ついに日米同時公開を迎えた『トップガン マーヴェリック』。公開前より映画を見た批評家の間で良い評判を集めていたが、それも納得。

本作は36年前に公開されたオリジナルの精神をしっかり引き継ぎつつ、新しいものをしっかり持っているのだ。その核となっているのが、作品を観たら必ずや魅力を分かってもらえる、若手キャストたちだ。

【写真】『トップガン マーヴェリック』トム・クルーズの熱意を継いだ若手キャストを紹介

 海軍のパイロットを30年以上務め、今はテストパイロットとしてあいかわらずやりがいのある毎日を送っているマーヴェリック(トム・クルーズ)は、難しいミッションを背負うことになったトップガン卒業生の分隊を指導してほしいと依頼される。その分隊は、人種も性別も多様で、個性的な若者の集まり。彼らが映画に新鮮な魅力をプラスしているのである。

●マイルズ・テラー、久々のオーディションでルースター役をゲット

 中でも一番重要なキャラクターは、マイルズ・テラーが演じるルースター。ルースターは、1作目で事故死したグース(アンソニー・エドワーズ)の息子で、マーヴェリックに対して複雑な感情を持っている。この役にテラーが良いのではと思い付いたのは、『オンリー・ザ・ブレイブ』でテラーと組んだばかりだったジョセフ・コシンスキー監督。コシンスキーは、テラーにこの役の話をした後、プロデューサーを務めるクルーズとジェリー・ブラッカイマーに見せるため、彼の顔写真を撮影した。主役級俳優になって久しいテラーは、「ヘッドショット(オーディションのために用意する顔写真)を見せるなんていつ以来だろうと思ったよ」と笑う。

 だが、実際、テラーはその後オーディションを受ける必要があったのである。クルーズを相手にしてセリフを読むというもので、かなり長いオーディションだった。
後日、クルーズから電話があって再び呼び出され、しばらく会話をした後、「この役は君のものだ」と言われたと、テラーは振り返る。

●トム・クルーズが説得 ハングマン役のグレン・パウエルに注目!

 テラーのライバルとして最後まで残りつつも落ちてしまったのが、ハングマンを演じるグレン・パウエル(『セットアップ:ウソつきは恋の始まり』『ガーンジー島の読書会の秘密』)だ。子どもの頃、父と一緒にビデオで『トップガン』を見たことがきっかけで俳優の道を選んだというパウエルは、グースの息子役を得られなかったことにがっかりし、ハングマン役のオファーを断った。その段階で、ハングマンの役がしっかり構築されていなかったのも大きな理由だ。そんなパウエルを、クルーズは、「この役はまだきちんと書かれていないんだ。ここから一緒に作り上げていこう」と説得したという。「僕にとってのヒーローであるトム・クルーズとジェリー・ブラッカイマーが、僕のための役を作り上げていきたいと言ってくれたんだよ。まさに夢のようだった」と、パウエルは語る。

●『トップガン』のオーディションと知らなかった人も それぞれが役を獲得するまで

 ほかの役者たちも、厳しいオーディションをくぐり抜けて選ばれた。オーディションの第一ステップは、自分の演技を録画した映像を送ることだった。ニューヨークに住んでいたダニー・ラミレスは、テープを送った後、ロサンゼルスでのオーディションに呼ばれたが、飛行機が嫌いなため、どうせ受からないのに行く価値があるのかと悩んだと明かす。「オーディションの部屋に入っていくと、(ペイバックの役を勝ち取ることになる)ジェイ・エリスがいた。
その隣で、別の俳優が彼の解釈するペイバックを演じてみせていたのを覚えている」と、ラミレスはファンボーイの役を獲得した経過を振り返ってくれた。

 一方、コヨーテを演じるグレッグ・ターザン・デイヴィスは、最初、自分が『トップガン』のオーディションを受けていると知らなかったと述べる。別の作品のオーディションを受けたところ、ある秘密のプロジェクトのオーディションを紹介されたのだが、それがなんと『トップガン』の続編だったのだ。2、3回呼び出された後、コシンスキーの前でオーディションをすることになり、「トム・クルーズがあなたの演技の映像を見て気に入りました」と言われた時には、とても感激した。

 「僕はトム・クルーズの演技をずっと見てきたけれど、トム・クルーズが僕の演技を見たなんて言われて、全然ピンと来なかったよ。こういうことがあるから、どんな作品であっても積極的にオーディションを受けるべきだと、僕はみんなに言うようにしている」(デイヴィス)。

 80年代に作られた1作目と違い、今作にはフェニックスという女性のパイロットも登場する。その役に選ばれたのが、モニカ・バルバロだ。

 「1作目が製作された頃、女性は戦闘機に乗って戦うことが許されていなかったのよ。それが可能になったのは、公開から数年後のこと。実際の女性パイロットたちに話を聞いたら、男女の違いを意識されないほうが良い仕事ができると言っていた。彼女らは『女性パイロット』じゃなくて、『パイロット』と呼ばれることを好むの」(バルバロ)。


 そんな彼らは、この映画の出来に大いに満足している。だが、良い映画になることは最初からわかっていたと、パウエルは話す。

 「トム・クルーズが、自分のキャリアを定義した重要な作品の続編を作るんだから。すばらしい映画になるのでないかぎり、やるはずはないんだ。そのジャーニーに参加させてもらえた僕らは本当にラッキーだよ」。(取材・文:猿渡由紀)

 映画『トップガン マーヴェリック』は公開中。

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