今年の夏は、なぜかうれしいほどにホラー映画が大豊作! 製作国も多彩なら、趣向もさまざま。7月封切りだけでもR18+の血まみれ感染パニックに、史上最高齢の殺人鬼夫婦、死者の電話怪談もあれば、本格土着心霊譚も。

さらには超・鬼畜問題作のリバイバル、おなじみサメ映画まで、バラエティ豊かな作品が勢ぞろい。そんな粒ぞろいの夏ホラーを一挙紹介!

【写真】“二度と見たくない傑作” 『哭悲/THE SADNESS』場面写真

■『哭悲/THE SADNESS』(2021年/台湾/R18+)7月1日公開

 なにはなくともホラー映画の魅力はインパクト。日常を突き崩す極限体験で心底ゾッとしたい。そんな怖いもの知らずなホラーファンの大本命となりそうなのが本作だ。

 風邪に似た症状を伴う謎のウィルスが突然変異し、パンデミックを起こす。感染者は凶暴化、衝動のままに破壊と殺戮に暴走する。会社に出勤中、感染パニックに巻き込まれた同棲中の恋人を助けようと、思わず自宅を飛び出す青年。だが、既に街は狂気と殺意に支配され、おぞましい地獄に変貌していた。

 近所の食堂にふらりと現れる寝巻姿の老女、通勤電車で執拗に話しかけてくるおじさん。誰もが身に覚えのある、ちょっと不穏な予感が一気に血みどろの惨劇へと転じるショック。美男美女の恋人たちを襲う容赦ない大惨事は仰天必至。グロテスクな残虐シーンは問答無用のR18+指定、間違いなく今夏一番の流血量だ。


 監督はこれが初長編となるロブ・ジャバズ。ボディホラーの奇才、デヴィッド・クローネンバーグを敬愛する彼が紡ぐ、殺伐としながらも突き抜けた悪夢的カタルシス。覚悟のうえでご覧頂きたい。

■『ブラック・フォン』(2022年/アメリカ/PG12)7月1日公開

 1970年代のアメリカ、コロラド州の小さな町を騒がす正体不明の連続児童誘拐犯“グラバー”の噂。彼にさらわれ、出口なき地下室に監禁された内気な少年フィニーは、断線した黒電話を通じて、殺された少年たちの霊から生き残る知恵と脱出のヒントを授けられる。一方、フィニ―の妹グウェンは不思議な予知夢を手がかりに、失踪した兄の行方を探し始める…。

 サイコパスと心霊、超能力とエモい郷愁が絶妙に絡み合うユニークな一篇。原作はスティーヴン・キングの息子、ジョー・ヒルの短編「黒電話」。これに惚れ込んだ『ドクター・ストレンジ』(2016年)のスコット・デリクソン監督が、『フッテージ』(2012年)で組んだスリラーの名門ブラムハウスの製作&イーサン・ホーク(グラバー役)の主演で入魂映画化。

 死してなお消えない友情、少年同士の純粋な敬意は、さながらスピリチュアル版『スタンド・バイ・ミー』(1986年)の趣き。あの世からメッセージを送る「黒電話」ボーイズも個性派のイケメン揃い。若手スターの青田買い映画としても要注目だ。


■『X エックス』(2022年/アメリカ/R15+)7月8日公開

 こちらも『ブラック・フォン』同様、1970年代が舞台。ポルノ映画でひと儲けを狙う自称プロデューサーの男に連れられ、テキサスの農場にやってきた撮影隊。家主の老夫婦には内緒でセックス場面の撮影を始める彼らだが、若くセクシーなその肉体をじっと見つめる人影が…。

 能天気な若者が皆殺しにされるスラッシャー映画の新機軸! なんと史上最高齢のシニア夫婦殺人鬼が登場。血みどろの殺人を繰り返す彼らの恐るべき動機とは?

