現在公開中の映画『THE BATMAN-ザ・バットマン-』のマット・リーヴス監督に、オンライン・インタビューを実施。筆者は数年前のサンディエゴ・コミコンで監督のトークを聞いたことがあり、その印象はよくしゃべる人(笑)。

今回も期待を裏切らずノリノリで、熱く、そしてとても丁寧に質問に答えてくれた(※3ページ目に映画の結末に触れるネタバレの内容を含みます。鑑賞前の方はご注意ください)。

【写真】細部にこだわり! バットスーツを着たロバート・パティンソン&マット・リーヴス監督

■バットスーツを初めて着たロバート・パティンソンをどう思った?

 まず一番聞きたかったことは、“ロバート・パティンソンがバットスーツを初めて着た姿を見た時、どう思ったか?”。というのも、主演俳優のバットスーツ姿が似合ってるかどうかに、映画の成功の是非がかかっていると思うからだ。これについては監督も「バットマン映画を手掛ける時に面白いことのひとつに、バットマン役者のスクリーン・テストがあります。スタジオがカウル(マスクのこと)を着けた状態でどう見えるかをチェックするためのものです。どんなにいい役者でも、スーツを着た時にどう映るかがバットマンにとって重要だからです」と同意する。

 「まず保存してある歴代バット・スーツをいくつか借りてロブ(ロバート・パティンソン)に着せました。ヴァル・キルマー版スーツ(註:『バットマン フォーエヴァー』版)が一番フィットしたんです。なぜか乳首があるやつ(笑)。とにかく本当に素晴らしいバットマン姿でこれならイケる!とワクワクしましたね。でも一番感激してたのはロブ自身だったかなあ。
スーツを着たロブが最初にしたことが鏡に映る自分を見ることでした。その時、アイコニックなバットスーツを着ている自分の姿に彼が驚いていたのがわかりました。そして歴史の一部になった気持ちになったんでしょうね。みんなにそれが伝わりました」。

 では、ロバート・パティンソン用にはどういうバットスーツを与えようと思ったのか? 監督いわく「スーツのデザインも大事なんですが、問題はスクリーンでそれがどう見えるかなんです。だから何ヵ月もかけてロブに合うスーツを作りながら、それにどういう照明をあてるかスタッフと打ち合わせしました。光を当て過ぎるとコスプレしているの男のように見えてしまう。そもそもあの格好は闇の中から登場しない限り成立しない。セブンイレブンのようなコンビニやスーパーであのスーツを着ていたら浮いてしまう(笑)」。

 続けて監督は「バットスーツが最も恐ろしく、象徴的で、神話的で、魅力的に見えるのはどんな時だろうかと考えました。かなり時間をかけて照明を作り、あの赤い光の下に立ってもらったんです。あれが初めてロブのバットマンを見た瞬間でした。
すごく興奮しました」と語る。

 さらに「実は後日、ロブが“自分の演技は下手なのか?”って言ってきたんです。僕が何度もテイクを重ねるからです。でもロブのせいじゃないんです(笑)。僕がどういう風にバットスーツを撮ったら最高にクールか何度も試行錯誤したせいなんですよ。ロブ×スーツのデザイン×照明×撮影とすべてのパーツがうまくはまった時、錬金術みたいに素晴らしいバットマンが現れました。“バットマン史の一部になるんだな”という感覚から、“いや、これが僕らのバットマンなんだ”という感覚に変わった瞬間で。それはとてもパワフルでエキサイティングな瞬間でした」と感激の様子で振り返る。

■バットモービルの見せ方で参考にした映画は?

 自分たちのバットマンがイケる、と手応えを感じた時の監督のうれしさが本当によく伝わる監督の言葉だが、特に興味深かったのは“バットスーツを恐ろしく見せたい”という点。つまり、監督はバットマンを怖く見せたかったのかもしれない。それは、本作のバットモービルの見せ方についても現れている。

 「いかにもヒーローの乗り物っぽいバットモービルで街を走り回っていたら違和感がありますよね。
バットマンがあの派手な車を乗り回しているぞ、と絶対に目立つ(笑)。そこで、スーツと同じようにバットモービルにもまた威嚇(いかく)する目的があるはずだと思ったんです。どう現れるのか、彼はきっと計算しているし、闇から現れることで脅威を感じさせようとしている。そこで参考にしたのはスティーヴン・キング原作でジョン・カーペンター監督が撮った『クリスティーン』(註:邪悪な意志を持った車が暴れまわるホラー)。あの映画では車が獣のような恐ろしいものとして描かれていました」。

 まさに、本作のバットモービルの登場シーンは怪物の目覚めを感じさせる。バットスーツとバットモービルというのはバットマンにとって極めて重要なアイコンなのだ。

■これまでのバットマンの物語とどう差別化するのか?

