ベストセラー作家、池井戸潤の小説を原作とし、中村倫也が主演を務めるミステリードラマ『ハヤブサ消防団』(テレビ朝日系/毎週木曜21時)が、高評価を獲得中だ。美しい山間のロケ撮影も成功している重厚なミステリーながら、パッと目に飛び込むカタカナに始まるタイトルからして、子ども時代に読んだ“何々探偵団”といった児童文学のワクワク感も、どこか思い起こさせる。

そして、そうした世界観の盛り上げに買っているのが、消防団を構成するおじさんメンバーだ。生瀬勝久、橋本じゅん、梶原善、(おじさんではないが)満島真之介、岡部たかしと、実に怪しく、魅力的な俳優たちがそろった。

【写真】怪しさとかわいさが共存! 消防団メンバーのオフショット

■巻き込まれ系主人公に見えて、それだけに留まらない男・三馬太郎役に中村倫也

 主人公は、スランプ気味のミステリー作家・三馬太郎。彼が、亡き父の故郷である山間の“ハヤブサ地区”に移住してきたことから、物語は幕をあける。一見のどかに映った村で連続放火騒動に巻き込まれた太郎は、幼い頃の自分が掲げた“ハヤブサは自分が守る”との思いを胸に、消防団に加わる。そして放火騒動に加え、住民の不審死といった怪事件を前に、真相を探り始めるのだった。

 この太郎を、実力派・中村倫也が演じている。太郎は、いわゆる巻き込まれ系主人公に見えるが、それだけに留まらない不思議な魅力を併せ持つ。土地も登場人物たちも豊かななかにあって、強い主張をすることなくきっちり主役として立っているのはさすがだ。

■劇団出身者がズラリ! “団”でありつつ見事に“個”を両立させる面々

 中村が中心にいてこそだが、本作が本筋のミステリーとはまた別の意味合いでも見続けてしまうのは、“ハヤブサ消防団”のキャストの魅力も大きい。初回の消火活動シーンの緊迫感と、飲み屋などでの緩急に、まさにその実力が出た。全員、どんな役柄でもこなす達者な役者陣だ。


<生瀬勝久>

 まずはハヤブサ消防団・部長、林業を営む山原賢作を演じる生瀬勝久。生瀬といえば、劇団「そとばこまち」の4代目座長を務め、その後も演劇畑で力を発揮しつつ、映像へと進出。『TRICK』シリーズ(テレビ朝日系)、『ごくせん』シリーズ(日本テレビ系)、『リーガル・ハイ』シリーズ(フジテレビ系)など、コメディ系を中心に、多くの人気作に出演。どんなキャラクターも濃くなりすぎる一歩手前に留めるバツグンのバランス感覚で、愛されるキャラクターへと昇華させてきた。

 本作では白髪交じりのヒゲをたくわえ、“シブおじ”な雰囲気たっぷりの登場。画面のもっとも後ろに立っていても、バッチリ存在感を放ちまくっている様に改めて唸らされる。後述の橋本じゅん演じる郁夫との掛け合いの巧さは、毎話のご褒美になりそう。

<橋本じゅん>

 養鶏場を営む分団長・宮原郁夫には、橋本じゅん。橋本は途中休団期間を挟みながら、大学時代より現在も所属する、劇団☆新感線の看板役者だ。同劇団らしいコメディとアクションを得意とし、特に変態キャラのヒーロー剣轟天(つるぎ ごうてん)は、今も愛される当たり役となった。映画『図書館戦争』シリーズの頃より映像界でも知名度を上げ、ドラマ『MIU404』(TBS系)、映画『キングダム』などで人気に。

 本作では生瀬演じる賢作と同級生で、長年にわたる犬猿の仲とのことだったが、第2話にて生瀬と共にアラ還のふたりがボンタン姿で高校時代のケンカシーンを演じて見せた。
今後もまた青春感あふれる回想シーンは登場するのか?

