリスクを直視する時、「消費」と見なされてきた賃貸の合理性が浮かび上がる。家賃を「住まいのサービス料」と捉え直す視点だ。

持ち家最大の障壁「頭金」。この初期投資を、もし別の形で運用していたらどうなるか。「若いうちに家を」というアドバイスは経済成長が前提のもの。その資金を不動産に集中投下するのは、本当に現代の最適解なのか。

「賃貸の最大のメリットは、『お金の動かしやすさ』にあると思っています。仮に、頭金1000万円を、不動産という一つのものに集中させる代わりに、S&P500や債券、金などに『分けて投資』していたらどうなっていたか、を考えるべきです。金融資産なら、必要な時に必要なだけ売って現金にできますが、不動産はそうはいきません。
この『リスクを分けられる』ことと『現金化のしやすさ』が、賃貸だからこそ選べる戦略的メリットですね」(ライオンじゅん氏)

また、現代人のライフスタイルは流動的だ。賃貸は、その変化に最も低コストで適応できる居住形態と言える。

「賃貸のいちばんの強みは、ライフスタイルの変化に対する"対応力の高さ"です。子どもの成長に合わせて広い家に移ったり、キャリアチェンジのために別の街へ移住したりといったことが、気軽にできる。逆に持ち家を持つと、こうしたフットワークが一気に重くなります。『引っ越したくなったときに、身動きが取れなくなるリスク』を、私はかなり重視しています」(ライオンじゅん氏)

続けて、らいおんじゅん氏は「東京で家を買えば、価格は1億円近くになります。その巨大なリスクを負ってまで、一つの場所に縛られる必要はあまりないと思っていて。だから私は、マイホームではなく"賃貸という選択肢"を取っています」と語る。

○物件価格が、年間家賃の20倍以下なら持ち家でもOK

「持ち家vs賃貸」論争は、「不動産への集中投資」か「金融資産への分散投資」か、という資産運用の問題だ。ライオンじゅん氏は後者の優位性を説く。

「資産最大化だけなら、好立地の物件が勝つかもしれません。けれども、それは『成功すれば』の話。
S&P500と金(ゴールド)を見ても、切り取る期間で勝者は変わります。要は、不動産だけが絶対的な資産ではない、ということです。現金化しにくく、維持費もかさむ不動産投資が、そのリスクに見合った効率的なリターンを生むのか。私は少し疑問に思います」(ライオンじゅん氏)

不動産のリスクが「集中」と「現金化のしにくさ」にあるなら、対極がグローバルな「分散投資」だ。特に株式と異なる値動きの債券やコモディティ(商品)が重要になる。

「『投資=株式』と考えがちですが、資産運用はポートフォリオ全体で考えるものです。債券には不安定な時の『守り』の役割が、金には『インフレから資産価値を守る』機能があります。これらにグローバル分散することで、不動産一点買いという大きなリスクを避けて資産形成を目指す。これが私の考える合理的なアプローチです」(ライオンじゅん氏)
とはいえ、持ち家がすべての人にとって「悪」ではない。条件とライフプランが合致すれば、購入が最適解となるケースもある。重要なのは、世間の「常識」に流されず、明確な判断基準を持つことだ。

「もし私が買うなら、基準を設けます。
例えば『物件価格が年間家賃の20倍以下』。これを超えると賃貸のほうが合理的かもしれません。次に『10年以上住み続ける確信がある』こと。短期売買は手数料で損しますから。そして何より『ライフステージが固まっている』こと。キャリアや家族構成が大きく変わりそうな時期の購入は避けるべきでしょうね」(ライオンじゅん氏)
○論争のゴールは、家ではなく"自分の人生の設計図"

最終的に、この問いに絶対的な正解はなく、個人の価値観と状況で最適解は異なるとも語るライオンじゅん氏。

「ご自身の年齢、収入、キャリアプランをすべて並べて冷静にシミュレーションする必要があります。安定した会社員とフリーランスでは取れるリスクがまったく違いますから。重要なのは、他人や世間の『当たり前』に流されず、自分軸で判断することです」(ライオンじゅん氏)

「持ち家vs賃貸」論争は、単なる住居の選択を超え、個人の「生き方」と「資産戦略」を問う問題だ。「家を買って一人前」という古い価値観で思考停止せず、不動産という「見える資産」への固執を捨てる。ライオンじゅん氏は、金融リテラシーを高め、自らの未来をデザインすることの重要性を語る。

「『資産』は不動産だけではありません。
株式も、債券も、金(ゴールド)も、そして自分自身の稼ぐ力や金融リテラシーも、すべてが広い意味での資産です。私は『家を買うという大きなリスクをあえて背負う必要はない』と考えていますが、あくまでそれは、私個人の"今この時点での判断"にすぎません」

大事なのは、賃貸でも持ち家でも、自分の選択がどんなリスクとリターンを持っているのかを正しく理解し、納得したうえで決めるということだ。

さらに、ライオンじゅん氏は「そのためには、学び続けるしかない。金融リテラシーこそが、この先行きの見えない時代を切り開くための、最強の武器になるのですから」と意気込む。

これを機に、"どのような場所に住むか"ではなく、"どのような人生を生きたいか"という問いに立ち返りながら、自身のお金の使い方を見つめ直してみては。

西脇章太 にしわきしょうた 1992年生まれ。三重県出身。県内の大学を卒業後、証券会社に入社し、営業・FPとして従事。現在はフリーライターの傍ら、YouTubeにてゲーム系のチャンネルを複数運営。専門分野は、金融、不動産、ゲームなど。公式noteはこちら この著者の記事一覧はこちら
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