日本ラグビー界のレジェンド・平尾誠二さんと、ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥博士の知られざる友情を描く『テレビ朝日ドラマプレミアム 友情~平尾誠二と山中伸弥「最後の一年」~』(テレビ朝日系/11月11日21時)。俳優の本木雅弘滝藤賢一が、40代半ばから始まり、平尾さんが突然の病でこの世を去るまで続く、2人の男性の友情と深く尊い生き様を体現する。

平尾さん役での出演オファーにはじめは躊躇したという本木に、“平尾誠二”という男に感じた思いなどを聞いた。

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◆出演オファーに躊躇も 魅力あふれる人柄に惹きこまれる

 日本代表としても活躍した元ラグビー選手で、名実ともに“ミスター・ラグビー”と呼ばれた伝説のラガーマンと、2012年に「ヒトiPS細胞」の研究でノーベル生理学・医学賞を受賞した医師。全く異なる分野で活躍する2人は、2010年に雑誌の対談で出会い、意気投合。急速に親交を深め、やがて家族ぐるみの付き合いをする親友となる。そんな2人に2015年、平尾へのがん宣告が降りかかる。

 本作では、前向きに病と闘う平尾と、医師として治療法や病院探しに奔走し、最後まで親友に寄り添い続けた山中の友情、そして平尾の意志を尊重し、優しく見守り続けた家族の深い愛情を描き出す。
本木、滝藤のほか、石田ゆり子吉瀬美智子佐久間由衣坂東龍汰、賀来千香子、濱田岳山下真司倍賞美津子ら実力派が顔をそろえる。

 本作の第一報が解禁された際は、平尾さんにふんした本木の憑依ぶりに、SNSでは驚きの声があふれた。しかし、当の本人によると、出演オファーを受けた当初は、「自分の中では、白洲次郎さんや平尾誠二さんみたいな方には絶対に手を付けちゃいけないと(笑)。ああいう特異なオーラを持ってる人というのは再現のしようがない。見た目だけでなんとなくってやっても、あのエネルギーの大きさというのは出せないんですよね。抱える分だけ空回りして損するかなというのが正直なところで」と苦笑い。


 亡くなってから日が浅いということも躊躇の理由だったというが、「平尾さんはもちろん生きている時からレジェンドで、亡くなって普遍的なアイコンとなった今でもやっぱり平尾さんの本物というのは500倍かっこいいですからね。それはもう動かぬ刻印として残っているものだから、わざわざ自分が演じて汚したくないと思ったのですが、今回のドラマは、山中さんとの友情のお話であり、知られざる闘病の一年にフォーカスしているので、それならなんとか表現できる余地があるかもしれない」と大役を引き受ける気持ちとなった。

 「山中さんの原作本を読ませていただいて、お2人の関係性の心地よさに興味が湧いたし、闘病の物語でありながら、ある意味、生きる勇気が湧いてくるような、じわじわした力のある題材だなと思ったので、序々にその魅力に惹かれていった感じですね」。

 「もちろん存在は存じあげていましたが、お会いしたことはないですし、スポーツに疎いというのもあって」詳しくはなかった。「それでも、スポーツニュースで平尾さんをちょっと見かけると、やっぱり目をひいてしまう華やかさがあったという印象が残っているんですよね。そういうスポーツで名を馳せている人というのは肉体的にも存在感があるから、勝手に、“硬派な平尾さん”、“軟派な生き方をしている自分”みたいな変な劣等感が生まれちゃって(笑)。
とにかく同性としても憧れてしまうくらいの力があった人だなという記憶があります」。

 今回の出演にあたり、平尾さんについて書かれた著書をたくさん読み込み、人物像に迫った。「とにかく皆さん口をそろえて、平尾さんの洞察力、判断力、そして、向上心がずば抜けていると評価するじゃないですか。そこにも納得するものがあり、山中さんの言葉を借りて言えば、レジリエンスの塊。対応力、しなやかさの塊という意味です。自らに目標や責任を課して鍛錬されていく中で身についていく力を信じ、最後までその精神を体現した姿を知って、ますます好きになりました」と熱く語る。


 「いちいちの話が新鮮で、平尾さんの有名な言葉の中に、そもそも“チームワークは助け合いじゃない”っていうのがあるんです。助け合うものではなく個の集団なんだって。個々が、それぞれの役割を理解し果たして初めて、それが集積してチームという計り知れない力が働く。スポーツに限らず何事も外圧的な力には限界があり、人は内発的に生じるもので強くなっていく。そこを鍛えたり、導いたりすることが大事。強くなろうとする意志とか、やる気とか、そういうことですよね。
年齢に関係なく、他のあらゆる職業にも通じることだし、個のクオリティを高めることで、組織・社会を強くしていくってこと。だから平尾さんの言葉っていうのは多くの人に響いたんだろうなと、遅ればせながら知ることになり、それがとても面白いんです」。

◆平尾さんの中に感じた“ノブレス・オブリージュ”

