2019年にドラマシーズン1がスタートし、ハマる人を続出させた『おいしい給食』。1980年代の学校を舞台に、給食を愛する教師・甘利田幸男と、甘利田の前に現れた同じく給食道を究める生徒・神野ゴウの2人による熱すぎるグルメバトルは、毎話お茶の間に抱腹絶倒と涙を生んできた。

劇場版第1弾、シーズン2誕生を経て、いよいよ公開された映画第2弾『劇場版 おいしい給食 卒業』。約3年間、甘利田という役に全精力を注ぎ「やれることは全部やりました」と言い切る市原隼人と、コロナ禍で映画第1弾の打ち切りに遭い、「やっとここまで来た」と語る綾部真弥監督。今だから話せる裏話を存分に語ってもらうと、幻のシーンや、企業秘密のアフレコ裏話も飛び出す爆笑の展開に。

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●ゼロから1を生み出したシーズン1 コロナで映画が打ち切られ、悔しい思いも

――まずは、シーズン1の第1話から、今回の『劇場版 おいしい給食 卒業』までの長い旅を終えた今の率直な心境を教えてください。

市原:そうですね…シーズン1のクランクイン前夜のことを、今でもはっきり覚えています。前日の夜ギリギリまで綾部監督と電話で、コメディで突き抜けるのか、自然体な芝居でいくか、「メガネを外した方がいいか、外さない方がいいか」などと話したりしました。
原作がないドラマなので、ゼロから1を生み出し、甘利田という人間が生まれました。子どもたちとも真剣に向き合い、制作サイドが一体となってできた作品です。本当に僕の誇りです。

綾部監督:シーズン1のドラマと映画は、とにかく撮影現場が底抜けに楽しくて。本当に輝くような毎日でした。でも『劇場版 おいしい給食 Final Battle』の時にコロナ禍が始まって…。
全国の映画館が閉まってしまい、公開途中で打ち切られるという異例の事態となり、とても悔しい思いをしました。このシーズン2はリベンジマッチじゃないんですが、人と接しないことが日常となってしまった今、僕らにできることは何なのか、とにかく活力にあふれた作品にしたいという思いでした。社会がなんとか平安を取り戻しつつあり、この「卒業」という映画の公開をなんとか迎え、やっとここまでこぎつけたという、ドキドキワクワクと安どが入り混じっています。

市原:本当に涙が出る思いです。

●「役者・市原隼人はあっぱれ!」(綾部監督) 「監督に火を付けられた」(市原)

――甘利田という役を演じたことは、俳優・市原隼人に影響を与えましたか?

市原:あると思います。滑稽な姿を見せながらも、人生を一生懸命謳歌(おうか)しようとしている甘利田の姿は、演じている僕もすごく勇気づけられているんです。
「もうダメかな」なんて思うとき、甘利田のことを思い出すと「僕ももっと楽しめる生き方があるかもしれない」と思い、心のよりどころになっています。

――綾部監督は撮影中“市原隼人”という役者をどう見ていましたか。

綾部監督:あっぱれ! 本当にあっぱれです。市原くんは、台本に書かれていることはすべてクリアするんです。そこからさらに上乗せして、「ここまでやるんだ、そんな表現があったのか」というところに持って行く。演出家としては楽しいんですよね。
「市原さんの機敏な動きはどうやって編集しているんですか、CGを使ってるんですか?」とよく聞かれるんですよ。でも何もしていない。実際にあのスピード感で動いているんです。

市原:現場で監督に言われたことが本当に大きかったんです。火をつけたのはこの人ですから(笑)。シーズン1の最初はダンスの動きも小さいんですが、綾部さんが「ちょっとこうやってみようか」って。
それで僕は火が付いちゃって(笑)。

――校歌の最後に、甘利田がテーブルで手を打つお約束を考えたのはお二人のどちらなんですか?

綾部監督:市原くんです。

市原:僕です。毎回お決まりの水戸黄門の印籠のようなところが欲しかったんです。

●給食シーンのアフレコの秘密を激白!

