『不良少女とよばれて』や『スクール☆ウォーズ』『乳姉妹』(いずれもTBS系)など数々の大映ドラマで、ギラギラとした存在感を発揮した松村雄基。俳優デビューから40年以上が過ぎ、来年は還暦を迎える彼だが、「ここまであっという間でした。

なんのためにこの仕事をしているのかということが、少し分かりかけてきたような今日この頃です」と穏やかにほほ笑む。かつて熱いワル役でお茶の間を魅了した彼は、一体どのように俳優道を歩んできたのか。俳優としての転機になったという大映ドラマの思い出。そして「よりガムシャラに。思惟的にガムシャラに生きていきたい」という60代への展望を明かした。

【写真】来年還暦とは思えない! 変わらぬ精悍(せいかん)さ&スタイルの松村雄基

熱いワル役が転機に 大映ドラマで同じ時を過ごした仲間は「戦友」

 1970年代から80年代にかけて、強烈な個性を持ったキャラクターやインパクトあふれるセリフ、目まぐるしい展開が人気となり、一世を風靡(ふうび)した大映ドラマ。
14歳で芸能界入りした松村は、当初は「自分に役者業が向いているなんて、これっぽっちも思っていなかった」そうだが、大映ドラマへの出演を経て、その道を力強く歩き始めた。

 松村は「僕が初めて大映ドラマに出たのが、金田賢一さん、伊藤麻衣子(現:いとうまい子)さん、利重剛さん、伊藤かずえさんと共演させていただいた『少女が大人になる時 その細き道』(TBS系)という作品です。プロデューサーを春日千春さんが務めていましたが、そこから10年ほど連続で出続けた大映ドラマは、ほぼ春日さんの作品なんです」と口火を切り、「そういった意味で『少女が大人になる時 その細き道』は、僕にとってまず一つの転機ですね。次に出演した『不良少女とよばれて』では、ものすごい不良の役を演じることになって(笑)。そこから不良役を多く頂けるようになったので、それも大きな転機。大映ドラマはすべてが転機と言える作品ばかりなんです」としみじみ。


 大映ドラマの現場では、根性を鍛えられたという。孤高の不良、大木大助役を演じた『スクール☆ウォーズ』に触れながら、松村はこう語る。

 「『スクール☆ウォーズ』では、朝7時前から短パン姿で、霜柱が立っているようなグラウンドで芝居をしていました。寒くて寒くて仕方なかったですね。“1日中、待っていても撮影がない”なんていうこともよくあって。“なにクソ! このやろう!”という気持ちで踏ん張っていました。
そういった経験があると、今後何があってもへこたれないぞ、自分は何があっても耐えられるぞという自信がつきました」と笑顔を見せる。またアイドル歌手の上月光に扮した『花嫁衣裳は誰が着る』(フジテレビ系)の現場では、「主人公を演じた堀ちえみちゃんが、当時ものすごく忙しくて。気付くといつも寝ている。でも本番になるとパッと起きるんですよ。劇中で僕はアイドル役を演じていたんですが、“本当のアイドルは大変だなあ”と思いました」とそれぞれが忙しいスケジュールの中で奮闘していたといい、「大映ドラマで同じ時を過ごした仲間たちは、スタッフも含め、戦友といった感じ。同じ釜の飯を食った戦友です」と愛情を込め、目を細める。


「俺は海鳴りだ!」印象的なセリフに隠された、脚本家からの愛

 当時は「芝居ができずに現場で怒られて、できない自分にも腹が立って。悔しい、見返してやるぞ!という思いで、芝居をしていました。そういった思いが演じた役柄に乗っかっていたように思います」とギラギラとした存在感の秘密は“悔しさ”にあった様子だが、今振り返ってみると「たくさんの人に支えられていたことに気付く」と明かす。

