Netflixにて独占配信中のアニメ『グリム組曲』。誰もが知るグリム童話に着想を得たアンソロジーで、キャラクター原案を『カードキャプターさくら』(原作)、『コードギアス 反逆のルルーシュ』(キャラクターデザイン原案)で知られるCLAMPが手掛けている。
■作品の中に感じられる「ギャップ」
――今回鈴木さんが演じられるヤコブは、物語のガイドとなる役どころです。
みんなが知っているグリム童話と、(本作で)シャルロッテが解釈したグリム童話とでは、あまりにも世界観が違ったので、自分たちがどのように表現したほうがいいのかを考えましたし、ディスカッションを重ねながらやっていきました。
その中で最終的に選んだのは、家族の中の優しさが感じられるもの。彼らが過ごしていた中世の時代の生活の大変さなどをいったん横に置くと、三人でいる時の家族の愛が感じられるのですが、どんな優しい話が始まるのかと思いきや、実はシャルロッテの頭の中はそうではなかったぞ、というギャップがあるんです。そういった世界観の違いを演出していくのは考えながらやっていました。
――グリム童話がベースにある本作ですが、鈴木さんご自身はグリム童話にどのような印象を持たれていますか?
僕らが10代くらいの時に『本当は恐ろしいグリム童話』がはやりました。小さい頃に知っていたグリム童話は、ファンタジックですてきな世界で、かわいくてキラキラしていたんですけど、実は怖い話でもあったんだなと。
――確かに、『本当は恐ろしいグリム童話』あたりからグリム童話に対する意識が変わりましたもんね。
実は恐ろしい部分もあることが見えたことによって、文学としてのグリム童話の面白さにも触れられたような気がします。今回の『グリム組曲』でも解釈を変える、時代や人種も変えるところはより面白いなと思いましたし、アニメーションじゃないとやりづらいよなと思った印象もあったので、すごく野心的な作品だと感じていました。
――本作は大人が見てゾッとする、考えさせられる、と感じる部分も多いと思います。
今回作品を見て思ったのが、アニメーションの世界が好きな人は見たら楽しいだろうなと。WIT STUDIOが作ってきた世界だったり、描こうとしている野心的な試みだったりが随所に盛り込まれていて、そこがすごい。アニメーターに興味がある方や、そうした世界に少しでも思いがある方には良い作品だと思います。音楽に関してもフィルム・スコアリング(映像に合わせて制作する音楽)をしていて、今のWIT STUDIOだからこそトライできる作品だと思いました。
――作品のみならず、その向こう側も少し感じられるような。
そうですね。
――そういった作品の手法やグリム童話自体も語り継ぎ、進化していくものかと思います。鈴木さんご自身は、今後に伝えていきたい経験や教訓はありますか?
僕らの仕事自体は、どんどん手軽な仕事になっていると個人的に感じています。皆さんが思うプロと僕らが現場で感じるプロが乖離(かいり)してしまっているので、そういうところが問題点になってくるのかな、と。
僕らはマイク前で何かを残します。その上で、いかに作品に対して良いものを残していくのかが課題にはなってくるので、プロとしての意識はきちんと伝えていかないといけないとは思いますね。
――乖離(かいり)を感じられたのはどういう瞬間だったんですか?
技術であったり、その表現の仕方だったり、ここ20年間で見ると少し層が薄くなったと感じています。僕自身も帯をギュッと締めていかないといけない世界ではありますね。
――手軽になったと言われたのも驚きました。
いや、僕らの仕事は手軽ですよ! 言ってしまえば、どなたでもできます。
――その中で、ご自身の中でアップデートしたり、変わったりした部分はありますか?
自分が先輩方によくしていただきながらこの世界を歩いてきたので、そういった職人肌の先輩たちの姿は僕の目に、耳に焼き付いている状態です。どうやったらその人たちのようになれるかを、きっと一生考えていますし、そうしたところからくる初心の重要性は心に置くようにしています。
――それはきっと変わらないところでもありますよね。
そうですね。初心を維持するほうが難しいと思います。
■声優は作品を支えるべきパーツ
――鈴木さんにXのポストについてもお伺いしたくて。作品に関するポストが長文で読み応えがあるなと拝見していて思ったのですが、こだわりがあるのでしょうか。
僕ら声優は、こうしたインタビューでもないと、役についてかみ砕いた状態で話させていただく機会は少ないものですが、皆さんに見て感じていただいたものが全てですし、それでいいと思っています。でも、せっかくさまざまな楽しみ方ができるのであれば、自分がどう演じたのかを伝えたいなと。どんなプランを持ちながらやってきたのかを言語化するためにも書くようにしています。
――考えていることを言語化するのは難しいなと思うのですが、もともと書かれるのはお好きなんですか?
いや、嫌いです。
――えっ、てっきり…。
できれば書きたくないです(笑)。でも書くことで、自分のプロとしての矜持(きょうじ)にもきちんと向き合えるというか。どうしてそういう演技になったのか、なぜそんな表現をとったのかと問われた時に、「いや、なんかいいな、と思ったんで」と答えるのか、それとも「自分の中での感情理論、状況理論があって、その中で自分のメソッドもありつつ、こういう表現になりました」と答えるのかを明確にできます。
声のお芝居って形付けができなくて、全部感性のものなんですよね。だからこそ、聞いた人がどう感じるのかに対して、(テキストという)明確な目標があると、一部ではなく、もう少し広い方たちに理解をしてもらうこともできると思うので、文章を書くことは大切にしたいですね。
――きっと、ファンの皆さんも興味深く読まれていらっしゃるのかな、と。
どうでしょうかね(笑)。僕としては作品のディテールをより深く受け取っていただけたらうれしいなという気持ちだけです。作品に携わっている時は、「とにかく作品のためになればいい」ということしか考えていなくて、ほかのことがどうでもよくなるんです。僕自身についてはどうでもいいので、役のこと、作品に対しての思いや気持ちに意識を割いてくれたらいい、興味を持ってくれたらいいと思って書いているので、そこに僕の意志は一つもありません。声優は、アニメーターの方々と一緒で作品を支えるべきパーツだと考えているので、そういうところをしっかり表現できたらいいなと思っています。