ついに、“ファイナル”。約30年の間、イーサン・ハントとして数々の“不可能”を“可能”にしてきたトム・クルーズの集大成が詰まった『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』の先行公開が本日からスタートした。
“エンティティ”と呼ばれる高度なAIに人類は脅かされ、起こりうる最悪なプロットとして前作で語られてきたことが、現実になろうとしている。チームは再び人類滅亡を阻止するために奮闘。しかし、イーサンはこれまでのミッションとその結果、報いに向き合わなければいけなくなる。シリーズ史上最大のスケールと予算で作られた『ファイナル・レコニング』。そんな本作でパリス役を前作から続投するポム・クレメンティエフがインタビューに応じ、アクションシーンや撮影の裏側について赤裸々に語った。
【写真】ポム・クレメンティエフ、へそ出しルックで鍛え上げた腹筋をチラ見せ!
■2作を通して役に起きた変化
──『ミッション:インポッシブル/デッド・レコニング』から本シリーズに参加していますが、改めて2作連続で出演されたご感想は?
ポム・クレメンティエフ(以下、ポム):本シリーズに参加できたことは本当に光栄でした。続けて『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』では私の演じる役、パリスにより奥深さが出たと思います。他のキャラクターとも、より多くの関わりを持つことができたので、改めて本作に出演できたことはうれしかったです。
──奥深さが増した、とのことですが改めて前作では非情な悪役だったパリスが、ラストにイーサン・ハント(トム・クルーズ)を救っていましたね。今作ではどのような変化を迎えて再登場するのでしょう?
ポム:本作でのパリスはガブリエル(イーサイ・モラレス)にされたことに対して、復讐心を燃やしているという設定から始まります。もちろん、映画全体を通して彼女のキャラクターの美しい成長過程を見ることもできますよ。
──作品を拝見しましたが、パリスを演じる上での繊細な表情やアクションの動きに圧倒されました。
今作における役作りで注力したことは何ですか?
ポム:パリスを演じることは、非常に要求も多くて、厳しい仕事でした。たくさんのトレーニングが必要ですし、シーンを何度も何度も繰り返し撮るために、体力面で準備ができていなければいけなかったんです。とにかくその瞬間に集中することが大事でしたね。私はとても几帳面で、そういう厳しい状況や自分自身に挑戦することも好きなんです。特にスタントチームには本当に助けられました。何より素晴らしい共演者もいたので、テイクの合間も含めて撮影時間がとても楽しかったです。
──前作でもパリスが列車の上を走るなど、目を見張るようなシーンがいくつもありました。本作でのアクションシーンや撮影時において、何か印象的だったエピソードはありますか?
ポム:本当に大変で(笑)、技術的にもすごく難しかったけど、とても楽しかったです。そこが気に入っていますね。「ミッション:インポッシブル」シリーズの素晴らしいところは、最高のものを作り上げるために、製作陣が本当に時間をかけてくれるところです。だから、随所で出演者みんなの意向が尊重されているんです。
例えば(クリストファー・)マッカリー監督とトム(・クルーズ)は、私が自分の演技や戦闘のコリオグラフィー、動きに満足できるように気を配ってくれました。
衣装についても何度も話し合って、私とマッカリー監督の絶え間ない会話の成果が映画冒頭のシーンに登場するクールな装いでご覧いただけます。
──最初の登場シーンのタンクトップと黒のスキニーパンツの衣装のことですよね?
ポム:そうです! 私から監督にアイデアを提案することもありました。「こうでもない、ああでもない…」と、お互いを刺激し合いましたね。完璧なものにするために何度もフィッティングもしています。衣装も、1センチの違いで物語が大きく変わるんです。『ミッション:インポッシブル』の現場は、監督だけが自分の意思で何か決めることは決してなく、私たち出演者が望むものを作ることが重要でした。常に協力的なプロセスだったことに、本当に感謝しています。
──素晴らしいですね! ハリウッド映画の制作現場において、監督がそこまで協力的なことはよくあることなんでしょうか?