 『不良少女とよばれて』で松村は、ヒロインに惹(ひ)かれていく“東京流星会”の会長・西村朝男役を演じていた。「ドラマが進んでいくと、“物語の後半で朝男が死ぬ”という情報が世間に流れたらしくて。するとTBSに助命嘆願がたくさん届いたそうなんです。
その声によって、僕は生き延びることができました」と笑いながら、「ドラマって視聴者の方も参加しながら作っているものなんだなと感じましたし、僕は一人じゃないんだと思えた。そう感じられたことは、僕の役者人生にとって大きな力になりました」と告白する。

 さらに「これは『乳姉妹』のセリフだったと思いますが」と不良グループ“渡り鳥連合”のリーダーで、トランペッターとしての夢を見つけていく田辺路男役を思い返しつつ、「伊藤かずえさん演じる千鶴子をバイクで追いかけて行って“あなた、何者よ!?”と聞かれた路男は、“俺は海鳴りだ!”と答えるんです。今だったらどういう意味なんだろう?と思うようなセリフですよね(笑)。でも当時は“台本に書かれた一言一句、間違えずに言え”と教えられて育っていましたから、現場では一生懸命に“どうやって言うのがいいんだろうか”と考えていました。当然ながらスタッフも誰一人、そういったセリフを発しても笑いませんからね。
大映ドラマでは、ずっと忘れられないような、印象的なセリフをたくさん言わせていただきました」とにっこり。

 「のちのち、数多くの大映ドラマの脚本を手掛けてくださった大原清秀さんの妹さんと、手紙のやり取りをさせていただくようになって。妹さんは、“兄は寝ずに、血の汗、涙を流すようにして台本を書いていました”とおっしゃっていました。また、“松村雄基という若い役者がいて、彼がとても頑張っているから、良いセリフを書いてあげたいんだ”と言ってくださっていたそうで。本当に感動しました」と印象的なセリフは脚本家からの愛情深いプレゼントだったと知り、「夢中で突き進んでいたことが、大原先生にも伝わったのかもしれません。精いっぱいやることって、大切なんだなと改めて感じました」と一生懸命にやっていれば、必ず誰かが見てくれているものだと実感を込める。 

「ようやく役者としてのスタートラインに立てた」

 一本芯の通った不良役を演じる機会も多かった松村は、「街で暴走族のお兄ちゃんが握手を求めてきて、“やった! 立派な不良になります!”と言ってくれたり、憧れの目で見てくれたりと、劇画の中のヒーローになったような気分でした」と楽しそうにコメント。そんな彼は、2020年に俳優生活40周年を迎えた。40年という年月も「あっという間だった」と打ち明ける。

 「僕は30代半ばくらいから、舞台を多く務めさせていただくようになって。生のお客様を目の前にして芝居をすることで初めて、“お客様がいるからこそ、僕らは舞台に立てるんだ”ということを痛感しました。10代、20代は悔しさを原動力に、自分の承認欲求を満たすために突き進んでいるようなところがありましたが、それだけでは舞台に立ち続けることはできない。それまでの僕は、タイミングに恵まれ、運良く、縁良く、いろいろな方に引っ張ってもらってきていただけなんです。役者というものは、スタッフやお客様に支えられて生きていて、お客様に何かを届けることができる仕事なんだと、そういう自覚をしっかりと持てるようになって、ようやく役者としてのスタートラインに立てた気がしています。やっと、自分がなんのために仕事をしているのかが少し分かりかけてきたような、今日この頃です」とほほ笑む。

 コロナ禍で一層、舞台に立つ思いは特別なものになったという。「コロナ禍では、お客様が劇場に足を運べるということが、当たり前ではなくなってしまった。キャストとスタッフ、舞台上と客席、そういった人と人が触れ合って、生のキャッチボールができることの大切さを痛感しました。お客様の拍手を聞くと、つらいことも、悩んでいたこともすべて流されていくような気がするんです。やっぱり生身の触れ合いって、生きる上でのエネルギーをくれるものなんだなと感じています。きっとそれは、お客様にとっても同じこと。舞台を観に来てくださった方々に対して、きちんと何かを持って帰れるような作品にしなければという責任感も強くなったように思います」と真っすぐな瞳で語る。

