世界中で異例の大ヒットとなり、日本でも熱狂を巻き起こしているインド映画、『RRR』。「バーフバリ」シリーズ等で知られるS・S・ラージャマウリ監督の最新作だ。
劇中歌「ナートゥ・ナートゥ」がアカデミー賞歌曲賞を受賞したことでも話題となったが、本作の勢いはまだまだ止まらない。先日21日には配信サイトで購入が開始、7月5日からはレンタルもスタート。そして7月28日には「待ってました」という人も多いであろう日本語吹替版の全国上映も決定した。今こそもう一度『RRR』を観よう! と思っている人のために、今回は主人公の1人であるラーマに焦点を当て、その“不屈っぷり”を深掘り。最後まで読んで、そして配信・劇場でアツすぎるシーンの数々を再確認してほしい。
【写真】“ドスティ”ラーマ&ビームの友情シーン切り取った『RRR』場面写真
■『RRR』の“STORRRY”をおさらい
『RRR』は、1920年代のイギリス統治下のインドを舞台にした映画。イギリスの搾取に耐え兼ねて各地で暴動が起きるなど、インド国内の反英感情がどんどんと高まっていた時代だ。主人公は2人、どちらも実在の革命家をもとにしており、「もし、この革命家2人が出会っていたら…」というifの物語を描いている。
主人公の1人・ビームは、先住民・ゴンド族を率いて反乱を起こした“コムラム・ビーム”がモデル。演じるのは南インドのスター、N・T・ラーマ・ラオ・Jr.(通称N.T.R Jr.)だ。イギリス総督に連れ去られた村の少女・マッリを救うために街へとやってくる。
もう1人は、インド人でありながらイギリスの支配下にある警察で勤務しているラーマ。
モデルは革命家の“アッルーリ・シータラーマ・ラージュ”だ。こちらもスター俳優のラーム・チャランが演じる。ラーマは父に与えられたとある使命を胸に、警察に潜伏している。そんなビームとラーマは、お互いの真の目的を隠しながら友情を育んでいく。
“歴史的背景”に加えて、インドではおなじみの神々や叙事詩の要素、想像もつかないアクション、そして胸がたぎる激しいダンスなど、とにかく「ワクワクするもの全部入れました!」という、創造神S・S・ラージャマウリ監督にしかできない“全部乗せ”映画、それが『RRR』なのだ。
今回は、主人公の1人・ラーマが3時間の上映時間中あまりにも何度も死にかけては復活することに着目。文字通り“不屈の男”であるラーマの絶体絶命シーンを5つ紹介する。
■登場から絶体絶命! ラーマvs数万の暴徒
ある使命を胸に宿しながらも、“イギリスの犬”と呼ばれる警察官として働くラーマ。初登場シーンでは、イギリスへの不満をみなぎらせた暴徒たちから警察施設を警備するという職務に当たっている。
暴徒たちのあまりの怒りと咆哮に思わず同僚たちが尻込みする中、1人微動だにせず警備を続けるラーマ。施設に石を投げこんだ男を「連れて来い!」と上官が叫ぶと、ラーマはためらうことなく数万の暴徒の中に身を投げる。
とはいえ、ラーマは別に特殊なパワーや技があるわけではない。
ただただ警棒で1人ずつ殴り倒していくのだ。当然しばらく進むうちに暴徒たちに抑え込まれ、しまいには大きな石で頭を殴られ、意識が遠のく。ここまで、ラーマ登場から数分。さっそく死にかけている。
しかしここからのアクションがすさまじい。自身を奮い立たせると、石を投げた男をロックオン。幾多の暴徒たちを蹴落とし、殴りまくって道を拓く姿は重戦車のようだ。そしてターゲットを上官の前にぶん投げ、自身はバケツの水で流れる血を洗い、当然のように持ち場に戻る。この1シーンで、ラーマという男の“ヤバさ”が分かるのだ。
■あと1時間で死ぬ!? ラーマvs毒蛇
続いての“絶体絶命”ポイントは、ラーマが探していた「イギリス総督を脅かす一味」の1人をとらえ、拷問するシーン。ちなみにこの一味のリーダーこそ、『RRR』もう1人の主人公・ビームである。
登場シーン同様、一度狙ったら必ず捕まえる男、ラーマ。
ここで拷問する男・ラッチュもやっとの思いで捕まえたのだが、ラーマは不運に見舞われてしまう。拷問して情報を吐かせようとするラーマに、ラッチュが突如毒蛇を投げつけるのだ。この毒蛇・マルオアマガサはインドでは四大毒蛇といわれるヘビで、ラッチュによると1時間で死に至るほどの毒性があるという。
せっかく情報の糸口をつかんだラーマだったが、急に寿命があと1時間になってしまった。ふらつきながらラッチュを開放し、向かったところは親友ビームの元。そして森育ちのビームが薬草を使い即席で作った解毒薬のおかげで一命をとりとめる。
■親友の武器が胸に ラーマvsビーム