 底知れぬ魅力=Xファクターを秘めた主人公のポルノ女優を『サスペリア』(2018年)のミア・ゴスが体当たりで熱演。気のいい金髪ビッチ役は『プロムナイト』(2008年)のブリタニー・スノウ、性解放に喜びを見出す陰キャ女学生に『スクリーム』(2022年)のジェナ・オルテガと、絶叫クイーン陣が大充実。監督は21世紀ホラーを牽引するタイ・ウェスト。製作は『ミッドサマー』(2019年)など、異色の傑作を送り出すA24が担当。定番にひとヒネリ加えた旨味に、作家色を強く感じる一作だ。

■『海上48hours ―悪夢のバカンス―』(2022年/イギリス)7月22日公開

 怖い映画は好きだけど、暑苦しい血まみれの修羅場はちょっと…という方には、どこまでも広がる青い海が舞台の本作をおすすめ。卒業旅行で出かけたメキシコのリゾートでバカ騒ぎする大学生5人。帰国当日の朝、まだ誰もいないビーチで水上バイクを見つけた彼らは、最後の思い出作りに無断で2台に分乗。
猛スピードでチキンレースに興じるうち、衝突事故を起こして沖合を漂流するハメになる。しかも、この海域には巨大な人食いザメが生息していた…。

 サメ映画の快作『海底47m』(2017年)&『海底47m 古代マヤの死の迷宮』(2019年)の製作陣が再び贈る、大海原の恐怖。しかし、獰猛なサメより怖いのは、危機的状況下で浮上する面倒臭い人間関係。大怪我に仲間割れ、浮気発覚、思わぬ裏切りと、死亡フラグのオンパレード。

 ヒリヒリと焦げつく炎天下、ひとりずつ襲われて海中に消える若者たち。優等生と理想の彼氏、マッチョにビッチ、お調子者。コテコテなキャラ5人のなかで生き残るのは誰か?そして、海の死神から逃れるすべは―。

■『セルビアン・フィルム 4Kリマスター完全版』(2010年/セルビア/R18+)7月22日公開

 この夏のホラー旋風は新作ばかりではない。伝説の超・鬼畜残酷映画がまさかのリバイバル公開! しかも、奇跡の解禁となった4K無修正完全版で再上陸する。

 今はポルノ業界を退き、妻子と慎ましく暮らす元スター男優。高額なギャラにつられて、芸術ポルノ大作への出演依頼を承諾した彼だが、それは本物の拷問と殺人を撮影するスナッフ・フィルムだった。


 露悪的なポルノ現場の舞台裏に始まり、倫理と道徳を踏みにじる壮絶シーンのつるべうち。「全世界46ヵ国以上で上映禁止」「一生分のトラウマ」と物騒な惹句が踊り、非難轟々となった病的な「人でなし」描写の一方で、意外に作り込まれた映像美がクリアに復活。この禁断の扉を開き、新たな犠牲者(信奉者?)が増えることは確実だ。

■『女神の継承』(2021年/タイ=韓国/R18+)7月29日公開

 夏の風物詩はやっぱりオバケ! 心霊好きにはこちらをイチオシ。土地の精霊への信仰が厚いタイの小村で、女神を宿す女性祈祷師にカメラを向け、神秘の世界を追う取材チーム。一方、彼女の若い姪は原因不明の体調不良を訴え、奇行を重ね始める。どうやら女神が憑依し、祈祷師一族の新たな継承者となったらしい。だが、苦しむ姪を霊的に治療するうち、一族にまつわる黒い因縁が徐々に暴かれてゆく。

 韓国土着ホラーの名作『哭声/コクソン』(2016年)のナ・ホンジン監督が、続編として構想した祈祷師の物語を、自然豊かなタイ北東部に舞台を移して映画化。現地の心霊風土をドキュメンタリー調に追う前半が興味深く、一転、激しくなる怪異は固定の監視カメラを用いて検証。クライマックスの壮絶な退魔儀式では手持ちPOV映像を駆使。表現手法にあわせた心霊表現の変化が面白く、信仰に対する疑念のテーマがまた、深い。


 ジメジメと高温多湿な日本の夏をショックとスリル、限界突破の刺激的な恐怖体験で吹き飛ばす! 暑気払いにぴったりな話題作、あなたはどれを観る?

(文・山崎圭司)

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