ポム:いえ、普通のことではないと思います。運が良ければ、それが普通と感じられるかもしれませんが……。ただ、一部の監督はやはり「これが自分のやりたいことだから、これでやる」と決めつけて強引に進めることもあり、私はそういう監督とは一緒に仕事をしたことがないですが、そういった作品作りは少し悲しいですよね。でも、マッカリー監督の場合は全然違いました。
■「全てを“本当に”やっている」 壮絶アクションの裏側を赤裸々告白!
──スパイク・リー監督による『オールド・ボーイ』出演を機にハリウッドに進出し、その頃からボクシングやテコンドーのトレーニングを継続的に行っていると伺いました。
前作の『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』出演の際も一年前からマーシャルアーツの訓練をしていたとのことですが、本作においてはどのような準備をされたのでしょう?
ポム:本作のためにも、たくさんのトレーニングを積みました。インターバルを使ったトレーニングと、上り坂のランニング、筋力トレーニング、ピラティスのトレーニングを組み合わせました。また、良い姿勢と体幹を強く保って、撮影中に膝や足首のけがなく過ごせるようにしました。シーンを何度も繰り返し演じなければいけないので、持久力と爆発力がとにかく必要で、健康的な食事を摂ることも重要でしたね。今回は私をトレーニングしてくれたトレーナーさんが料理も作ってくれたので、それが本当に役立ちました。それからスタントのチームワークも本当にすごくて、パンチやキックなどファイトシーンの振り付けのリハーサルは、とにかく私が“燃え続けるよう”にしてもらえました(笑)。
──劇中、文字通り“燃えて”いましたもんね……!(笑)コテージのシークエンスは本当に「クレイジー」としか形容できないくらい、迫力がすごかったです。
ポム:『ミッション:インポッシブル』では、全てを“本当に”やっているんです。つまり、作中に火が見えたら、それはCGIじゃない本物の火です。あのシークエンスの撮影は一日中、何度も繰り返してやらなければいけなくて。冬の衣装を着用し続けているから、ずっと暑くて本当に大変でした。脱水症状にもなりそうだったし、とても疲れる作業でしたね。
劇中ではこの衣装とシーンは一度きりだけど、撮影自体は朝10時から夕方の5時まで、何度も同じことを繰り返す必要があったんです。すごく大変でチャレンジングな現場でしたが、一通りやり終えたら「やった、できた! みんな、お疲れさま!」って最高の達成感が味わえるんです。
──信じられません。全てが火に包まれていたので一回きりの撮影かと思っていました。
ポム:いえいえ、実際には2日くらいかけて撮っていたんです(笑)。それに頭突きや頭を使ったアクションをたくさんやると首が痛くなって、その後から筋肉痛になるから気をつけなきゃいけませんでしたね。
──本当に、言葉を失うくらいすごい現場ですね……!
ポム:もちろん、戦闘シーンも全部私がやりましたよ!
──素晴らしいです。特に難しかった動きなどありますか?
ポム:そうですね、バックロールの動きが難しかったです。特に手錠をつけた状態で狙いを定めるのが難しくて、なぜかというと“体が自分を守ろうとするせい”だったんです。回転している最中で体が危ない状態になるんですけど、すると無意識のうちに「やめよう、ただ安全な姿勢をキープしよう」と考えてしまうんです。まるで脳の中に小さな動物がいて、私はそれを説得しないといけないような感じで「危険でもやるぞ、絶対に大丈夫」って自分に言い聞かせて、「やろう!」と決意する必要がありました。そうすると体は「絶対にやめろ」って反抗するんですけど、最終的に「よし、やってみよう」って決心してくれて(笑)。
それで成功したんです。
■母国語はフランス語 トム・クルーズにも伝授
──本作でのセリフはほとんどフランス語でしたね。ハリウッドデビュー前は多くの仏語作品に出演されていたこともありますが、『ミッション:インポッシブル』のような大作で母国語を使って演技をしたことについてはいかがでしたか?