毒蛇事件の後、一命をとりとめたラーマにビームは自身の正体を明かす。親友・ビームこそが、探し求めた男だったと知るラーマ、友情と使命の間で葛藤しながら壁やサンドバッグを殴りまくる。ちなみにこの時毒蛇に嚙まれて1時間経ったか経たないかくらいだと思われる。薬草はすごい。
そして、己の使命のためにビームを捕らえることを決め、4頭立ての燃える馬車に乗ってビームの元へ現れるラーマ。一方で猛獣たちと共にイギリス総督邸をめちゃくちゃにしつつマッリを探すビーム。
ここにはもう完全にインドの2大叙事詩「ラーマーヤナ」「マハーバーラタ」のモチーフだと思われる点が山積みだ。お互いの正体を知ったラーマとビームは、悲しみの中激しくぶつかることに。両者ともに神話の世界から飛び出してきたような2人の戦いっぷりは『RRR』前半のハイライトといえるほど激しい。
猛獣やイギリス兵たちも入り混じった戦いの中、お互い血を流しながら死闘を繰り広げるラーマとビーム。ビームを追い詰めたラーマはとどめを刺そうと振りかぶるものの、その手を振り下ろせない。そして形勢が逆転すると、ビームは手にした武器をラーマの胸に突き刺すのだった。
ここまで読んでいただいて想像がつくかもしれないが、ラーマは胸を刺されたぐらいで死ぬ男ではない。このあとビームを逮捕し、警察内での地位を手に入れる。
■父との別れ…ラーマ一家vsイギリス軍
ラーマとビームの激しい戦いのあと、物語はラーマの“過去編”に突入。なぜラーマが警官としてそこまでイギリスのために奮闘するのか、その訳が明かされていく。
ラーマの父・ヴェンカタは以前イギリス軍に属しており、インド人へのひどい迫害を間近で見てきた。そんな父は軍を脱走、村の少年たちを兵士に育て、いつかインド独立のため立ち上がろうと闘志を燃やしていたのだ。
そんなある日、村が武装していることを嗅ぎつけたイギリス兵たちが攻め入ってくる。次々と村人たちが銃弾に倒れる中、射撃の腕が優れていた幼いラーマは父の指示の元、たった一丁の銃でイギリス兵たちを倒していく。しかし、母も弟も殺されてしまい、最後には父も志半ばで散ることに。
父の最期の反撃によりラーマは逃げおおせるものの、その胸には「イギリスを必ず倒す」「そのために武器を村に持ち帰る」という思いが刻み込まれた。息子を兵士に育て、自分の意思を必ず継ぐよう教え込んだ父。その、いわば“呪い”ともいえる言葉を抱え続け、ラーマはいくつもの修羅場を越えていく“不屈の男”に成長していくのだ。
■“使命”よりも“友情”選んだ命懸けの作戦 ラーマvsイギリス警察
警官ラーマのすさまじい仕事ぶりは、警察内部に入り込み武器を奪って村に持ち帰る、という使命のためであることが明かされた。このためにラーマは親友ビームを逮捕し、武器庫に出入りできる地位も手に入れた。使命を果たす目前までついにやってきたのだ。
しかし、ラーマの心は晴れない。鞭で打たれても決して屈せず気高く誇り高いかつての親友ビームを見て、自分はこれでいいのかと自問する。そして出した答えは、「使命を捨てて親友を助ける」という道だった。
ラーマは捕まったビームを逃がすため、同僚の警察たちを欺き自らも猛攻で追っ手を足止め。その間に、背中に太めの木の枝が突き刺さっても、屈強な警官たちに押しつぶされてもその大立ち回りは止まらない。丘の向こうへ逃げていくビームとマッリを見届け、どことなく満足気な表情でやっと力尽きるのだった。
この後、イギリスを裏切ったラーマは投獄。獄中でも闘志の炎を絶やさず自らを鍛え続ける。そしてここからは“最強の肩車”こと、ビームが足を負傷したラーマを背負い2人でイギリス軍をなぎ倒す爽快シーンや、ラーマがサフラン色の布をまとい弓で無双する“神モード”への突入、イギリス総督を倒して大量の武器ゲット、と、ここまでの辛い展開を200%取り返す激熱展開が待っている。
■『RRR』は“見るエナジードリンク”
『RRR』の物語はラーマが村に武器を持ち帰るところで終了するが、ラーマの革命への道は始まったばかり。きっとこの後も辛いことや厳しい局面にさらされることになるのだろう(モデルとなった革命家のシータラーマ・ラージュは若くしてイギリス軍により銃殺刑に処されている)。
しかし“不屈の男”ラーマなら、どんなに絶体絶命な状況に陥っても何度でも立ち上がるだろうということが、『RRR』の3時間で私たち視聴者には分かっている。だからこそ私たちは何度でも『RRR』を見ては、心に勇気と希望をみなぎらせることができるのだ。(文・小島萌寧)
映画『RRR』日本語吹替版は、7月28日より全国公開。
編集部おすすめ