川口春奈主演、目黒蓮共演で贈る、音のない世界でふたたび出会ったふたりが織り成すラブストーリー『silent』が、15日、最終回前夜となる第10話の放送を終えた。思い合いながらも、前に進もうとしない青羽紬(川口)と佐倉想(目黒)に、周囲は「なぜ付き合わないのか」と疑問をぶつける。

そこには、「変わらない紬と変わってしまった自分」に苦しむ想の姿があった。

【写真】紬(川口春奈)と想(目黒蓮)は別れるしかないのか? 最終回目前『silent』第10話を振り返り

 高校卒業以来、8年ぶりに再会した親友の湊斗(鈴鹿央士)や高校時代の仲間から、「全然変わっていない」と言われ、笑顔を見せていた想。しかし湊斗とふたりきりで話していた際、「耳が聞こえない以外、何も変わってないって言ってくれたけど」と話し始め、「変わったことが大きすぎる」と告白した。真剣なまなざしに、想がまた紬の前から黙って姿を消すのでは?と不安を覚えた湊斗は、「また青羽になにも伝えないで勝手にいなくなるとかは、絶対許さないから」と伝える。想を大事に思うと同時に、「もう部外者だから」と言いつつ、湊斗はいまも紬のことを好きなのだと、捨てられずにいる(紬が好きな)パンダのぬいぐるみが物語っていた。

 親友の言葉に、想は、紬に自分の気持ちを伝えなければならないと決心する。かつてLINEで別れを告げたとき「電話もできなくなるし、一緒に音楽も聴けなくなる。そう分かってて一緒にいるなんて」できなかったと伝える想。そして今、会えば会うほど、昔以上に、紬を好きになっていく。かつて想像したつらさを超えた、孤独、寂しさ、苦しさに襲われる。過去が輝いているから、今はもっと好きだから、そして未来を思うからこそ、もう近づきたくない。「青羽の声、思い出せない」と涙を溢れさせる想の気持ちが痛いほど分かるから、紬も涙を流すしかない。


 ふたりは別れるしかないのだろうか。

 本作では想と紬のカップルと並行して、奈々(夏帆)と春尾(風間俊介)のストーリーが描かれてきた。春尾と再会の時間を楽しむ奈々が「なんで手話、仕事にしたの?」と尋ねる。ろう者とコミュニケーションを重ねることで、自分でも分かり合えるかもしれないと思ったという春尾。でも言葉の意味を理解することと、相手の思いが分かることは違ったと悟る。そして「桃野さんみたいな人は桃野さんしかいなかった」と明かす。さらに「結局は、伝えたいとか、受け取りたいとか、そういう気持ちがあるか」と語った春尾。大事なのは「桃野さんみたいな人は桃野さんしかいなかった」という、春尾がたどり着いた事実だ。

■紬と想、ふたりにとっての「変わらぬ人」

 本作には、主人公たちの行く道を阻む障害として、いかにもドラマを盛り上げるために作られた感のある壁、事件などは登場しない。あくまでも、それぞれの内側から生まれた、揺れる “気持ち”をすくうことで、それが時に距離や摩擦、通じ合う瞬間を生む。このところの考察ブームに乗るように、本作でも放送のたびに「伏線回収」といった言葉が並んだが、あるのは伏線回収ではなく、あくまでも登場人物たちの気持ちを丁寧に紡ぎ、重ねてきた結果としての描写なのだ。だから響く。


 想が吐き出した「紬の(笑い)声が聞きたい」「もう聞けないなら、また好きになんてならなきゃよかった」という言葉は、まぎれもなくつらいけれど、でも閉じ込めてきた本当の気持ちをやっとさらけ出せたとも言える。想は、紬は「変わってない」と言う。そして「青羽があの頃のままだってわかるほど、自分が変わったことを思い知る」と。しかし想には変わってないと映る紬だって、そんなはずはない。職場でのつらい日々や、湊斗との穏やかな時間など、想が知らない紬がいる。紬も、たくさんのことを経験してきたうえで、笑っているのだ。一方の紬も、高校時代はただ素直に笑っていればよかったのに、その自分の笑顔が、好きな人を傷つけてしまうこともあるのだと知った。

 クリスマスイブ目前となる22日に、彼らの物語は最終回を迎える。本作のタイトルは「音のない世界で生きている人物が聖なる静寂の夜に向かう物語」をイメージしているそうだが、生きている限り、そこに到達することはない。傷つきながら、傷つけ合いながら、近づいては離れてを繰り返す。それでも諦めたら終わりだ。「変わった」かもしれない。
でも想にとっては紬が、紬には想が、ほかの誰でもない、君しかいない、たったひとりの「変わらぬ」人なのだから。そして「言葉」が、なんとかしてつなごうとする光となる。ラスト、ここに生きる登場人物たちは、どんな思いを、どんな言葉でつむぐのだろう。(文:望月ふみ)

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