現代に生きる日本人の習慣・入浴という行為の精神と様式を突き詰めた「道」の映画『湯道』。湯気のように揺れ動く人間模様をスクリーンに描き出した本作の主演を務めるのは生田斗真。

生田演じる三浦史朗の弟・悟朗を、濱田岳が演じる。本作の魅力や撮影現場のエピソードを、兄弟役で出演した生田と濱田に語ってもらった。

【写真】“憎めない兄”を演じた生田斗真&“自分が弟でいいの!?”と思った濱田岳

■「ただのお風呂の映画じゃないに決まってる」 脚本・小山薫堂への絶対的信頼

 出演の決め手を尋ねると、生田と濱田はそろって、「湯道」の提唱者であり、本作の企画・脚本を手掛けた小山薫堂の名前を挙げる。

 生田は「まずは、小山薫堂さんが提唱する湯道、いわゆる日本人が当たり前に日常に取り入れてるものに特化した作品だということにすごく惹かれました。小さい頃に祖父に銭湯に連れてってもらった記憶が『あの風景、あの瞬間ってすごく楽しかったよな』と呼び起こされるんです。海外では撮ることの出来ない映画だろうなと思いますし、日本の独創性みたいなものを感じました」。


 濱田は「僕はWOWOWの『W座からの招待状』という番組で、もう10年以上薫堂さんが映画について書いた詩をナレーションさせてもらっているので、『湯道』のお話を受けて『薫堂さん、またとんでもないことを考えてるな』と思いました。『お風呂の映画』という情報だけだと、もしかしたら『その映画、大丈夫?』ってなるかもしれませんが(笑)、薫堂さんが考えているということは、ただのお風呂の映画じゃないに決まってるんです。そのプロジェクトに乗れることがうれしかったですね」とそれぞれの思いを口にする。

 生田演じる史朗は、亡き父が遺した実家の銭湯「まるきん温泉」に突然戻ってきたかと思えば、古びた銭湯をマンションに建て替えようとしている。そんな史朗を生田は「お風呂を継ぐのが嫌で、東京に逃げるように出ていって、うまくいかなくて戻ってきて。地元の人たちは『馬鹿息子が戻ってきた』と言うんだけど、それでもなんか憎めない感じ」と語る。


 「そういう生意気なんだけど許せちゃうような、愛らしさみたいなものが出るといいなと考えながら演じました」と撮影を振り返り、「自分で役を作り込むというよりも、岳くんとの呼吸とか、他の皆さんと掛け合いの中で生まれていくものを大事にしていきたいと、共演者の皆さんに委ねていた部分も多い気がします」と明かした。

■「岳くんは手のかかる弟って感じ」(生田) 「斗真さんには甘えてもいい」(濱田)

 濱田との共演は、2015年公開の映画『予告犯』以来。生田は「20代の頃から、濱田岳という存在にはいつも驚かされてばかりで、『いい俳優だな』と思っていました。『予告犯』での共演後、お互いに年を重ねてまた現場でご一緒できるのはすごくうれしかったです」と笑顔を見せる。

 また、濱田の魅力を「クソガキが大人になった感じで、すごい羨ましいんですよ(笑)」と表現。「自分はなかなか岳くんのようにはできない。
やっぱり、愛される人なんですよ。自由なので、手のかかる弟って感じ。手がかかる子ほどかわいいって言うじゃないですか。そういうかわいさがある人ですね」と笑う。

 その濱田も、「『予告犯』も決して楽な作品ではなかったんですが、そんな中でも斗真さんはずっと崩れないんです。そんな頼りになる人と、また映画ができるのは本当にうれしいことです」と生田との共演を喜んだ。


 さらに「『予告犯』から考えたら長いお付き合いなので『斗真さんには甘えてもいい』と思っています。『予告犯』の頃から僕は好き放題できました(笑)」と信頼を寄せる一方で、「『自分が生田斗真の弟でいいのか』っていう(笑)。書いてあるから弟然としてやりましたけど、腹違いなのか、とか、遺伝子が違うんじゃないか、とか、『ストーリーを邪推されても知らないよ』とは思っていました(笑)」と茶目っ気たっぷりに語った。

■個性豊かな共演者に埋もれない生田斗真の存在感

 本作は生田、濱田、橋本環奈のほか、寺島進や吉田鋼太郎、夏木マリ、柄本明らベテラン俳優から初の映画出演となる天童よしみ、クリス・ハートまで、豪華共演者が名を連ねる。

 そんな中で座長を務める生田について、濱田は「あれだけ濃い先輩方がいても、斗真さんがどこにいるか、すぐわかるんですよ。あの中で埋もれない存在感は、これほど頼もしいことはないです」としみじみ。


 そうそうたる顔ぶれの中で、生田が特に印象的だったのは天童との共演だという。「まさかご一緒するとは思っていなかったので、『よしみちゃんだ!』と思いましたよ。クリス(・ハート)さんと一緒に歌うシーンは、お風呂の響き方も相まって、凄すぎて。現場は逆に変な空気になっていました(笑)」と思い返していた。

 最後に生田は、本作から得た気づきを教えてくれた。

 「見落としてしまいがちな、日常に落ちている小さな幸せみたいなものをきちんと拾って、ハッピーな気持ちになれる人間でありたいなと改めて思いました。
お風呂って、毎日当たり前に入るけど、すごく良い時間なんですよ。1人の時間だから、考えたり、反省したりできるし。そういう生活における小さな幸せを大事にしたいですね」。(取材・文・写真:山田健史)

 映画『湯道』は公開中。