27年もの間愛され続けてきたスピッツの名曲を原案とする映画『楓』に出演した、Travis Japanの宮近海斗。温かな声とオーラ、そして自然体の演技で、ヒロインのよき相談相手となるバーの店長を好演している。

その寄り添うまなざしと佇まいには、表現者としての新たな可能性が息づいており、観る者に特別な余韻を残す。俳優業でまた一つ扉を開いたという宮近は、「いろいろな経験をしてみたい」と未来に思いを馳せる。プレッシャーと闘いながら突き進む、彼の「今」。そしてTravis Japanとしての夢を語った。

【写真】柔らかい笑顔が素敵! 宮近海斗、ソロ撮り下ろし(3点)

■スピッツの偉大さを実感「携われてすごく光栄」

 『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)の行定勲が監督を務めた本作。事故で双子の弟・恵を失った兄・涼(福士蒼汰)が、ショックで混乱する弟の恋人・亜子(福原遥)を悲しませまいと、恵のふりをしてしまうところから物語は始まる。大切な人を失った者同士である男女が、切ない運命の恋を紡ぐ。

 スピッツの楽曲「楓」から生まれた物語だと聞いた宮近は、出演を「即決した」という。

 「いろいろな世代の方が、スピッツさんの曲と一緒に過ごしてきていると思います。今は映画や音楽に触れる機会や媒体も広がっていますが、そういった便利な時代になった今だからこそ、どの世代でも一度は耳にしたことがある楽曲を生み出しているスピッツさんの偉大さを、改めて感じています」と尊敬のまなざし。「『楓』が映像化されると聞いて、すぐに『出たいです』とお返事しました。出演すれば、いち早くどのようなストーリーなのか知ることができますから」と微笑みながら、「この作品に携われたことが、すごく光栄です」と喜びをにじませる。


 宮近が演じるのは、福原演じる亜子が通う店の店長、辻雄介。カウンター越しに食事を提供しながら会話を繰り広げ、亜子の気持ちを軽やかにほぐしていくような役どころだ。宮近が大事にしていたのは、訪れる人がリラックスできる空間を作ること。

 「雄介のお店はダイニングバーなので、お料理やお酒を楽しめる場所です。亜子さんだけではなくいろいろな方が来て、自分の経験したことや、日頃の重たいものを落として、リラックスしてまた生活へと帰っていくようなお店だと思うんです。亜子さんのためだけの相談所というわけではないので、きっといい意味でゆったりとしているのかなと。雄介がこういう生い立ちで、こういう理念でお店を建てて…と考えたら固まってしまうと思ったので、そこはあまり深掘りせずに。お客さんが落ち着いたり、何かを発見したりできる場所としてのリズムを大事にしながら、演技に取り組みました」と空気感から役作りに臨んだ。

■俳優業の醍醐味は? 変身した髪型にびっくり!

 亜子の相談相手となる雄介。聞き上手で、亜子も安心して彼に心を開いている様子が伝わってくるが、宮近は“聞き手”としての演技について難しさも感じたと語る。

 「映画の中で誰かが自分の気持ちを話していて、それを聞く人の姿を映すことになると、観客の皆さんも相談相手のような気持ちになって、話し手に耳を傾けることになると思います。だからこそ聞き手の立場にある場合、話している人のどの言葉で心が動いたのかなど繊細に考えないといけないから難しいなと思いました」と振り返る。


 続けて、「ダイニングバーの店長である雄介は、きっと話し相手によって接し方やキャラが変わるのかなと。お酒を飲んでにぎやかにしているお客さんが相手ならば、一緒になって楽しむタイプだと思うんです。亜子さんが優しく、繊細な人だからこそ、雄介も優しく耳を傾けることができた。亜子さんが、雄介が話を聞けるような雰囲気を作ってくれたおかげです」と、重要な役割も亜子役の福原と気持ちのキャッチボールをすることで演じ切ることができたと感謝を込める。

 料理を提供するシーンもあるため、所作を学ぶために「SNSで料理を作る動画を観たりした」そうで、「でもそういう動画って、料理を作っている姿ではなく、作られていく過程を映しているので、おいしそうな料理を見て、お腹が空いただけで終わりました」と苦笑い。フードコーディネーターから料理の盛り付け方を教わった宮近が、劇中ではおいしそうなポモドーロを振る舞う場面もあるので注目だ。

 撮影現場では行定監督をはじめ、スタッフともコミュニケーションを重ねた。「周りのスタッフさんが僕の表現を褒めてくださって、うれしかった」と賛辞をもらうこともあったそうだが、特に印象的な言葉は?と聞くと、宮近は「『髪型が似合うね』と言っていただきました」とにっこり。

 ふわりとしたカールスタイルの髪型が、特徴的な雄介。宮近は「僕自身、これまでにああいったスタイルはしたことがなくて。スタッフさんからは、『アメリカの少年みたいだね』と声をかけていただきました。自分でもすごく新鮮で、トイレに行って鏡を見るたびに『あ!今この髪型だった!』とびっくりしていました」と笑いながら、髪型で変身できることも俳優業の醍醐味だと話す。


 「今回は“アメリカの少年”という新しい引き出しができました」と楽しそうに目尻を下げながら、「いろいろな人間になって、いろいろなことを経験できる。それはお芝居の面白い部分だし、なんだか得をしているなと思う部分です。映像作品では監督さんやチームによって撮り方が違ってくるものだと思いますが、僕はまだそこまでの違いを感じられたことがなくて。いろいろな監督さんやスタッフさん、俳優さんと一緒に、これからも様々な経験ができたらうれしいです」とさらなる意欲をのぞかせていた。

■宮近海斗の「夢」、そしてTravis Japanの「夢」

 所属するグループ・Travis Japanは今年、全国8都市を巡るアリーナツアーに加え、2度目となるワールドツアーも敢行。宮近個人としてもバラエティ番組への出演や、本作では俳優としての可能性もたっぷりと感じさせるなど、多方面で目覚ましい活躍を見せている。そんな宮近に今の「夢」を聞いてみると、じっくりと考えながら「何もしていない時間があったとしてもプレッシャーを感じないくらい、頑張ること」という答えが返ってきた。

 「いろいろな人たちが僕らの活動を見守ってくれていて、それを通して『幸せになった』と言ってくださって。そういった中で今は、オフがあったとしても『何かしなきゃ』『どうしよう』『あれしなきゃ、これしなきゃ』と思ってしまうんです。『後悔しないために』という気持ちから来ているものだと思いますが、そういったプレッシャーを感じないくらい、自分の活動に自信を持てたらいいなと思います。いろいろなものを届けられるようになった先で、自分が何もしていなくても焦らずオフを過ごせるようになることが、今の夢です」。

 そして「Travis Japanとしては、もっともっと自分たちが発信するエンタテインメントをみなさんに楽しんでもらいたい」とキッパリ。
「ライブもそうですが、アルバムももっとコンスタントに届けられるようになって、供給数を上げてたくさんの方に楽しんでもらえるような活動をすることが、今の目標です」と語る。

 たくさんの幸せを届けたいという情熱を胸に、がむしゃらに走り続けている宮近海斗。インタビューの場でも、明るい笑顔でその場を盛り上げつつ、どんな問いにもまっすぐに応える姿からは、誠実な人柄が力強く伝わってきた。(取材・文:成田おり枝 写真:山田健史)

 映画『楓』は、12月19日より全国公開。

※「辻雄介」の「辻」は正しくは一点しんにょう。

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