知る人ぞ知るドラマから、全国区の人気へ。2019年にスタートし、今や3シーズンを超えた学園食育エンターテインメントドラマ『おいしい給食』。

ついに劇場版3本目となる最新作『おいしい給食 Road to イカメシ』が公開を迎えた。これまで老若男女幅広い人気を獲得してきた本作で描かれるのは、市原隼人演じる給食を愛する教師・甘利田幸男と、ライバル生徒との間で繰り広げられる熱い給食グルメバトルだ。シーズン3と今回の劇場版では、これまでドラマを盛り上げてきたライバル生徒・神野ゴウ(佐藤大志)から、田澤泰粋演じる新ライバル・粒来ケンへとバトンタッチされ、ドラマの舞台も函館へと移った。市原をして「甘利田同様、毎回負けた」と言わしめる田澤とはどういう存在なのか? 毎回並々ならぬ覚悟で本作に臨む市原、そして重圧に耐えて粒来を演じきった田澤に闘いの裏側を聞いた。

【動画】「これちょっとピーかな」 市原隼人&田澤泰粋が明かす『おいしい給食 Road to イカメシ』撮影秘話

■新たなライバルが田澤泰粋で本当に良かった

――早速ですが、田澤さんがドラマより少し大人になられたような…。

市原:今、何歳になったんだっけ?

田澤:15歳です。


市原:現場の時は14歳だから、ちょっと大きくなってます(笑)。

――シーズン1、シーズン2には神野ゴウという素晴らしいライバルの存在があり、田澤さんは新しいライバルとして臨むことになったわけですが、プレッシャーはありましたか?

田澤:そうですね。『おいしい給食』のシーズン1と2を見て、本当に素晴らしい作品だと思っていました。そしてシーズン3に自分が出演することになって、どうすればいいのかということを台本を読みながらずっと考えていて…。でも市原さんが現場で声をかけてくださって、撮影が楽しくなりました。粒来ケンとして何ができるか、最大限に頑張りました。


市原:やっぱりこの年齢ならではの等身大の姿が、僕はすごく愛おしくて。泰粋は本当に勉強熱心で、台本が付箋だらけなんです。監督が何か言ったらそれに答えようとすぐにメモする。シーズン1の神野ゴウとは違う魅力をまとった素敵なライバル役として参加してくれて、(新たなライバルが)田澤泰粋で良かったと心から思いました。

――粒来ケンという役はおっとりしていて、掴みどころがないタイプのキャラクターだと思います。市原さんから見た田澤さんはどんな俳優でしたか。


市原:本人も潜在的にそういう柔らかい部分と言いますか、どんな人にも愛されるものを持っているんです。それと同時に、何かを言われて取り組むのではなく、全て自分から取り組んでいく。すごいなと思ったのは、「このパンは、パンを顔に近づけた方がいいですか? 顔をパンに近づけた方がいいですか?」って自分から質問するんです。俯瞰(ふかん)で自分を見ていて、やるべきことを分かっていて、責任感を持っている人だと思います。他の生徒がワイワイ楽しんでいるところでも、やっぱりメインの役どころとしてより緊張感を持って現場に臨んでいる。そうやって役を全うしてくれたことに心から感謝しています。


■田澤発案の演技に市原も脱帽

――ケンは給食のアレンジを思いついた時、雷に打たれるような派手な演出があります。あれは田澤さん自身が考えついたそうですね。

田澤:台本に「雷に打たれる」と書いてあったんです。それでどうすればいいか考えたのですが、普通じゃ面白くないので、雷に打たれながら白目をむくというのをひらめきました。台本の読み合わせの時にやってみたり、家でもずっと練習したりしていました。

――市原さんは、初めてそれを見た時はいかがでしたか?

市原:台本に甘利田もそうなるって書いてあるので、僕もやらないといけないじゃないですか(笑)。
どんな風にやってくるのかなと思っていたら、そうきたかと(笑)。今までの『おいしい給食』にはない新しいリアクションですよね。勉強させていただきました。

――現場ではどんなやり取りをしましたか。

市原:ハードな現場で時間もなかったのですが、濃密な時間を過ごせたと思います。彼(田澤)の表情を撮る時、僕がカメラに映らないところで芝居することがあるんです。
その時も自分が映る時以上の気持ちを出して、次はどうくるのかな、どうするのかなって、常に泰粋の芝居に期待しながら見ていました。すると無垢な表情や可能性にあふれた芝居をするので、これには勝てないなと。甘利田と同じように、僕も毎回「負けた」と思っていました。

――『おいしい給食』の大きな見どころといえば、市原さんのダイナミックすぎる動きだと思います。劇場版では、田澤さんは目の前にスライディングされ、机ごと至近距離に近づかれたりもしますよね(笑)。あの瞬間は笑ってしまいそうになりませんでしたか?

田澤:なりました。他の生徒もみんな笑いそうになっていましたし、綾部(真弥)監督もすごく笑っていたので、つられちゃうなって。本番はなんとかこらえて…でもあんなにダイナミックな動きをする市原さんは本当にすごい俳優さんだなって思います。

――皆さんで頑張って笑いをこらえようぜ、みたいな感じでしたか?

田澤:そうですね。「あんなの笑っちゃうよね」って休憩中とかにみんなと話していて。どうにかして違うところを見ないといけないとか、そういうことを話し合っていました。

市原:悩んだこともあったよね。動きに微妙な調整があって、(田澤のところに)椅子に乗って1回でたどり着かないといけなくて、ベストポジションに行くために何回かテイクを重ねたんです。自分でやりながら、「うわ、シュールな現場だな」と思いました(笑)。みんな笑いをこらえてくれていて。周囲が楽しんでくれている姿というのは、何より僕の力になるんです。

■函館の豪華メニュー 思い出の給食は?

