山下智久が主演を務め、評判を呼んでいるドラマ『正直不動産』(NHK総合/毎週火曜22時)がついに今夜最終回を迎える。不動産の営業マン・永瀬財地(山下智久)が、風に吹かれてペラペラと本音を話してしまう姿がユーモラスであることに加え、心からあふれ出る“名(迷)言”の数々にも魅力がたっぷり。
【写真】『正直不動産』永瀬財地(山下智久)の活躍を振り返る
永瀬は言葉巧みに客から契約を取り付けることで社内の営業成績トップを誇っていた。だがある日、ひょんなことから祟りにあって嘘がつけなくなってしまう。本音しか話せなくなったことで営業は失敗続き、そして成績が落ちれば収入も減り、瀟洒(しょうしゃ)なタワマン暮らしからボロアパートへ。だが永瀬は正直営業を続けるうちに、大切なことに気付いていく…。
■「なるほど。それは…1円にもなりませんね」(第1話「嘘がつけなくなった不動産屋」より)
永瀬にアパート建設の相談をした和菓子職人の石田(山崎努)。儲からないのになんで50年も菓子を作っているのかと永瀬に問われ、一度答えを保留したのち、第1話のラストで「俺の菓子食うと、みんな幸せそうな顔する。だから続けられた」と石田は答える。ここで、永瀬に軽やかな正直風が。そして口から出たのが「なるほど。それは…1円にもなりませんね」という言葉だった。
ゲスト出演した山崎と山下は、『クロサギ』(TBS系)での共演を経て『最高の人生の終り方~エンディングプランナー~』(TBS系)以来、10年ぶりの共演となった。二人が久々に演技を交わすシーンには多くの反響が寄せられた。
■「愛は目減りしても借金はびた一文減らねえよ」(第3話「信じられるパートナーとは」より)
かつて永瀬の勧めでペアローンを組んでマンションを買った夫婦が店を訪れる。二人は離婚をすることになり、マンションの処分の件で相談に訪れたのだ。高額のローン返済を残したままの二人に、永瀬は「愛は目減りしても借金はびた一文減らねえよ」と痛烈な一言を放つ。祟りのせいで嘘やお世辞が言えなくなり、思ったことがつい口から出てしまう永瀬。思うように営業ができなくなってしまった永瀬の姿が、笑いを誘うとともに印象的な一コマとなった。この後、永瀬は正直者なりの営業を模索するように。
■「私気づいたんです。
第3話でもう一つ紹介したいのが、福原遥演じる月下のこの言葉。かつて悪徳不動産にだまされた父親が蒸発し、母親と2人、安アパートに引っ越した月下。風呂もないオンボロの部屋だったが、窓の外には美しい桜が咲き誇り、紹介した不動産屋の女性から「この眺めはどんなにお金を出してもこの部屋でしか見られませんよ」と伝えられる。それ以来、誰よりも“住む人の幸せ”を考えてきた月下は「カスタマーファースト」を徹底した営業スタイルを貫く。「ライアー永瀬」と呼ばれた昔の永瀬とは対極にいるかのような月下だが、今では永瀬にとっての心強い味方に。9話では大きく成長し、宿敵ミネルヴァ不動産の花澤(倉科カナ)と渡り合うほど頼もしくなった。
■「このジョーク知ってます?人生最良の日は結婚式の日だった。では最悪の日は?…それ以降の毎日だ!あっはっはっは…」(第3話より)
永瀬を恋愛対象として気にかけていた榎本(泉里香)は、居酒屋「しょうじきもん」での永瀬のこの言葉に大激怒。永瀬が放ったこのジョークは、実は映画『シティ・スリッカーズ』(1991年)の名言である。どうやら結婚願望がなく自由に生きていたい永瀬のお気に入りの言葉のようだ。永瀬はこれ以外にも、結婚に関しての後ろ向きな言葉を残しており、独身生活を好んでいる様子。
