『Dr.スランプ』や『DRAGON BALL(ドラゴンボール)』などを世に送り出した漫画家・鳥山明の作品の中でも「伝説の名作」と謳われる『SAND LAND』が劇場アニメとなって全国公開中。本作は、魔物と人間が共存する、水を失った魔訶不思議な砂漠の世界を舞台に、悪魔の王子・ベルゼブブが、お目付け役のシーフ、人間の保安官・ラオと奇妙なトリオを組んで砂漠のどこかにある「幻の泉」を探す旅に出る物語だ。
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■ワルい王子だけど、人間をやっつけるときは“パー”
――世界的に人気な鳥山先生が原作の本作ですが、出演が決まったときはどんなお気持ちでしたか?
田村:もちろん嬉しかったです。でも、実は未公開のパイロット版映像の収録から本収録まで2年くらい時間が空いていまして…。その映像は鳥山先生に見ていただくためのものだったので、もしかしたら本収録では別の方が演じることになったのかもと思っていたんです(笑)。なので、改めて映画の台本をいただいたときは「私でいいんだ!」って、喜びも2倍、3倍になりました。
山路:俺もすっかり同じ気持ちでした。あの映像がある種の最終オーディションみたいな感じがしていたので、別の人になったんだろうなって。俺は悪人の役ばかりやってきたから、「やっぱり、ちょっとワルに見えちゃったか」と思いました(笑)。
チョー:僕もおふたりと全く同じ気持ちでした。実際に映画の収録がスタートした際は、鳥山先生の作品に参加するのが初めてだったので、「やったー!」と思いましたね。
――続けて、シナリオを読んだときの感想を教えてください。
山路:砂ばかりの世界が舞台という作品は近年ハリウッドなどでもありましたが、その発想を2000年の当時に漫画で描いていたのはすげえなと。
田村:砂や岩ばかりの風景なのに、見ていて飽きないんですよね。バトルシーンでも、ちゃんと地形を活かして戦車で戦うなどの工夫もあってすごいなと思います。
チョー:登場するメカが結構アナログっぽいじゃないですか。そこも、心をくすぐるんですよ。
山路:わかる。車から煙が出るところとかすごく好き。
チョー:いいですよね、あれ。戦車は排気ガスが出てから動き出す。何かが匂ってきそうな描写が素敵です。
田村:私は小さい頃に『ドラゴンボール』を見て育ったので、鳥山先生の作品ってこういう感じだよね!とテンションが上がりました。冒険とワクワク感、それに加えて、悪い奴を倒すぞという気概を感じたんです。
山路:でも、ベルゼブブはワルい王子ですけどね。
田村:そうですね(笑)。でもワルい王子なのですが、殺しみたいな本当に酷いことはしないんです。いたずらレベルのワルというか。
チョー:そういえば、グーでやっつけないよね。人間は基本的にパーでやっつけてる。
山路:そうだった!
田村:それがいいですよね。優しさを感じるというか。やっぱり大してワルいことはやっていないんです。歯も磨かずに寝てやったとか、自分が損をするタイプのワルさしかしてない(笑)。
山路:「ネタかよ!」って思うくらいのワルだよね。
田村:ですね。彼のお父さん・サタンも魔物たちを束ねる大魔王なのに「帰ってきたらゲームは1日1時間」としっかりしていて、面白いなと思いました。
■もしかしたら「悪魔」と名付けたのは人間なのかも?
――作品を見ていると、人間たちがやっていることのほうがよっぽど悪なんじゃないかと思わされます。
チョー:そうですよ。もしかしたら「悪魔」と名付けたのは人間なのかもしれないです。
山路:深いね。
チョー:きっとそうだと思うんですよね。人間がそういう風に作ったというか。
田村:悪魔って言われていますけど、作中での彼らを見ていると純粋に楽しいことを求めているだけですもんね。
チョー:同じ魔物だけど、ちょっと姿形が違うってだけなんですよ、きっと。
田村:作中では色々な種族の魔物もいますが、ちゃんと共存できていますよね。
チョー:そう。
山路:魔物たちを見て、ラオがひとりでずっとほくそ笑んでるじゃん。俺、あれがすごく好きなシーンなんだよね。ラオはきっと「こいつらが一番まっすぐだ」と思っているんだろうな。
田村:ラオもすごく純粋な人間ですよ。
山路:そうだよね。俺が今まで演じてきたキャラのなかでもラオはいちばん真っすぐな人。いつも邪な人ばかりを演じてきたから(笑)。
田村:でも、ハマっていらっしゃいましたよ!
山路:ハマっていたかどうか自分では分からないけれど(笑)。でも、最初こそ見ているのが恥ずかしかったけれど、ずっと見ていると面白くなっちゃう。こいつ、いい奴じゃんって。
チョー:でも、彼は過去に色々とあって、27歳で将軍になって戦死したと思われていたわけでしょ? そんな若いときから今の年齢になるまでずっと悶々と自分のなかで戦いながら生きてきたと考えると、何とも言えないというか。
山路:ずっと保安官をしていたのかな?