「来年還暦だなんて、自分も信じられない(笑)」

 6月4日からは、アーネスト・トンプソンによる戯曲を舞台化した『黄昏』が幕を開ける。『黄昏』は老夫婦とその家族のひと夏の日々と心の交流を描く物語で、1981年にはヘンリー・フォンダ、ジェーン・フォンダ、キャサリン・ヘプバーンの共演で映画化され、アカデミー賞をはじめ数多くの映画賞を受賞。以来、今なお世界中で上演され続けている。文学座の鵜山仁による新演出での上演は、2018年版、2020年版に続き、今回で3回目の再演。松村は老夫婦の娘の恋人・ビル役を2018年版から続投している。

 松村は「3回も再演がかなった舞台は、僕の40数年の役者人生の中で2作品だけなんです。これは、役者としてものすごく光栄で幸せなこと。とても思い入れのある作品になりました」と感無量の面持ち。高橋惠子瀬奈じゅん、石橋徹郎、林蓮音、そして石田圭祐といった共演者たちとは「家族のようになっている」そうで、「惠子さんがみんなをおおらかに包み込んでくれるんです。この作品のメンバーには、どんな芝居をぶつけても必ず受け止めてくれるという信頼があります」と素晴らしい関係性を築いている。

 忍び寄る老いや、親子の確執を描きつつ、家族の絆を確かめていく物語だが、再演をするごとに「発見がある」と不朽の名作と言われる理由をかみ締めているという。「人間は失敗もするし、愚かなこともするけれど、その中で誰かを許したり、支え合ったりしながら、自然と共に生きている。一瞬一瞬をおろそかにして生きてはいけないということも、決して押し付けがましくなく、さりげなく教えてくれるような作品」と松村自身、本作に魅了されている。

 背筋をピンと伸ばし、エネルギッシュに俳優業について語る姿からは、来年還暦を迎えるとはとても思えない。素直にそう伝えると、松村は「僕も信じられない! 60歳なんて、もっとちゃんとしているものだと思っていました」と照れ笑い。しかしながら年齢を重ねることの良さを実感することも多いそうで、「経験が増えるごとに、心のひだも増えている。台本に書かれた一行のト書きからも、喜び、悲しみ、痛みなど、いろいろな角度からその役柄の感情を考えることができるようになったと思います」と心豊かに生きている。

 60代の展望は、「明日のことすら、どうなるか分からない世の中。“明日はない”というくらいの気持ちで、精いっぱいに今日を生きる。これに尽きます」とキッパリ。「これは明日やろう、いつかやればいいだろうと延ばし延ばしにしない。これまでも無我夢中、ガムシャラに生きてきましたが、よりガムシャラに。後悔しないためにも、意識的、思惟的にガムシャラに生きていきたい」ととことん熱いのが松村流。その姿勢を身に付けられたのは、「うちの事務所の社長はいつも、“とにかくやれ、なんでもいいからやれ。目の前は宝の山だ。恐れずに進め”と言っています。“失うものは何もないから、行け”と背中を押してくれました。僕が14歳の時に出会ってから、もう45年になりますね。その言葉が、いつも僕の根底にあるように思います」と大切な出会いによるものだ。

 インタビュー中も温かな笑顔を絶やさず、周囲への感謝と芝居への情熱をあふれさせた松村雄基。数々の不良役も、彼が演じたからこそ心根に優しさが見え隠れするような、今なお忘れがたい魅力を放つキャラクターになったことを実感するとともに、これからの活躍がますます楽しみになった。(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)

 舞台『黄昏』は、6月4日東京・江東区文化センター ホールにてプレビュー公演、6月8・9日大阪・枚方市総合文化芸術センター 関西医大 小ホール、6月11・12日兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール、6月14・15日石川・北國新聞赤羽ホール、6月18・19日愛知・穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール、6月21日~26日東京・紀伊國屋ホール、7月9日長野・長野市芸術館 メインホールにて上演。