2002年にモデルとして活動を開始し、キャリア20年を迎えた榮倉奈々が、オムニバス形式のAmazon Originalドラマ『モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~』7編のうちの1編『私が既婚者と寝て学んだこと』に主演。セックスレスでのすれ違いから夫・圭介(柄本佑)と離婚に至り、マッチングアプリで男性とその場限りの関係を結びながら、疑問と本音をぶつけ、自分自身と向き合う女性・加奈に挑んでいる。
【写真】スラリとしたスタイルで変わらぬ美しさの榮倉奈々
■「怒られるかも」の怖さから「責任を置いてくれる」怖さへ 3度目のタッグで廣木監督との関係に変化
2019年にアメリカで制作された『モダンラブ』は、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された、一般読者からの投稿コラムを基にしたオムニバスドラマ。本作では、舞台を東京に移し、各エピソードごとに、一線で活躍する俳優たちと監督が、それぞれの愛を映し出していく。
もともと『モダンラブ』のファンだったという榮倉。日本版への出演オファー、しかも廣木監督がメガホンを取るとあって、「絶対出演したい!」と即座に思ったという。だが、インパクト大のタイトルに、「このタイトルで大丈夫なのかしら」と二の足を踏んだのも正直なところだった。「タイトルだけの印象だと衝撃的な話だと思われがちですし、セックスレスを扱うこと自体、作品としては少ないですよね。日常的に話し合うテーマではないですし。なので少し不安はありました」と漏らす。しかし、「実際には愛にあふれるとても温かな作品なんです」と胸を張る。
廣木監督とは3度目のタッグ。1本目の『余命1ヶ月の花嫁』(2009)は、まだ榮倉が20代に足を踏み入れたばかりの頃だった。“怖い”との評判と同時に、仕事をした役者たちが、大きな影響を受けた監督としてこぞって名前を挙げる廣木監督。榮倉も「最初はとても怖かったです。毎日ドキドキしながら現場に行っていました。『今日は何を怒られるんだろう』って」と笑う。
しかし、仕事を経て、その関係は飲み友達までに。「仕事が早く終わった日には、まず廣木監督に連絡してご飯に行ったり、飲みに行ったりして。今は私も結婚して子どもがいたり、コロナ禍でもあったりして、なかなかご一緒できませんが、本当に仲良くさせていただいています」とにっこり。だが今も現場では“怖さ”を感じる。しかし最初の頃とは質が違うと話す。
「作品に本当に深く向き合っている監督だからこそ、そこに自分が応えられるだろうかという“怖さ”なんです。
「ものすごく母性にあふれた監督で、役者に本気で向き合って、こちらにもちゃんと“責任を置いてくれる”からこそ、プレッシャーも大きくなって怖くなるんです。でも、そもそもそこへの答えに正解も間違いもないんですよね。監督と違った意見のときもあっていい。きちんと自分の意見を言えて、ちゃんと話し合えれば。作品を思うからこそ、“怖さ”は常にありますが、今では臆することなく言えるようになりました」。
■自分が思いやりたいと思える相手と、時を重ねていきたい
話し合いの大切さは、本作にも通じるところ。
コラムを読んで、「拍手!って感じでした」と興奮気味の榮倉。「とても聡明で理論的な女性だと感じました。でもそうした女性が発言すると、“男性的”とか言われたりする。私は自分と向き合っている気持ちのいい女性だと思いました。頭の中を整理しながらも、エモーショナルに動いている、すてきな年の取り方をしてきたチャーミングな女性だなと。とても理解できるし、素直な部分をうらやましく感じます。そして、彼女が言うように話し合いってすごく大切なことだと思うし、そのためにも、まずは自分の気持ちを相手に伝える、“殻を破る”という行為が一番大事だと感じました」と話す。
だが、日本では“察する”という行為も美徳とされてきた。「そうした“察する”というコミュニケーションの取り方で、不自由に思ったことが今までに多くありました」という榮倉。そして今は“殻を破り”“話し合う”のは、自分の大切な「家族」だと明かす。
「夫婦って、いろんな時期がありますよね。ただ若いふたりだったとき、子どもができて子育て真っ最中のとき、そして子どもが巣立ってからの時間。そうした時間の流れを、静かに、穏やかに楽しんでいる夫婦は、とてもかっこいいと思います。理想ですね。話し合いは確かに大事ですが、夫婦の問題って、話し合ってもたぶん多くは答えが出ない。でもその答えが出ないことを、5年、10年と、じっと待てるかどうかが大きいと思うんです。振り返って、『あのときの話は、こういうことだったんだね』と言い合えるふたりかどうか」。
じっと待てるかどうか…。「それには、自分が思いやりたいと思える相手かどうか、ですよね。その思いが続けば、一緒に“時間”を重ねていけるんじゃないかなと思います」と穏やかに話してくれた。
『私が既婚者と寝て学んだこと』には、そうした夫婦ふたりの時間を感じさせるモチーフとして“橋”が登場する。「橋のエピソードは、日本のきれいな水、橋の多さから、日本の良さ、東京の良さを伝えるために廣木監督が入れ込んだそうですが、相手と自分をつなぐアイテムでもあって。私は赤い橋のシーンが、この物語のなかでも一番好きです」とほほ笑む榮倉。「自分の心が穏やかなときに観るのもいいし、寂しいと感じているときに観ると、ちょっと背中を押してくれる作品にもなるかもしれません。どの世代の人がどんなタイミングで観ても、どこかに愛を感じられるドラマになっていると思います」。(取材・文:望月ふみ 写真:高野広美)
Amazon Originalドラマ『モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~』は、Prime Videoにて10月21日より世界同時配信(全7話)。