面白そうなドラマが目白押しな2024年の1月期。数ある作品の中には、“共通点”を持つ3作が。

そこにあるのは、「おっさん」の存在だ。今回は、冬ドラマの中でも「おっさん」に焦点を当てた3作品『おっさんずラブ‐リターンズ‐』(テレビ朝日系)、『不適切にもほどがある!』(TBS系)、『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(フジテレビ系)について、改めておっさんたちが放つ魅力について紐解いていきたい。

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■『おっさんずラブ‐リターンズ‐』かわいくて笑えて、でも切ないおっさん“武蔵”に注目

 「おっさん」と聞けば、やはり真っ先に頭に浮かぶのが『おっさんずラブ』シリーズだろう。5年の時を経て、あの話題作の続編がいよいよ『おっさんずラブ‐リターンズ‐』として帰ってきたのだ。2018年放送の『おっさんずラブ』は、結婚したいのにモテない独身サラリーマン・春田創一(田中圭)が、ある日突然、ピュアすぎる乙女心を持つおっさん上司・黒澤武蔵(吉田鋼太郎)と、同居中のドSなイケメン後輩・牧凌太(林遣都)の2人に告白されることから物語が始まった。そして今回の『おっさんずラブ‐リターンズ‐』では、これまでのエピソードのその後が描かれる。第1話では、ラブラブ新婚生活を送るはずの春田と牧の家になぜか武蔵が家政夫として派遣されたことで、大波乱となる。

 本作での「おっさん」といえば、やはりキラキラまぶしすぎる春田と牧ではなく、武蔵のほうを取り上げたい。世の中の人が想像する威厳溢れたおっさんを想起させる見た目とは相反して、最強のかわいさを持つのが、この武蔵だ。『おっさんずラブ』で春田と牧が結ばれたことから、武蔵は苦しい思いをしていないかと心配する中、スーパー家政夫として春田の側に舞い戻ってきたことに安堵(あんど)した。牧と武蔵の戦いも変わらず続いており、この3人だからこその『おっさんずラブ』の空気感に、さっそく心を鷲づかみにされる。さらに武蔵はかつての部長として、また、最高ランク“ユニコーン”家政夫としてのスキルの高さを持っている。
「おっさん」の最大の魅力といえば、やはり生きてきた年数が違うが故の経験値の高さ。武蔵の頼れる仕事ぶりに思わずときめいてしまう。「なぜまた呼び寄せた」と商店街で絶叫する件(くだり)は、笑えるはずのシーンにも関わらず思わず目の奥が熱くなってしまった。

■おっさんゆえの生きづらさにもがく『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』

 「おっさん」の経験値が仇となることも。スタートしたばかりの『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』では、世間の古い常識や偏見で凝り固まった中年男・沖田誠(原田泰造)が息子の不登校をきっかけに価値観をアップデートしていく様を描く。誠は、これまでの自分の生き方や価値観が正しいと信じ、傷つけるつもりもないのについデリカシーのないことを連発してしまうというキャラクター。その生き方は、かつて仕事の先輩から教わってきた体育会系の価値観で凝り固まり、口をひらけば「女性はこうあるべき」「男はこうあるべき」と古い常識を撒き散らす。人生経験が多いが故に、なかなか自分を顧みることができないのだ。だがそんな誠も、息子の友達である大地(中島颯太)との出会いを通して考え方を変えようと思い始める。

 原田泰造のコミカルな芝居は旧態依然とした「おっさん」像に嫌悪感ばかりが募らないよう、絶妙な可愛らしさも兼ね備えている。ささいなツッコミシーンでは芸人らしい巧みなテンポとトーンが活きる。コロコロ変わる豊かな表情からは、おっさんでありながらどこかピュアな魅力さえ感じられるのだ。
さらに階段から落ちそうになった後、安否を聞かれた誠が足首をグルグルと回して無事を確かめる仕草を遠くから捉えたショットでは、誠が実は素直で気持ちの良い人間であることがうかがえる。誠というおっさんが徐々に価値観をアップデートさせて素直になっていく姿は、筆者をはじめとしたおじさん・おばさん予備軍の30代にも響くことだろう。さらに誠と大地の交流は、20代やZ世代におっさんとも対話をしてみようと思わせるきっかけになるかもしれない。

■昭和のおっさん、令和へ! 『不適切にもほどがある!』

 そして最後は、1月26日から放送開始の『不適切にもほどがある!』だ。昭和のおじさんが令和にタイムスリップしてしまったらコンプラギリギリの不適切発言が飛び出すだろうという本作もまた、おっさんの価値観を問う作品になりそうだ。脚本は宮藤官九郎が、主人公の小川市郎を阿部サダヲが演じることから、コメディ色の強い作品になることが期待される。さらに市郎は体育教師で野球部の顧問という、絵に描いたような体育会系おっさんだ。令和の若者にとってはまさに異次元の存在に感じるのではないか。

 そんな市郎に期待するのは、厳しさだけじゃない“愛嬌”の部分。おっさんの中にある喜怒哀楽や、もがき、再生など、様々な心の動きこそが人としての愛らしさに繋がっていくというもの。いくら昭和のおっさんと言っても、不適切発言だけのおっさんでは視聴者も素直に楽しめない。“それでも応援したくなるおっさん像”こそが、令和のおっさんに求められる姿なのだろう。


 テクノロジーは進化し、世の中の動きが激化し、価値観は急速に変化した。SNSが広く使われるようになり、意見交換の機会や、他者の意見を見聞きする時間も増えた。そんな令和だからこそ、今までの知見をシェアしてくれる存在は貴重だ。そこで、「知見のあるおっさんが視野を広げる」という物語や、「おっさんの隠れざるかわいらしさ」にフォーカスした作品は、おっさんに隠されたポテンシャルを最大限引き出しているとも言える。3つのおっさんドラマを通して自分たちもまた素直に、伸びやかに生きていこうと将来に希望が持てた。(文:Nana Numoto)

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