エスピノサへのリマッチに挑んだラミレス。しかし、そのチャレンジは予期せぬ形で幕切れとなった。

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「何度も肘打ちが来て、防ぐことができなかった」

「右目が見えなくなった。4ラウンドの肘打ちでダブルビジョン(モノが二重に見える)になったんだ。レフェリーに注意しろと訴えたが、聞き入れてくれなかった」

 声の主は、前王者でロンドン、リオ五輪金メダリストであるロベイシ・ラミレス(キューバ)だ。現地時間12月7日に米国アリゾナ州フェニックスで行われたボクシングのWBO世界フェザー級王者ラファエル・エスピノサ(メキシコ)との一戦で6回12秒に「右目が見えない」と試合を棄権。ベルト奪還の絶好機を逸した。

【動画】軽い一打で試合を放棄…名手ラミレスが喫したまさかの棄権シーン

 場内も騒然となる予期せぬ結末となった。6ラウンド開始直後、エスピノサが軽く放った右のストレートがラミレスの右目付近を直撃。すると、五輪連覇の猛者は左手を上げ、レフェリーに主張。咄嗟に後ろを向き、見かねたレフェリーが大きく手をふってTKOを宣告した。

 エスピノサとは約1年前に僅差の0-2判定で敗れて王座から陥落して以来の再戦だった。ブックメーカーのオッズを含めた周囲の下馬評も低くなく、自信を持って臨んだタイトルマッチだった。

 実際、ラミレスはエスピノサ戦後の構想も試合前に豪語。将来的なフェザー転級を公言しているスーパーバンタム級の井上尚弥(大橋)の名を出し、「私のボクシングは強い。

イノウエの歴史も終わらせることができる」と高らかに宣言していた。

「イノウエは偉大なファイターであり、レジェンドだ。でも、私の印象では、彼は126ポンド(フェザー級)にしては小柄だ。私も私の階級ではそれほど大きくないが、彼は階級を上げるには小さいし、ある時点で限界に達する。どんなにボクシングがうまくても、階級を上げると、ある時点で、その(ナチュラルな)階級の選手たちのパワーに勝てなくなる」

 ラミレスは「井上を終わらせる」はずだった。しかし、「右目が見えなくなった」ことでエスピノサに食い下がる術を見失った。

 実際、主導権をラミレスが握っていた4ラウンドの近接戦でエスピノサの左肘が、相手の右目に何度か当たる場面はあった。そのダメージは図り知れず、6ラウンド目で試合が止まった際には、単なる一撃のダメージにしてはおかしいほど、右目が大きく腫れてしまっていた。

 試合後の診断で右目の眼窩底骨折を負ったラミレスは言う。

「咄嗟に自分を守らねばならないと思った。健康な状態でリングを降りるためには試合を止めなければならなかった。何度も肘打ちが来て、防ぐことができなかった」

エスピノサは「ちゃんとパンチを当てた」と主張

 もっとも、エスピノサの肘が故意に当てられたものであったかは不透明だ。

当該シーンの映像を見る限りでは、近接戦の中での不可抗力に見えなくもない。実際、当人は「ちゃんとパンチを当てただけだ。自分は綺麗にパンチを打ち、彼がそのパワーをもろに受けたんだ」と振り返ってもいる。

 ゆえに“疑惑”に対しては、否定的な見解をするメディアも少なくなかった。米スポーツサイト『Sporting News』は「混乱の中で、審判は試合を止めざるを得なかった」と決着シーンを回想。その上で「エスピノサには肘を相手に近づける癖はある。だが、この試合において、暴力的な反則というまでの兆候はなかった。それだけにこの結末は全く予想外だった」と反則行為に当たらないという見解を記した。

 今後、ラミレスの回復状況と陣営の判断によっては、エスピノサとの3度目の対戦が組まれる可能性もゼロではない。いずれにしても「打倒・井上」と公言した元世界王者が、このまま一線級から離れていくのは寂しい。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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