 今回、闘病する平尾さんの姿を演じるために、役にのめり込むことでは定評のある本木だけに徹底した役作りを行った。

 「平尾さんはご病気の最中も、講演の仕事を引き受けたり、解説をしたりと、痩せてる理由がガンということは明かさず、表舞台に出続けられた。もし自分だとしたら、その変化した見た目が晒されていくと精神がもたないと思うんですが、平尾さんは好奇な目で見られても、自分の役割や立ち位置がブレずにいました。

 痩せているお姿の写真もあったので、そういうのも感じつつ、撮影をしながら3週間でその姿に近づくことが私に課されたことでした。
顔はゲソってするのにも限界があるんですよね、体のほうがよっぽど痩せたんですけど。とにかく3週間で10キロ減らすのを目標にして、当初71~72キロあった体重を、60~61キロくらいにと目指しました。具体的には、ジュースクレンズっていって、ファスティングですね。半断食。あとは、合間合間に有酸素運動を入れていく」。

 必死に取り組みながら、ある思いも抱えていた。

 「自分は期間限定でゴールに向かい、それが終わればなんでも食べられると思ってやっているわけじゃないですか。それと実際の闘病で本当に内側から枯れていくような痩せ方というのは全然違うんだなというのを痛切に感じましたね。だから、その意味で、病魔の恐ろしさを思うとともに、そういう中でも、あんなに自然体でいられたという平尾さんのすごさを改めて感じることになりました」。

 さらに、「いろいろな人の証言の中で、華やかで悠々として、動じなさがあり、いい意味で自分のスター性をきちんと活用できる人ではあったけども、元々の平尾さんが持っている性質はとても繊細で、シャイなところがあるそうなんです。本来的には自ら進んで表に出ていきたがる人ではない。親しい方も、晩年あの姿をもってしても表に出ていくという強靭さはどこからくるのか謎だったというお話を読みました。それは、欧米でいう、“ノブレス・オブリージュ(noblesse oblige)”、地位ある者は社会的にも果たす責務があるはずという考え方です。それをまっとうしたんじゃないかと解釈されたそうで。つまり、ラグビー界の未来のために最後の最後まで身を捧げようと思われたんじゃないか。病気に向き合うと同時にその覚悟を決めたんじゃないかと。さらに心を動かされました」と気持ちを寄せる。

 「平尾さんが言うように、個々に目標を設定して、そこに全身全霊向かっていくという姿勢が大事なのではないかと。ダイエットはそこまでのこととは言えませんが、平尾さんを演じる上で、最低限の礼儀として自分がカメラの前に立つ時に課すべきプロセスだと思いました」。

◆闘病生活の中でも“らしく”存在した平尾さんの姿を伝えたい

 思いがあふれる本木だが、平尾さんと自身は全然違うと語る。「自分が一番かけ離れているのは、自由度の高さですね。平尾さんは視野も広くて、自身と世界がつながっている感じというか、地中のマグマからジワジワ地熱があふれ出てきているような、包み込むような温かさを持った人ですよね。自分はやっぱり自意識過剰で、ネガティブ志向なんで。内向きに世界を狭めるから自由度も低いんですよ。抑え込んでいる分だけ、パンって反発したときに跳ねるパワーはあるとは思っているんですけど(笑)」。

 「今回、病との向き合い方にも、平尾さんらしさを貫かれていたというのはこの物語の肝だと思うんですね。何事も受け入れて、きちんと感じて咀嚼して、自分で落としどころをつけていく。山中先生も家族もその意思を尊重し寄り添う。葛藤が伝わるというより、互いに思いやりが対流している。そういったものをそっと覗けるようなドラマじゃないかなと思います。山中教授曰く、ある意味最後の闘いが最も格好良かったと…。実際闘病生活のことはあまり公にしていなかった時間だけれども、そこにも平尾さんはちゃんとらしく存在していたっていうことを親しい皆さんや、ファンの方々にも確認していただけるような作品になっているんじゃないかと思います」。

 知れば知るほど、その人間力に感慨を覚えたという本木。40代半ばから始まった山中教授との友情についても、「あんな多忙で、すでに立場のあるお2人ですが、その分抱えている孤独は大きかったんじゃないかなと思うんです。世界的に注目されて影響力のある2人ですから、周囲に弱みや悩みを打ち明けるということも難しかったでしょうし、どこかで同じような経験をしているということに共感と親しみを感じそれで利害関係なしに、一気にギュッと絆が深まったんでしょうね。

 そしてやっぱり、客観的に結果から見た話ですが、山中先生と出会い、病と向き合う伴走者になってくれたということは平尾さんにとっても救いであったわけで。その意味でも平尾さんが、自分らしく、魂を磨くというパフォーマンスを最後まで達成できるように、運命、神様が送った使者が山中さんだったんじゃないかなって。絆を育んだ期間は僅か6年間。もちろん平尾さんの歴史の中には、特別な出会いをした方は多いとは思いますが、最後の存在という意味で山中さんは選ばれた人だったのだと思います」。

(取材・文:編集部 写真:高野広美)

 『テレビ朝日ドラマプレミアム 友情~平尾誠二と山中伸弥「最後の一年」~』は、テレビ朝日系にて11月11日21時放送。