小栗旬が主演を務める大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合ほか)が、佳境に差し掛かっている。そんな本作について今週も、“本日活躍しそうな〇〇殿”を紹介したい。
【写真】応援したくなる将軍・柿澤勇人演じる源実朝の名シーンを写真で振り返る
物語の終盤、鎌倉のキーマンとなった実朝。脚本家の三谷幸喜は「これまで世間に認知されている実朝像とは違うものを描きたい」と意気込みを語り、実朝演じる柿澤に大いなる期待を寄せていた。柿澤自身も若くして将軍職に就いたことにより、お飾りとして存在したというイメージを翻し「将軍として高い能力を持っていた人物」と解釈して演じていたという。
12歳で征夷大将軍となった実朝は、執権・北条時政(坂東彌十郎)のもと最初のうちはお飾りとしているだけだった。自身もあまり政治には興味がなく和歌を愛する心優しき青年という印象だった。特に幕府の侍所別当の和田義盛(横田栄司)との関係性は実朝のこういった性格をよく表していた。政権争いのために御家人たちが血なまぐさい争いをする世界で、唯一落ち着けるのが和田家にいる時間。そこでの実朝のホッとした表情はとても人間味に溢れていて、ネット上でも「義盛といる実朝さんはとても柔らかい顔をしている」「義盛との会話が本当に楽しそう」と評判だった。
もう1つ、本作の実朝が視聴者の共感を呼んでいるのが、孤独で悩み多きこと。実朝には後鳥羽上皇(尾上松也)の従妹に当たる千世(加藤小夏)という妻がいたが、子はいない。しかも側室をとろうともしない。「女性を愛せない」という素直な思いを告白したときの実朝の切ない表情や申し訳なさそうな視線は、多くの視聴者の涙を誘った。さらに密かに思いを寄せていた北条泰時(坂口健太郎)に贈った恋の和歌に「贈る相手を間違えているのでは」と言われてしまい落胆する表情にも、SNS上では実朝の心情を慮るコメントが溢れていた。
■忠臣との別れ…そして運命が動く、45回「八幡宮の階段」
一方、心より信頼していた和田が、謀反の疑いをかけられ非情な死を遂げると、実朝の心は一転。御家人たちの神輿ではなく、自分の手で安寧の世を作ろうと強く決意する。小栗旬演じる北条義時の意に反し、京都の後鳥羽上皇を頼りにするなど、独自の行動をとり始める実朝。ある意味でここから、実朝の悲劇の結末は始まっていってしまうのだが、渡宋を志し、船の建造を命じるなど“お飾りではない鎌倉殿”として能動的に政治に関わる姿は、応援したくなるような清廉さだった。柿澤の意識した「優秀な将軍」が垣間見えるシーンが随所に見られた。
そんななか、先週放送の第44回「審判の日」では、兄である源頼家(金子大地)が死んだ理由を知り、義時や政子(小池栄子)への憤り、頼家の子・公暁(寛一郎)への申し訳なさなど、さらに実朝の気持ちは揺れていく。公暁と対峙(たいじ)するシーンでは、厳しい環境で育った公暁に対して「お前の気持ちは痛いほど分かる」と涙を流す。
劇中、自分の弱さも見せ、成長も見せた実朝。そんな実朝も、第45回「八幡宮の階段」で、和田の導きで出会った謎の歩き巫女(大竹しのぶ)の予言に吸い込まれるように雪の鶴岡八幡宮の拝賀式に参加する。三谷が伝えたかった実朝像を、見事なまでに体現した柿澤実朝の勇姿を目に焼き付けたい。(文・磯部正和)
大河ドラマ『鎌倉殿の13人』はNHK総合にて毎週20時放送。BSプレミアム、BS4Kにて18時放送。