――抑揚にあふれたナレーションに合わせて、豪快なリアクションで給食を食していく甘利田の姿が毎話抱腹絶倒を生んでいますが、あの給食シーンのアフレコはどうやって撮っているのですか?

市原:あれはもう、寝られなかったです(笑)。給食を食べるシーンは分量が多いので、1日まるごと給食を食べるシーンだけを撮るんです。
ナレーションを録ってから、それに合わせて芝居を撮る。ナレーションの抑揚や動きなど、すべての動きを先に構築しておかなければいけないので、寝られなかったです。

綾部監督:アフレコについては、特にこの仕事をしている人たちによく聞かれるんですよ。スクリプターとか、編集マンとか。「あれどうやってるの?」って。本当は企業秘密だったんですけど。

市原:言っちゃうんですね(笑)

綾部監督:俳優のモノローグが入るシーンって、現場ではたいてい助監督などが代わりにセリフを読んで、それに対して俳優が芝居を合わせたりするんです。短いところは僕らもやるんですが、給食のシーンではそれはできないんですよ、市原くんのモノローグの抑揚を誰もまねできないから(笑)。初対面の時、市原くんに「監督、これは僕の声に合わせてじゃないと芝居ができない」と言われて。そりゃそうだよなと。だから、実は時間をすごく贅沢に使っています。まず、現場で動きを確かめながら長いリハーサルをするんですが、そこで先に給食シーンのナレーションを全部録音してしまうんです。その音声を、その場で助監督がササッと編集して、スピーカーで流しながら、市原くんがそれに合わせて芝居をする。さらに、撮影が全部終わった後に、今度はスタジオでアフレコを付け足しています。結構手間暇かけているので、今まで企業秘密で内緒にしてたんですけど(笑)。ここまでやらないと、あの給食シーンのムードは出せないんですよね。

市原:必死です(笑)

●幻のシーンが明かされる! 一問一答

――それでは、ここからは一問一答です! まず『おいしい給食』の作品の中で、最初に思い出すメニューを教えてください。

市原:「きなこパン」これ一択ですね。これが大好きで。家でも出てこないし、外食でも出てこない。給食でしか出てこない特別感がすごく好きですね。小学生の時も一番好きなのはきなこパンだったので、ドラマで出てきた時は、「うわあ来たー!」とアガりました。だからこれ一択ですね。

綾部:「クジラの竜田揚げ」ですね。これが伝説の始まりというか、シーズン1のドラマの第1話だったので。市原くんにクジラの竜田揚げどう食べてもらうか、(食べる時に)カリッと言わせようとか、イラストを入れようとか。どういう表現にするかを最初に考えた作品です。

――ありがとうございます。続いて、今だから言える自画自賛シーンを教えてください。

市原・綾部監督:難しい…。

市原:実は幻のシーンがあって…。劇場版第1弾で甘利田と神野ゴウの放送室のシーンがあるのですが、一度撮り終えた後に、「ちょっと感情的に神野ゴウと向き合いたいので、彼の前で号泣してもいいですか。泣き芝居をやってみていいですか」と監督にお願いしたんです。カットになってもいいから、やれることは全部やりましょう、と。そこで「やってみよう」、と受け入れてくださった綾部監督の器に僕は惚(ほ)れているんですけど。そんな僕が放送室のシーンで泣いているという幻のシーンがあったんです。

綾部監督:あったねえ~伝説の。実はあの芝居があったから、その後の神野ゴウの体育館の渡り廊下の涙のシーンが引き出せたんじゃないかなと思っていて。ここまで泣くもんなんだぞ、俳優というのは、って。決してあれは無駄じゃなかったというか。実はあれが佐藤大志の心に響いたんじゃないかな。

市原:あのシーンの大志の顔がすごくいいですよね。

綾部:あれは奇跡だよね。

市原:ほんとに。

綾部:自画自賛しましたね!

市原:(笑)

――そんな幻のシーンがあったんですね…! 次は、甘利田という男を一言で表すなら!