■「どうでもいい物件なんて一つもない。どんな家にも、どんな部屋にも、誰かの人生がそこにある」(第4話「いい部屋の定義」より)
正直風が吹かない時でも、名言は生まれる。美しい夕日が広がる会社の屋上で、永瀬が同僚の桐山(市原隼人)に語ったのがこの言葉だった。現在は独立して不動産ブローカーとなった桐山も、当時は登坂不動産で永瀬と切磋琢磨する良きライバル。一時はミネルヴァ不動産からのスパイを疑われたが、誠実な仕事ぶりにより疑いが晴れてからは永瀬にとっての戦友となる。正直者になってからの永瀬には、少しずつ価値観の変化が現れた。第4話のこのシーンは、永瀬の小さな変化が垣間見えた瞬間でもある。
■「正直営業をして考えが変わった。俺たちと客との本当の関係は契約書にサインをしてから始まる。
嘘がつけなくなったことで、はじめは四苦八苦していた永瀬だが、次第に客と真っすぐに向き合うことにやりがいを感じ始める。第6話のこの言葉からは、永瀬の価値観が大きく変わったことが見て取れる。この時、桐山には綺麗事と言われてしまうが、永瀬はこれが本心なのだと話していた。
■「社長、俺、この会社に入ってよかったです。必ず日本一、いや世界一の不動産屋にして見せます」(第8話「信じること」より)
危うく地面師に騙されそうになるも、なんとか回避した永瀬。実は登坂社長(草刈正雄)は、永瀬の仕事相手が地面師だと薄々感づきながらも、永瀬に契約を任せていた。それに疑問を持った永瀬が社長に問うと「お前はあの時、相手を信じると言った。だから私もお前を信じた。地面師に騙されたとしても、永瀬を信じた私が責任を取れば済むことだ。永瀬、そもそも、私は(初めて出会った)13年前にお前にかけた。人を信じるということは相手に全てをかけるということだ。裏切られたとしても、それはかけた自分の責任でしかない」と返す。
登坂社長は登坂不動産を立ち上げる以前、大手不動産の営業だったが、地面師にだまされ会社を辞めた過去を持っていた。実際は地面師の疑いを上司に主張するも聞き入れられず、最終的に責任を押し付けられ、会社を去る羽目になったのだ。そんなかつての自分の境遇を重ねつつ、たとえ今回永瀬が騙されても、自分は決して部下に責任を押し付けたりはしないという登坂の成長と密かな覚悟。照れくさそうに「今さらそんなこと聞くなよ」という粋なセリフも秀逸だ。
これを聞いた永瀬が登坂社長に宣言した「社長、俺、この会社に入ってよかったです。必ず日本一、いや世界一の不動産屋にして見せます」の本心がなんともすがすがしい。社長と永瀬の心暖まる信頼関係は本作の見どころのひとつでもある。
■「彼女(花澤)には彼女のやり方があるように、月下には月下のやり方があるでしょ。必ずいい営業になる。俺が保証する」(第9話「決戦!眺めのいい部屋」より)
ライバルの花澤と一騎討ちとなるも完敗してしまった月下。キャリアも、背負うものも大きな花澤の存在は、まだまだ月下にとっては超えられないものだった。落ち込む月下に永瀬が投げかけたのがこの言葉だ。
かつて不動産屋を志した時、誰よりも真っすぐだった永瀬は、営業成績や利益のことを考えるあまり、ライアー永瀬に変わってしまった。だが正直者になることで、再び大切な感情を取り戻していくことに。誰かに対して正直であることももちろん大切だが、何より一番大亊なのは自分に対して正直であることなのではないか。永瀬が「正直営業」を通して生き生きと仕事をしている姿は、そんな大切なことを思い出させてくれる。今夜の最終回ではどんな名言が飛び出すのか、永瀬の勇姿を見届けたい。(文:Nana Numoto)
ドラマ『正直不動産』最終回(第10話)は、NHK総合にて今夜22時放送。