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『四季折々 アタシと志木の物語』は、対人関係や仕事に漠然とした不満を覚えながら漫然と日々を暮らす主人公“アタシ”が、不思議な能力を備えた“志木”とともに、お年寄りの“最後の願い”を叶えながら、生きる意味を少しづつ見出していくファンタジー小説だ。作品は春、夏、秋、冬で4章に分けられ、総原稿量は全編で原稿用紙900枚にも及ぶ。
小説を書くに至ったきっかけについて、「読書がずっと好きでした。それに、コント師ということもあって、物語を作ることが元々性に合っているんです。だから僕にとってこれは自然な流れなんですよ」と振り返る。
「祖母が亡くなってから、“ああ、もっとこんな孝行をしてあげればよかったな”とか“おばあちゃんがもし今の時代に生まれていたら、もっと幸せだったかもしれない”という自分自身の思いから、自ずと着想は浮かびました」とヒデは語る。“アタシ”と“志木”のもとを訪れる依頼人である老人の願いはどれも、些細なことでありながら切実だ。
構想、執筆にそれぞれ4年間をかけた。その8年間をヒデはこう回想する。「作業はすべてケータイでやりました。最初はガラケー、そのうちにスマホ。
4つの章ではどれも、小説の主人公である“アタシ”と“志木”の2人はサポート役に回る。そして、依頼を持ち込んだ老人がメイン・キャラクターとなり、彼らの依頼に込められたエピソードとその願いが叶えられていくまでのプロセスが、柔らかくも芯のある文体でしっかりと綴られていく。適所にミステリー要素も含まれており、単なる“おとぎ話”では終わらない。
しかし、ヒデは「ストーリーラインは細かく決めずに書きました。生きる意味を見出しあぐねる“アタシ”は、僕自身と被る。
ストーリー、人物ともに魅力的な本作。ズバリ、映画化への意識について訊ねると「それはもう、是非!」と即答。ところが、悩ましいのはその配役だ。「正直、僕の中で“アタシ”の存在が大きすぎて、誰も思い浮かばないんです。でも、“アタシ”は現代の若者ならば誰もが共感し得るキャラクターだから、できれば定まったイメージのない新人の女優さんにやってもらいたいですねえ」と本音を漏らした。
パートナーの“志木”役は誰がいいかと訊ねると、「出来れば自分がやりたいけど、恥ずかしくて無理(笑)」と一蹴。相方のワッキーについても、「あいつはキャラが濃すぎて、他の役を食っちゃうでしょう」と苦笑混じりに答えた。
「手前味噌ですが、この執筆を経て、随分と腕が上がったのを感じる」と手応えを覚えるヒデに、次回作への展望を訊くと「実は、もう書いてます」とあっさり。更に今後について「本業はあくまでお笑い芸人。でもだからと言って、他に何かをやったらいけないわけではない。
最後に作品の最大の魅力について訊いた。「この物語では、多くの“死”が出てきます。でも、それを必ずしもネガティブなものとして捉えていないし、“老い”を忌まわしいものとしても描いていない。依頼人たちが願いを叶えて安心して死へと向かっていく姿に身近に触れながら、“生きる意味”をおぼろげながらも見出していく。これを読んでくださった方がそんな主人公に感情移入することで、“人間てなんかいいなあ”、“年を取るのも、悪くないかも”と思ってくれたら、作者としてこれほど幸福なことはありません」と力強く頷いた。(取材・文:川上ぽこひろ 写真:大崎えりや)
ペナルティ・ヒデこと中川秀樹の小説家デビュー作『四季折々 アタシと志木の物語』(竹書房)上・下巻は全国書店にて好評発売中。