チョー:どうでしょう。もしかしたら放浪とかしていたのかもしれない。
山路:まだ保安官になって間もない感じがしたもんね。
チョー:そうだと思います。放浪してズタボロのなかで拾ってくれた村で、ちょっと腕が立つから保安官を頼まれたのかも。それで、「せめてこの村のために、一肌脱ぐか」って気持ちになって、彼は動き出したんじゃないですかね。
山路:そんな真っすぐな役を俺がやるんだよ? 大変なことですよ(笑)。
チョー:いやぁ、ピッタリですよ。最初に聞いたときは、「山路さん、かたいなぁ」と思ったんです。でもそれが、全編通して見ると実に安定していて安心感があるんです。すげー!と思いました。
田村:声からして誠実でしたよね。
山路:俺だって、かたい役もやるんだから(笑)。
■純粋な奴らが腐った世の中をぶっ飛ばす爽快感が鳥山作品の魅力
――ラオの印象ついてお話がありましたが、シーフについてはどうですか?
田村:シーフはずっとかわいかったですね。
山路:かわいいよね。
田村:あのぼやきがたまらなかったです。
チョー:ぼやきのシーフですから(笑)。
田村:でも、文句言いながらもなんやかんや付き合ってくれて。しかも意外とノリノリ。
チョー:少年のような心を持っていますよね。
山路:ベルゼブブと車の操縦を取り合うシーンは最高だったね。
田村:そういえば、鳥山先生はメカとじじいがお好きらしいです。
チョー:へぇ、そうなんだ!
山路:メカとじじい! すごい関係だ。
田村:でも、今回の作品って確かにメカとじじいの魅力にあふれていましたよね。こんなにも登場キャラとキャストの平均年齢が高い作品は昨今あまりない気がします(笑)。いわゆる若者がほぼいない。そして、みんなキャラクターが濃い。
チョー:スイマーズだって年齢高そうだよ。パパや息子達を見ていると、色んな挫折を味わっているような気がします。
山路:確かに!
――ベルゼブブについてはいかがでしょうか?
山路:ベルゼブブもかわいいな。
田村:シーフとはまた違ったかわいさがありますよね。
チョー:演じてみてどうでした?
田村:結構大変でした。ベルゼブブって見た目は子どもなんですけど、年齢は2500歳で人間の善悪も色々と見てきたからか、少し大人っぽい感じもあるんです。それが私の声質でちゃんとカッコよさを出せているのかな?と思っていました。メリハリを付けるのが難しかったという感じです。
チョー:なるほどね。でも、逆にメリハリが付いてないから、よかったんじゃないかな。ピッタリじゃんと思いましたよ。
山路:ブラボーだったね。
田村:ありがとうございます! チョーさんや山路さんとやり取りができたからよかったのかも。
山路:あの3人のやり取りは漫才だよね。往年の漫才トリオを見ているような。
チョー:チャンバラトリオとかね。漫才トリオには真面目な人がひとりはいることが多いのですが、ラオはまさに真面目ポジション。
山路:確かに、昔の漫才トリオには真面目ポジションがいたよね。
チョー:ナンセンストリオもそうです。みなさん、知らないでしょうね(笑)。今回は、サンドランドトリオですよ。
田村:ラオが真面目ポジションだとすれば、ベルゼブブとシーフはどっちがツッコミですか?
チョー:どちらかと言うと僕(シーフ)だと思います。王子は天然なので。僕のほうが、気が付けばツッコんでいるという。
田村:序盤で変な格好の盗賊団が出てきたときに、ベルゼブブが笑うんですよ。でもシーフが、「方向性は似てますぞ」と言っていたのがツボでした。あのやり取り、最高です。
――最後に、本作に関わってみて改めて感じた鳥山先生の作品の魅力や面白さについて語っていただければと思います。
山路:作品全体から、すごく愛情を感じました。それこそ、今日のインタビューで話が出たようにあらゆる種族に愛情を持っているというか。先生は深い方だなと思いました。
チョー:ここまでじじいをしっかり出してくださる、じじい愛が本当に嬉しいですね。ラオの年齢を感じる首筋や頬のコケ具合、いいですねぇ。先生のじじい愛に感謝です。
田村:物語の後半では、見た目がちょっとグロテスクな敵が出てきます。そいつに対してもベルゼブブはちゃんと対話しようとして、何とか助けられないかという気持ちがあるんです。ラオも魔物たちを見て、会話をすることで「話の分かる奴だ」と思っています。共存し合っていこうという気持ちが出ていて、愛に溢れているんですよね。そして、純粋な奴らが腐った世の中をぶっ飛ばすという爽快感が、鳥山先生の作品には詰まっていると思います。見ていて、気持ちがいいです!
(取材・文:M.TOKU 写真:高野広美)
映画『SAND LAND』は、全国公開中。