 なぜ監督は今回のバットマンを“人々の希望を与えるヒーロー”ではなく“悪人を震え上がらせるヴィジランテ(自警団員)”として描こうとしたのか? それこそが本作のテーマの一つと監督は言う。

 「僕はヒーローという者はその力をどう使い、社会に対しどのようなメッセージを発するのかがすごく大事だと思うんです。バットマンになりたてのブルースは、とにかく悪人どもを震え上がらせます。犯罪に対してはそれが抑止力になる、僕らもそれは理解できる。でもそれだけでいいのか? これだけの恐怖を街に注入することが正しいことなのか? もしかするとゴッサムの街がよくならないのは、ヒーローであるべき、ヒーローになるべきバットマンの現在のやり方がまだ洗練されていないからかもしれない。
この“洗練されていない”部分を描くことが面白いと思った。それが本作です。バットマン映画にはすでに名作がいっぱいある。僕は60年代のTVドラマも大好きでした。こうしたバットマンの物語とどう差別化するのか?の答えはここにあったんです」。

 実は今回のバットマンは、自分という存在が周りにどういう影響を与えているのか?について苦悩するため、この監督の言葉は腑(ふ)に落ちる。自分の抱える闇が実はゴッサムの街の闇を呼び寄せているのではないか? バットマンという選択をしたことは間違っていない。しかし“間違ったバットマン”になっているのではないか? こういう不安は誰しもが理解できるものだろう。『ザ・バットマン』は見せ場がいっぱいのエンタテインメントだが、ブルースのこうした内面が深堀りされ、歴代バットマン映画の中で最も自分事化することができるかもしれない。

 映画の3時間と同じくらい、監督とのインタビューも濃厚かつ素晴らしい時間だった。スーツについて質問した際、筆者がバットマンのマスクを被って“あいむ べんじんす”と言うと、監督は大喜び。とても気さくでいい人なのだ。
続編が作られた際にはぜひ来日して直接話を聞かせてほしい。

<ネタばれあり>■マット・リーヴス版バットマンの世界に、あの人は出る?

 さて最後に、ここからは『ザ・バットマン』を観た人限定の質問を。

 マット・リーヴス版バットマンの世界にロビンが出るのか、ファンならば気になるポイント。そこで「あの市長の息子が将来ロビンになる、というアイデアはどうでしょう?」と伝えてみると、監督から「それはスーパー・クールなアイデアだと思います(笑)」という答えが。

 「実は市長の子が出てくるのはブルースの過去を描きたくなかったからなんです。両親の死の場面などは、今まで他の映画で散々やっていますから。ではどうやって過去を現在の中で見せるのか。そこで思いついたのが合わせ鏡のようなあの少年のキャラクターです。あの少年を目にした途端、ブルースに全ての重圧がのしかかるのが見ていてわかる。コンタクトレンズの映像を通して、あの少年を見るアルフレッドは、彼の表情が10歳のブルースがしていた表情と同じなのがわかる」と力説。

 さらにこう付け加えた。「最後の方には重要なシーンがあります。
ブルースがやっと手を差し伸べ、人々を助けようと決めた時、手を伸ばされた人々は彼を恐れる。でもブルースとのつながりがある少年が、何かを感じ、最初にその手をつかむ。2人のつながりは、とても重要なものでした。彼はバットマンが自分を理解してくれていることを何となくわかっている。それが僕がこの少年に表現してほしかったものです。でも彼がロビンになるかもしれないというのはクールなアイデアだと思います」。

(取材・文:杉山すぴ豊)

 映画『THE BATMAN-ザ・バットマン-』は公開中。

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