大河ドラマで凄腕アサシン演じた俳優も“消防団”に

<梶原善>

 そんな賢作と郁夫の間に入って仲裁する役回りなのが、副分団長で役場の土木課勤務の森野洋輔。ふんするのは梶原善である。三谷幸喜主宰の東京サンシャインボーイズの公演で初舞台。劇団休止以降も、三谷作品の常連としてキャリアを重ねた。映像界への進出においても、『王様のレストラン』(フジテレビ系)、映画『12人の優しい日本人』『ラヂオの時間』と、やはり三谷作品の印象が強いが、三谷作品イコール梶原善というより、素直に巧い役者として梶原善が浮かび、結果的に、その出演作の多くに三谷作品が並ぶといった感じだ。

 近年では、そんな三谷が脚本を務めた大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合ほか)のアサシン・善児役で強烈なインパクトを与えた。『鎌倉殿』での善児の最初の“仕事”が子どもをでき死させることだったこともあって、本作初回放送ラストでは、「梶原善と水はダメだろ」とSNSの盛り上げに一役買った。

<満島真之介>

 ハヤブサ消防団には、ぶつかり合うおじさん相手に飄々と溶け込む若手も。団員で工務店勤務の藤本勘介は、満島真之介が演じる。2010年に舞台『おそるべき親たち』で俳優デビュー。12年前期のNHK連続テレビ小説『梅ちゃん先生』への出演で人気を博す。その後もNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』『青天を衝け』、ドラマ『ナンバMG5』(フジテレビ系)、映画『キングダム』シリーズなど多くの作品に出演し、印象を残しているが、映像デビューからまだ10年少しとは意外。
本作でも、太郎を前にもおじさんメンバーの中にあっても埋もれることなく、陽気かつ不思議クンな雰囲気を放っている。

<岡部たかし>

 血の気の多いハヤブサ消防団にあって少々異なるタイプの、班長であり動画配信もする呉服店の二代目店主・徳田省吾を演じるのは岡部たかし。劇団東京乾電池に所属していた経歴を持つ。CMディレクターとして知られる山内ケンジの脚本・演出による演劇プロデュース・ユニット「城山羊の会」などのプロデュース公演に多数出演。映像作品でも、数々の作品で脇を固めてきたが、ここ数年グンと知名度を上げ、人気を得ている。

 特に『エルピス-希望、あるいは災い-』(カンテレ・フジテレビ系)で演じたプロデュサーの村井は、パワハラ上司という入りから強く支持される登場人物へと成長したが、それは岡部が、村井に息を吹き込んだからだった。本作でも持ち前のボサ髪をよりボサボサに、ヌルっと皆の隙間を満たすような省吾を演じる。

■チェックすべき点が盛りだくさんの『ハヤブサ消防団』

 冒頭に触れた通り、本作は池井戸潤の原作ものだが、それはあくまでもベースであり、この先何が起こるか分からない。素晴らしいロケーションも見事に生かされ、物語の展開も俳優たちの演技も、これから何を見せてくれるのかますます楽しみでならない。そして村の人々。全員もれなく怪しく見えるが、それは“ハヤブサ消防団”のメンバーもしかり。見れば見るほどに、愛すべき消防団に見えてくる彼ら。
しかし、彼らがただのいいおじさんで終わるだろうか? 存分に好きにさせてから、私たちのハートを奈落の底に突き落とす可能性は十分にある。

 そして、巻き起こっている放火の理由。その狙いは? 太郎が受け取ったシャクナゲの警告の意味は? そもそも犯人がひとりだとは到底思えない。村に巣食う闇に太郎と立ち向かうとともに、消防団メンバーの魅力にはまり、またイチイチ怪しい村の人々をチェックして……と、これは忙しい木曜夜になりそうだ。(文・望月ふみ)

 木曜ドラマ『ハヤブサ消防団』は、テレビ朝日系にて毎週木曜21時放送。

編集部おすすめ