ポム:実は英語を話したかったけど、彼らが私にフランス語を話させたかったんです。だから私は「わかった、でも英語で答えるの?」って聞いたんです。フランス語に対して英語で答えるなんて、ちょっとおかしいから。そしたら彼らは「いいえ、私たちもフランス語を話す。だからあなたに教えてもらわなきゃね。助かる!」って言われました(笑)。
そこから、「こういう風に言えばいいよ」ってフランス語の話し方を他の出演者に教え始めました。何度もセリフを繰り返して、その音声を録音してボイスメッセージで送ったり。特にトムはすぐに何でも覚えるし、コツも掴(つか)む。フランス語もとても上手だからアクセントも完璧で、彼の言葉はとてもよく伝わるものでした。
──なるほど、ではみなさんのフランス語の発音指導をあなたが手伝ったんですね?
ポム:ええ。でも大変だったのは、マッカリー監督が英語で言うべき文章を考えてくれて、「これをフランス語で言える?」と言われたこと。私は「OK、でもうまくいかないよ」と答えるんです。だってそれって翻訳みたいなもので、当たり前だけど英語とフランス語って全然違うから。英語ってもっと効率的な言語なんです。英語は単語を少なくして、要点をストレートに言うんです。一方、フランス語はいろんな言葉を付け加える。日本語とちょっと似ていますよね? だから私は「うーん、このセリフ自体フランス語では通用しない」とか「いや、そんなことは言わない」とアドバイスをしていました。実際のところ、(アメリカ人とフランス人では)考え方や話し方がすごく違うから、全然違うことを言うんですよ。だから時々煮詰まってしまって、でも「ねえ、これってどう言えばいいかな?」なんてあんまり人に聞き回りたくないじゃないですか。だから全部自分でやろうとして少し大変でした。
──言語の変換はとても骨の折れる作業ですね。
ポム:もう、私が監督したと言っていいくらい!(笑)それは冗談ですが、いつか監督をしてみたいと思うこともあります。例えば手錠をはめた戦闘シーン。あそこのシーンをマッカリー監督はハイキックで撮りたかったんです。それは私にとっても長年やりたかったアックスキックのようなもので、すごくかっこいいんですよ。それを撮ったものをモニターで見たとき、「ああ、ここだとカメラの高さが足りないな。もっと低く撮ったほうが力強く見える」と、思いました。そのキックのために何年もリハーサルをしてきたし、格闘技のトレーナーとの会話をその時思い出したんです。
彼は「いつか、このキックを映画でやる日が来るよ!」と言っていて、だから私も「いつかこのキックを映画でやるんだ!」という気持ちで3年間練習してきた。思い入れが強かったんです。なので、まずiPhoneで試しに撮影してみて、「こっちのアングルの方がかっこいい」という角度を探して、「もう一度カメラを低くして、もっとパワフルに見えるように」と再撮影を判断してやり直しました。そうしたら長い間リハーサルしてきた甲斐がある、すごく良いものが撮れたんです。あれは本当に良い体験でした。
──迫力あふれるアクションシーン、お話を聞いてますます魅力が増しました。マーベル・スタジオ作品や、「ミッション:インポッシブル」シリーズなどハリウッド大作への出演が重なり、存在感を発揮していますが今後の展望について聞かせてください。
ポム:とにかく、ただ優れた監督と仕事がしたい。それが夢ですね。実はつい最近ギョーム・ニクルー監督と『Mi Amor(原題)』というフランス映画を撮ったばかりなんですけど、すごく濃密で美しい撮影だったし、素晴らしい人たちと一緒に仕事ができて、とても充実していました。本作は予算も少なくて、いわゆるインディペンデント作品だったから、『ミッション:インポッシブル』とは正反対な作品でしたが、こんな風にいろんなタイプの作品に挑戦し続けたいですね。
──最後に、『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』を楽しみにしていた観客に向けてメッセージをお願いします。
ポム:ただ、映画を楽しんで観てほしいです。配信を待つのではなく、大きなスクリーンの映画館で観てください。他の観客と一緒に体験する作品です。劇場で観ることを強くお勧めします。
(取材・文:アナイス/ANAIS 写真:高野広美)
映画『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』は、5月17日~22日まで日本国内先行上映、5月23日より日米同時公開。
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