綾部監督:「情熱」ですね。彼を見ていてうらやましいと思うのが、給食に対する「情熱」。自分の好きなものに対するあふれ出るパワーが、普通の人間ではまねできない。

市原:「ロマン」です。好きなものを好きと胸を張っていて人生を謳歌している姿。そんな姿をお客様に見ていただいて、「自分もまだ人生を謳歌できるところがあるんじゃないか」と思っていただきたいです。

――では一問一答の最後です。この作品での自分の評価は何点?

市原:僕は「99点」です。ほんとは「100」って書きたいんですよ! でも、最後の1点はやっぱりお客様に観ていただくことが必要なので。今回やれることは全部やりましたから。これまで経験した現場の全部を差し置いて今までで一番ハードな作品で、燃え尽きるまでやりました。だから99点です!

綾部監督:俺も全く同じこと考えてた! 最後の作品評価をしていただくのはお客様だと思ってます。後悔はゼロではないですが、『おいしい給食』チームは、限られた時間の中で手を抜かずに全力でやり切りました。もっとやりたいことはあったけど、知力と体力すべてを使い尽くしたなと。「1点」のこれからの課題はあるんですけど、それは市原くんも同じだと思うんですよね。全部出し惜しみせずに、すべてやったという思いがあります。

●神野ゴウは10年後、何してる?

――神野ゴウは10年後、何をしていると思いますか?

市原:これはもう「●●●(ネタバレ)」ですよね。

綾部監督:言っちゃった(笑)

市原:言っちゃった!(笑) いや、やっぱり甘利田になってるんじゃないかと。給食に支えられて生きてきた人間は、給食に恩返しすべきです。

綾部監督:『男はつらいよ』は、渥美清さんが長年ずっと主役を務められて、でもシリーズ最後の方は吉岡秀隆さんがメインの話になっていった。だから『おいしい給食』シーズン20(笑)では、神野ゴウが主役に変わってるぐらい、佐藤大志としてはそういう俳優になってほしい。

市原:僕は待ってますよ!

綾部監督:僕が思うのは、実は神野ゴウも甘利田も現実世界にいて、今もどこかでコロナ禍の給食現場で戦ってくれている気がして。最近、学校現場では、対面しない前向きでの給食を止めて、また机をつけあって食べようという動きが出てきているそうです。でもまだしゃべっちゃいけないとか、段階的にやっているんです。それはきっと、甘利田や神野ゴウのような男がどこかにいて、何とか給食のあるべき姿を取り戻そうと戦ってるんじゃないかって。僕の中では神野ゴウも甘利田も、本当に生きているような感覚です。

●『おいしい給食』はキング・オブ・ポップ

――『おいしい給食』を愛してくれた人たち、これから劇場版を楽しみにされている方へメッセージをお願いします。

綾部監督:『おいしい給食』シーズン1とシーズン2と、そして映画とやってきました。今回の『卒業』という作品が、甘利田と神野ゴウの集大成だと思って、本当にスタッフ・キャストが全力で臨んできました。おもしろいエンタテインメント作品に仕上がってますので、ぜひ劇場でご覧になっていただければと思います。

市原:シーズン2、そしてこの『劇場版 おいしい給食 卒業』が生まれたのは、ひとえにこの作品を応援してくださり、好いてくださったみなさまのお気持ちのたまものです。心から感謝しています。「卒業」は、この作品を好いてくださったみなさまに送るエールのような思いを形にしようと思い作っていました。ぜひ、純粋に楽しんでいただきたいです。お子様からご年配の方まで、本当にみなさまで楽しんでいただける「キング・オブ・ポップ」だと思っています。ぜひ劇場でお楽しみください。

――最後に、甘利田はこの後どうなると思いますか?

市原:甘利田はこの後「●●●(ネタバレ)」。

あ、また言っちゃった!(笑)

綾部監督&一同爆笑。

(取材・文:稲生D 編集部 写真:高野広美)

 『劇場版 おいしい給食 卒業』は公開中。