――シーズン3と今回の劇場版は函館が舞台ということで、給食がとても豪華になりましたね。好きなメニューだったり、印象的な料理はありましたか。

市原:もう全部に思い出がありすぎて選べないです。僕は毎回給食のメニューに対して一つ一つ動きをつけて、とにかく動かないといけないので、それぞれの思い出が濃いです。泰粋は何かある?

田澤:7話のカレースープのシーンですね。お米をナンにするという。あれは新しい発想だなって、まず台本を見た時に思って。実際に食べてみてもカリカリですごくおいしかったので、家でもやってみたいと思いました。

市原:ナンね。ストーブがある北海道ならでは、「そんなバカな」のアレンジ(笑)。

僕は選べないのですが、思い出という意味では9話のカニ飯です。同僚の比留川先生(大原優乃)のお父さんが学校へいらっしゃる回。彼女の教育係である甘利田がどんな人間か視察しに来るんです。だから甘利田としてはおとなしく食べないといけない回なのですが、カニ飯への思いがあふれすぎて、つい給食で舞ってしまうという。あのシーンは、実はすごくカットされていて…もっとたくさん動いたのに!みたいな(笑)。

――田澤さんは、自分で演じる粒来ケンを見て、すごいなと思う食べ方はありましたか?

田澤:4話のくじら汁を使ったお茶漬けですね。まずおこわにして、そこからおにぎりにして、さらにお茶漬けにするという3段階のアレンジ。「粒来ケンすごいな!」って演じていて思いました。

■失敗できない“イカメシ”シーン

――今回の劇場版はイカメシが登場します。輪切りになっていないイカメシを箸で持つのは大変ではなかったですか?

市原:めちゃくちゃ大変でした(笑)。これはもう『おいしい給食』ならではであり、5年間かけて培ってきた絆だと思うのですが、衣装部、メイク部、照明、録音、制作、美術部、撮影部、さまざまな部署が部署を飛び越えて仕事をしていて。第5話にプリンをお皿に落とすカットがあるのですが、かなり壮大な落とし方をするんです。プリンも固め、ちょっと柔らかめとか、素材が違う物を用意して。やっぱり何回か失敗してしまったのですが、それをあーでもないこーでもないと、大の大人がみんな前のめりになって、もう少しこうした方がいいんじゃないかって、モニターを見ながら意見を言い合うんです。部署の垣根を越えて、家族みたいに。そんな姿が僕はすごく好きで。

イカメシの時も同じでした。みんなでこう持った方がいいんじゃないか、こういうイカの方がいいんじゃないかとか。イカも含めて、海鮮は北海道から仕入れた物を使わせていただいていますから、しっかり大事に見せないといけない。イカの中にもエースというか、様々な形がありまして、きれいな造形を持つイカがいるんです。これがイカのイケメン、エースと名前を付けたりしていました。当然、エース級は数も少ないですし、何回も使うとやっぱり崩れてしまって。だから「これしかないので成功させてください」って言われます(笑)。

■変わらない甘利田を見てほしい

――田澤さんは、現場では聞けなかったけれど、今こそ市原さんに聞いてみたいことはありますか?

市原:何かある(笑)? もしあれば何でも聞いて。

田澤:校歌を歌っている時の振り付けとか、毎回用意されているんですか?

市原:もちろん自分で考えているよ。全てイメージして、動きを作って、給食の食べ方も考えて。今まで結構な数の作品をやってきたけれど、1番ハードだよこの作品が。でもやっぱり楽しいんだよね。こんなに皆様に熱望していただける作品はなかなかないし、僕もお客様に何か恩返しをしたいと思って芝居をする。「あ、本来役者ってこういうものなんだ」って。

『おいしい給食』はシーズン1で本当にたくさんのお客様に続編を作ってほしいという声をいただいて、シーズン2を作ることができました。そしてまた続編を見たいという声をいただけた。だから精一杯、もう完全に振り切って、笑わせたいというより笑われたい、滑稽(こっけい)な姿を見せて笑われても、好きなものを好きと謳歌(おうか)して、人生を精一杯生きている甘利田先生の姿を見ていただきたい。そんな思いで校歌も、今できる全てを尽くしてやっていました。みんなの前でやるのは恥ずかしかったけれどね(笑)。

――確かに校歌のシーンは毎回振り付けが違いますよね。他の生徒役の皆さんと市原さんの校歌の踊りの話はしましたか?

田澤:しました。「やっぱり笑っちゃうよね」って。かなり必死に笑いをこらえているのですが、あの振り付けはダメだろうみたいな(笑)。

市原:(笑)。

――最後に劇場版を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。

田澤:市原さんをはじめ、豪華な俳優陣と最高のスタッフが今まで作ってきた『おいしい給食』という作品のシーズン3、そして劇場版に参加させていただくことができました。今回作り上げた作品を多くの皆様に見ていただけたらと思います。ぜひ劇場でご覧ください。

市原:続編を作るにあたって、その意義というものを考えていたのですが、それは“変わらない甘利田でいること”だと思いました。シーズン1から滑稽な姿を見せても、恥ずかしい思いをしても、甘利田は人生を謳歌するんです。明日も人生を楽しむんだ、給食のために、自分が好きな物のために全力を尽くす甘利田先生を見ていただき、そして大いに笑っていただき、ぜひ人生の活力にしていただけたらうれしく思います。舞台が1980年代ですので、今、日本が忘れかけているような古き良き心というものが込められています。そして人生の糧となるようなセリフもたくさんありますので、ぜひ劇場でお楽しみください。

(取材・文:稲生D 写真:上野留加)

 映画『おいしい給食 Road to イカメシ』は、全国公開中。