今期、もっとも話題を集めたドラマのひとつ『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系)が最終回を迎える。当初、“うまい”タイトルだからこその、好奇の目を向けられることもあった本作だが、悩みもがく登場人物たちの心に丁寧に寄り添い続け、支持を獲得してきた。
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◆反感を買う危険性のあるみちを、ヒロインとして成立させた奈緒の巧さ
主人公のみちを演じたのは奈緒。フタバ建設営業推進部で働くOLで、夫の陽一(永山瑛太)とは結婚5年目にして、レス歴2年。仲はいいのだが陽一はみちに触れようともしない。みちは子どもを望んでいることもあり、陽一との溝が大きくなっていく。仕事場でも自宅でも、不器用な行動が目立つみちだが、性格はとてもまっすぐ。陽一のことも、自分から好きになり、陽一が店長をするカフェに足しげく通って射止めた、純粋さの奥に熱を秘めたタイプだ。
後輩の北原華(武田玲奈)がつい応援してしまうのも、まっすぐなみちだからにほかならない。昇進試験の声がかかったみちを、部の女性陣みなが応援していたというのも事実だろう。本作は夫婦や恋愛の話が軸だが、こうした部分に感じるリアリティも、奈緒が、みちという人物を細やかなに積み上げてきたからだ。何より、レス「戦友」から始まった誠(岩田剛典)、そして夫・陽一への思いの変化の表現。
◆永山瑛太の演じる陽一は、目の前で語られることのその奥までを想像させる
みちの夫、陽一を演じたのは永山瑛太。みちの悩みとなった、レスをする側として登場した。「ヒドイ!」「でもわかる」と、SNSでも特にその言動に大きな反応があった役柄だ。ずっと悩み続け、やっと理解できる相手と出会えたことで、いけないと分かりつつも惹かれ合ってしまったみちと誠との関係と、陽一の行動の対比で、「心の浮気」と「身体の浮気」問題がクローズアップされたり、物議を醸す「子ども作って“も”いいよ」発言など、さまざまな話題を提供してくれた。
それも永山の演技の引き出したものが大きかったからであり、みちに浮気を告白した際の鼻水を垂らしての大熱演など、永山の演技には、目の離せない強力な引力があることは間違いない。また、本編では描かれなかった陽一の育ってきた環境など、永山の演技には、目の前で語られることのその奥まで想像させる力がある。永山が演じたことで、陽一はとても深みのあるキャラクターになったと言っていいだろう。
◆岩田剛典でなければ成立しえない魅力を放った誠 彼の持つ上品さが役と融合
みちと惹かれ合う誠を演じた岩田剛典もまた、彼でなければ成立しえない魅力を放っている。みちの上司で、優秀で人当たりがよく、見た目もいい、社内でもファンが多い人気者。しかもファッション誌の副編集長を妻(田中みな実)に持ち、自らの手作り弁当を持参する愛妻家の完璧男だ。
幼い頃、最後の1ピースが無くなり完成させられなくなったパズルを前に大泣きし、新たなパズルを買ってもらったというエピソードに見られる完璧主義も、納得できるものとして入ってきた。また、第10話のラスト、みちに告白を断られ、水族館でひとり泣き崩れる姿は、初めて、“素直に”感情を表に出した誠を見た気がした。そのとき、とても切なく、駆け寄りたい気持ちになったのは、岩田の持つ魅力ゆえだろう。
◆田中みな実の楓は、バリキャリの前半はもちろん、後半の変化こそに拍手を
そんな誠の妻、楓を演じたのは田中みな実。ファッション誌副編集長というバリキャリの役柄が似合っていただけでなく、演技そのものが光っていた。前半、誠の配慮にも余裕がなくて気付かずに、かなり冷たい態度になってしまっていた楓。仕事のトラブルで疲れていた結婚記念日の夜、「遊んでるわけじゃないんだよ!」とキスさえ断ってしまうシーンについても、キャパ超え状態だったからだが、そうした状態が続いたせいで、誠の心は離れてしまった。そしてこの、誠の心が離れて以降の楓が素晴らしかった。
誠の変化に気づき、不審に思い、猜疑心に苛まれ、みちを呼び出して対峙(怖かった…)。さらに陽一のカフェにまで赴くが、最後は誰かのせいではなく自分の状況を受け入れ、MEGUMI編集長、もとい圭子編集長の前で涙を流す。
◆武田玲奈が後輩・北原華を好演 金言をサラリと吐く姿も様に
みちの会社の後輩、北原華も忘れてはならない存在だ。演じたのは武田玲奈。前半こそ、誠のことを「ニーニャ様♪」と呼び、隙あらば「わたしが落としに行きます!」と獲物を狙う目をしていたが、みちと誠が“本気で”好き合っていると知るや、応援に回った。仕事は決してできるように見えないのだが、最初から、みちの私生活のあれこれを目ざとくかぎつける嗅覚の鋭さを随所に発揮していた。
さらに、「先輩がこれから進む道はいばらの道です」「先輩ひとりだけが被害者なんですかね」と幾度も金言を繰り出し、みちに影響を与えてきた。華だけが、明るく、爽やかな色と風をまといながら、同時に、しっかりこの作品に溶け込んでいる。後輩ながらみちをサポートし、人生訓を吐く姿が様になる(何気にスタイルも素晴らしい)。この難しい芸当を、武田がサラリとやってのけ、非常に印象に残るキャラクターにしてみせた。
◆MEGUMI演じる編集長は、短い出演シーンでも納得の存在感
楓が心血を注ぐファッション誌「GINGER」の編集長として君臨している女性・川上圭子を演じているMEGUMIもまた、強い印象を残した。
圭子はチラッチラッとしか登場しないのだが、それでも仕事ができ、また人が付いていきたくなる大きな人物なのだろうと納得できる空気を、MEGUMIはしっかりと醸し出した。楓はスタッフの心身の変化に気付けるか分からないが、圭子は楓の変化に気付いた。あの低めの穏やかな声で、「楓はさ、きれいな顔して昔から泥臭いところあるから、何でも頑張って、頑張りすぎて」なんて声を掛けてもらったら泣くのも当然。会社を辞めて独立後もついていくスタッフがいるかもしれないと、勝手に想像してしまう。出ている時間は少ないのに、あれだけの存在感を与えたのはやはりMEGUMIだからだ。
◆毎回、タイトルの意味も考えさせられる作品だった
ついに、最終回を迎える本作。ハルノ晴による原作も厚い支持を集めているが、ドラマはドラマで、実際に彼らが、悩み、生活しているかのような錯覚すらしてしまう、人が演じることの意味を感じさせる、リアリティを伴った作品となった。2組の夫婦の話であったと同時に、4人ひとりひとりの物語であった本作。登場人物に、自分を誰かを、重ねて見ていた人も多いだろう。また、毎回、浮かび上がる「あなたが」と「してくれなくても」の間にあえて置かれたような“スペース”を含めたタイトルの意味。その意味を考えさせられることになった、時間そのものにも意味があったように思う。
木曜劇場『あなたがしてくれなくても』最終回は、フジテレビ系にて今夜22日22時放送。